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2019/05/08

心を痛み 伊良子清白 (ハイネ訳詩/附・生田春月訳)

 

心を痛み

 

心を痛み舟の上

われら二人は坐るなり

夜は靜かに海遠く

われ等二人は泛(うか)ぶなり

 

月の光の影浴(あ)びて

くろき島こそ橫はれ

可愛しき響物のおと

霧のをどりもゆらぎつつ

 

彌(いや)面白く愛(めづ)らしく

物のけしきぞなりまさる

されどわれらは味氣なく

沖べはるかに泛ぶなり

 

[やぶちゃん注:明治三六(一九〇三)年十一月発行の『文庫』初出(署名「清白」)であるが、総標題「夕づゝ(四)(Heine より)」の下に、「綠の牧場」「車に乘りて」「われの言葉を」・本「心を痛み」・「春」の五篇からなる。本篇は一八二三年刊の詩集“Tragödien, nebst einem lyrischen Intermezzo”(「抒情的間奏曲附きの、悲劇」)の“Lyrisches Intermezzo”(「抒情的間奏曲」)の第XLIII歌(第四十三歌)である。原詩はこちら(リンク先はドイツ語の「ウィキソース」)。初出は「夜は靜かに海遠く」が「夜は靜に海遠く」、「月の光の影浴(あ)びて」が「月の光の影浴て」、「可愛しき響物のおと」が「可愛(かな)しき響物の音」となっている。

 生田春月(明治二五(一八九二)年~昭和五(一九三〇)年)の訳を国立国会図書館デジタルコレクションの大正一四(一二五)年春秋社刊生田春月訳「ハイネ全集 第一巻」(「詩の本」)の「抒情插曲」パートから示す。春月のそれは第「四十二」歌とする。

 

 

  四十二

 

ふたりは仲よく手をとつて

輕い小舟に乘つてゐる、

夜はしづかに凪ぎはよい

沖へ沖へと舟は出る。

 

幽靈島はうつくしく

月のひかりにかすんでゐる、

たのしい音色(ねいろ)が洩れて來て

霧はをどつて波をうつ。

 

音色はいよいよ冴えわたり

霧はいよいよ飛びまはる、

けれどそこへはよらないで

沖へ出て行くやるせなさ。

 

   *]

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