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2019/05/24

松籟潮聲 すゞしろのや(伊良子清白)

 

松籟潮聲

 

 

  新 曉

 

しづかに木々の、

つゆおちて、

いはほの苔も、

かをるとき。

むらさきうすき、

しのゝめの、

くものしとねに、

うまいして、

ねむるもきよき、

曉(あけ)のひめ。

靑ぞらとほき、

ひかしより、

黃金のくるま、

かゝやきて、

のぼらせたまふ、

朝日子の、

たかきすがたに、

はぢらひて、

かすみに隱れ、

きりにのり、

のこんの星を、

ともなひて、

雲路はるけく、

きえて行く。

 

[やぶちゃん注:「ひかし」はママ。]

 

 

  心のやみ

 

みわたすかきりは、

露おりて、

秋野にこよひは、

星くずおほし。

 

なにとてこゝまで、

さまよひきけむ。

家ゐをいでしも、

さやかに知らず。

 

いまわれしづかに、

思ひてみれば、

人こひそめしは、

まよひのはじめ。

 

まよひにしづめば、

こゝろはくらく、

くるしきもだへに、

やせおとろへぬ。

 

たのしき天國(あめ)とは、

こひしき人を、

見そめしをりより、

外にはあらじ。

 

この世もかのよも、

わが行く道は、

さみしくおぐらき、

冥府(よみ)にやあらぬ。

 

いのりもさゝげじ、

つとめもなさじ。

はかなき生命を、

こひにぞすてむ。

 

[やぶちゃん注:「かきり」はママ。]

 

 

  讀 書

 

今日插し初めし花櫛の、

まだ少女子のきみなれば、

わが讀むふみをなにぞとも、

知りたまはぬをうらまねど。

 

わがよむふみは紫の、

式部の刀自かつゞりたる、

よにもかなしくうら若き、

をとこ女のこひなれば。

 

わが口唇はうちふるひ、

よみさす聲もみだれつゝ、

熱き淚ははらはらと、

こぼれて書におつるなり。

 

あゝいかなればさばかりに、

深くもなげき給ふぞと、

戀しききみののたまはゞ、

うれしからむを一ことも。

 

[やぶちゃん注:「刀自か」の「か」はママ。]

 

 

  吹 笛

 

すかたみにくきくちなはの、

いかなればこそかくまでに、

わが吹く笛をしたふらむ。

 

たゞ一ふしのたけにさへ、

きれば七つの律呂(こゑ)をなす、

ふかきまことのこもれるに。

 

火焰はくてふくちなはの、

聲こそなけれこゝろには、

あつきうれひのなからめや。

 

いさきけよかししづかにて、

夕暮ふかき草原に、

なかためふかむしばらくは。

 

[やぶちゃん注:最終連の「すかた」「なか」「いさきけよ」(「潔氣よ」であろう)はママ。以上、示した全篇の清音語は、総てが、万葉調を匂わせるための確信犯と思われる。明治三〇(一八九七)年六月発行の『文庫』掲載。署名は「すゞしろのや」。]

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