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« 金 伊良子清白 (ハイネ訳詩) | トップページ | 太平百物語卷二 廿壱 孫兵衞が妾蛇になりし事 »

2019/05/04

牧童 伊良子清白 (ハイネ訳詩/附・生田春月及び片岡俊彦訳)

 

牧 童

 

牧のうなゐぞ帝王(みかど)なる

綠の丘ぞ御座(おまし)なる

天(そら)に輝く天津日は

かれが金(こがね)の冠(かぶり)なり

 

羊は伏(こや)す足の下

やさしき君に媚ぶるなり

犢(こうし)は騎士の役目にて

いとほこりがにはねめぐる

 

山羊は俳優(わざおぎ)大宮の

吹くや笛竹鳥の群

鈴をならすは牝牛にて

いづれもをかし雅樂寮(うたのれう)

 

ゆかし瀧水ひびき來て

樅(もみ)の梢のうち戰(そよ)ぎ

歌男(うたを)歌女(うため)にかこまれて

うまいしませる山の帝(きみ)

 

狗(いぬ)の大臣(おとど)は其ひまを

國司るつとめあり

警(いまし)め顏に吠ゆる聲

あたりの山に木魂して

 

ねたらで醒めし小帝王(こみかど)は

「國をさむるはむつかしや

麿は歸らむわが宿に

可愛(かな)し后(きさき)の傍(かた)へに」と

 

「可愛し后の腕(ただむき)に

まろが頭(かうべ)を橫へむ

かれの涼しき眼のうちに

はてなき領(うなじ)をよこたへむ」

 

[やぶちゃん注:明治三六(一九〇六)年十月発行の『文庫』初出であるが、そこでは総標題「夕づゝ(三)(Heine より)」の下に、先の「山彥」「金」及び本「牧童」の三篇から成る(署名「清白」)。ハイネ(Christian Johann Heinrich Heine 一七九七年~一八五六年)の訳詩で、本篇は一八二一年作のDie Bergstimme(「羊飼いの少年」・一八二七年刊行の詩集Buch der Lieder(「歌の本」所収)のそれである。原詩はこちら(リンク先はドイツ語の「ウィキソース」)。

「うなゐ」はここでは少年の意。

 初出は表記違い以外では、私は大きな異同を認めない。

 参考までに、まず、ハイネの紹介に尽力した詩人生田春月(明治二五(一八九二)年~昭和五(一九三〇)年:入水自殺)の訳を、PDサイト「PD図書室」のこちらから引用させて貰う。但し、漢字の一部を正字化した。引用元の底本は昭和一〇(一九三五)年二十四版新潮文庫刊生田春月譯「ハイネ詩集」である。

   *

 

  牧 童

 

羊飼ひの子は王樣だ

綠の丘はその玉座

頭にかゝるお日さんは

大きな金の冠(かんむり)だ

 

その足もとには赤い斑(ぶち)の入つた小羊が

やさしい阿諛者(ごきげんとり)が寢そべつてゐる

犢(こうし)のむれは騎士(カヴアイリル)

大股に威張つて歩き廻る

 

仔山羊はみんなお抱へ役者

そして小鳥と牝牛とは

お抱へ樂師の一組で

笛を吹いたり鈴を鳴らしたりする

 

氣もちよく響くその音樂に

瀑布(たき)の轟き、樅の樹の

氣もちのよいそよぎが調子を合せるのを

聞きながら王はすやすや眠り入る

 

その間にも大臣の

犬は警備を怠らず

そのいさましい鳴聲は

國の四方に反響(こだま)する

 

若い王樣は眠さうに呟いて言ふ

『國を治めるのは實にむづかしい

あゝ、早く 家うちへ歸りたい

女王のところに歸りたい!」

 

女王の腕にやはらかく

この王の頭をやすめたい!

女王のきれいな眼の中に

僕の無限の國はある!』

 

   *

 次に所持する片山敏彦氏(昭和三六(一九六一)年没でパブリック・ドメイン)の訳を示す(「ハイネ詩集」昭和四一(一九六六)年改版新潮文庫刊)。

   *

 

  牧 童

 

牧童は王さま。

みどりの丘はその玉座。

頭の上の太陽が

大きな金のその王冠。

 

足元に羊たち。

赭(あか)いまだらのある、柔らかい声のお世辞屋。

犢(こうし)たちは騎士。

この騎士たちは大威張りで歩きまわる。

 

小さな山羊(やぎ)らは王室劇場の俳優。

横笛を吹く小鳥らと

頸(くび)の鈴を鳴らす牝牛(めうし)らとは

楽士たち。

 

歌声と楽器のおとのおもしろさ。

それに可愛いざわめきを添える

滝つ瀬と樅(もみ)の樹立。

聴きながら王さまはお眠りになる。

 

そのあいだに宰相である犬が

統治を怠ってはならぬ。

その唸(うな)るような吠声(ほえごえ)が

あたりに木魂(こだま)する。

 

若い王さまが眠たい声で口ずさむ。

「治める仕事はむつかしい。

早う家に帰って

妃(きさき)の傍に居りたいものじゃ。

 

妃の腕に抱かれると

王の頭はゆっくり眠れる。

妃の奇麗な瞳の中に

わしの広い広い国がある」

            Die Bergstimme

   *]

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