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2019/05/11

落花 伊良子暉造(伊良子清白)

 

落 花

 

須磨でらの、

わたりなるらむ。

かき鳴らす、

ことの音ぞする。

しほ干かた、

とほくなるらし、

いそ千どり、

こゑのはるけさ。

ゆめさめて、

ねながら見れば、

まどしろく、

ひるよりあかし。

ゆきふりて、

つきやてるらむ、

月さえて、

ゆきやてるらむ、

つきとゆき、

いづれがあかき。

このゆきの、

ひかりたのみて、

このつきに、

こゝろうかれて、

あまおとめ、

ことや彈くらし。

小夜ころも、

たもとかさねて、

しばらくは、

まくらを取れば、

いつしかに、

ことは絕えたり。

いそ千どり、

こゑもきこえず。

あまおとめ、

かへり行くらし、

いそちどり、

とほくなるらし。

ゆき分けて、

つきやめづらむ。

ゆきめでゝ、

つきに鳴くらむ。

いつしかに、

ことの音ぞする。

いそちどり、

またきこゆなり。

あまおとめ、

かへり來ぬらし、

いそ千どり、

ちかくなるらし、

ゆきしろく、

つきぞさえたる、

つきしろく、

ゆきぞさえたる。

まくら邊に、

音するはなに、

しづけさを、

やぶりてきこゆ。

かりかねの、

なきつれ行くか、

こひびとの、

おとづれ越しか、

かりがねの、

なきつれくるは、

たがために、

ことづてすらむ。

ふるさとに、

おくれるふみか、

ふるさとゆ、

おくれるふみか、

ふるさとに、

おくれるふみも、

ふるさとゆ、

おくれるふみも、

おしなべて、

なみだなるらむ。

こひびとの、

おとづれこしは、

誰をしのぶ、

こゝろなるらむ。

くさまくら、

むすばむとてか、

たびころも、

あひ見むとてか、

またもおと、

びゞききこえぬ。

まくら邊に、

おとするはなに、

くしき聲と、

細戶にあくれば、

なかそらの、

つきぞかすめる。

くれたけも、

のきのしのぶも、

おしなべて、

かたをも見せず、

眞しろたえ、

うづもれてけり。

流れ來る、

かけひのみづも、

ぬののごと、

しろくそゝげり。

ふかみどり、

こけむすいはも、

またまなす、

ましろにてれり。

ゆめにやと、

おもへばかをり、

ゆきにやと、

おもへど消えず。

いまぞ知る、

まどのあかきは、

ゆきならで、

はなにありけり。

ことの音と、

おもひしこゑは、

磯なれまつ、

びゞくなりけり。

千どりかと、

きゝたるこゑは、

さゞなみの、

おとにありけり。

まくら邊に、

おとづれたるは、

ちるはなの、

ひゞきなりけり。

はるの夜の、

つきのひかりの、

やうやうに、

うすらぎ行きて、

みねのてら、

かねの音すれば、

しのゝめの、

あは路しまやま、

たえたえに、

なみとはなとの、

いろぞ分かるゝ。

 

[やぶちゃん注:明治二八(一八九五)年三月の『靑年文』掲載。署名は本名の伊良子暉造。三箇所出る「あまおとめ」の表記はママ。

「またまなす」「眞珠成す」。]

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