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2019/05/13

荒野 伊良子暉造(伊良子清白)

 

荒 野

 

一むら薄穗にいでゝ、

人さし招く夕まぐれ。

古井のわたり雁がねの、

なくなる聲もあはれなり。

 

野中の末に一本の、

松の木立も物さびて、

佛をまつる草の菴、

いつの昔のあとならむ。

 

黑みはてたるみ佛は、

ねずみのはみし跡見えて、

かべにかけたる蜘蛛(さゝがに)の、

果がきをはらふ者もなし。

 

苔蒸す塚は並べども、

手向の水のあともなく、

露のやどりと成はてゝ、

訪ひくるものは嵐のみ。

 

かくも荒れたるこの菴の、

かくもさびしき夕暮に、

露けき草にそぼぬれて、

たゝずむ人や誰ならむ。

 

長き黑髮ふりみだし、

靑きころもをまつはりて、

やせたるおもは何となく、

凄き姿に見ゆるなり。

 

かしらにともす灯の、

むねの炎の燃え上り、

物狂はしき聲立てゝ、

彼方こなたを叫ぶなり。

 

敏鎌を硏ける三日月の、

光は細くきらめきて、

雲をかすめて星影の、

かすけき色も見ゆるなり。

 

さゝやく蟲の聲高く、

夕霧うすくたちこめて、

朽ちたる橋をくゝり行く、

水音遠く聞ゆなり。

 

荒れたる菴のそば近く、

松の木立にさしよりて、

のろひの聲のいや高く、

乙女は釘をうち初めぬ。

 

女心の一すぢに、

恨みし人やあるならむ。

いかりの眼血にあへて、

槌音高くひゞくなり。

 

いつしかかゝる村雲に、

月の光はかきくらし、

靑き炎の飛ぶ見えて、

人の姿はうせにけり。

 

血汐の紅葉あと古りて、

奧城どころ霜寒く、

形見に殘るものとては、

ざれしかうべのたゞ一つ。

 

[やぶちゃん注:明治二八(一八九五)年七月の『少年文庫』掲載。署名は本名の伊良子暉造。夕暮れに佇む女の姿は呪詛の「丑の刻参り」のそれであるが、牛の刻でないのは、しかし、問題はない。彼女自身がこのいずれかの塚に纏わる亡霊だからである。]

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