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2019/07/06

小泉八雲 神國日本 戸川明三譯 附やぶちゃん注(89)  產業上の危險(Ⅰ)

 

  產業上の危險

 

 到る處、人間の文明の徑路は同じ進化の法則によつて形作られたものである、それで、古代のヨオロツパ社會の、古い歷史に鑑みて『舊日本』の社會狀態を理解する事が出來るやうに、同じ歷史の後の一時代は、『新日本』のどんな風になるかといふ將來に就いて、或る事を判斷する助けとなるのである。『古代都市論』“La  Cité  Antique”[やぶちゃん注:既出既注。フランスの中世史の歴史学者ヌマ・ドニ・フュステル・ド・クーランジュ(Numa Denis Fustel de Coulanges 一八三〇年~一八八九年)が一八六四年に刊行した「古代都市」。]の著者は、【註】あらゆる古代のギリーシヤ及びびロオマの社會は、四個の革命的時代を含んで居た事を示して居る。第一の革命は、其の結果として到る處僧侶たる王(priest-king)から政治の權力を剝奪してしまつた。併しそれにも拘らず、此の僧侶たる王は宗教上の權威を保留する事は許された。第二の革命時代には gens 部族卽ち γένος の解散と[やぶちゃん注:「γένος」は原典(「Internet Archive」の当該ページ画像)でも底本(国立国会図書館デジタルコレクションの当該ページ画像)でも平井呈一氏の訳(一九七八年恒文社刊)でもこうなっているのだが、調べたところ、このギリシャ語の単語は四字目は「ο」(オミクロン)ではなく、「σ」(シグマ)で「γένσς」が正しいようである。]、保護者の權威から被護者の解放、及び家族の法律上の組織に於ける重要な變化とが行はれた。第三の革命時代には、宗教的及び軍事的貴族の衰微と、普通人民の市民權獲得、及び富人階級の一種の民主政治が起つた――尤もこれは直きに貧民階級の一種の民主教治を以て對立されるやうになつたのであるが。第四の革命時代には、貧富間の最初の猛烈な爭鬪と、無政府主義の最後の勝利、及びその結果としての一種新しい恐るべき壓制―-人民の輿望を牧めた專制者の壓制―――-が起つた。

[やぶちゃん注:「無政府主義」どうも躓いた。確かに原文は「anarchy」ではあるが、もともとがこの語はギリシャ語で「統治者を欠いた(混乱した)状態」を指す語であり、ここはまさに、その原義の意であり、この訳はいただけない。平井氏は『ついに無産階級の勝利となって』と意訳されておられ、その方が躓かない。

 以下、底本では前後が一行空けで、全体が本文分四字下げポイント落ちである。]

 

註 スパルタも是に洩れないのである。スパルタの社會は、進化的から言へばアイオニアの諸社會に遙かに先んじて居た、ドリアの族長的氏族は極初期の時代に既に解散されて居た。スパルタには絕えず王があつた、併し民事裁判の事件は元老院(セネエト)が取締まつて、刑事裁判はエフオオが行つて居た、併しエフオオはまた宣戰媾和の權を有して居た。スパルタ史上の最初の大革命の後、王は民事、刑事及び軍事に關する權を奪はれ、只だ祭司の役目を保留した。詳細は『古代都市論』二八五頁――二八七頁參照。

[やぶちゃん注:以下、多くの方には不要なのだろうが、私は世界史に冥いので(高校時代の社会科選択は地理と政治経済であった)、主に辞書の比較的短めの記載を選んで注を附しておいた。

「スパルタ」(Sparta)アテネと並ぶ古代ギリシャの代表的都市国家。紀元前十二世紀ごろ、ドリス人がペロポネソス半島南部に建設した。紀元前五世紀の「ペロポネソス戦争」でアテネを破って、ギリシャの覇権を握ったが、紀元前三七一年、テーベに敗れて以後は急速に衰えた。

「アイオニア」(Iōnia)古代ギリシア世界における小アジア西岸の一地域。イオニア人の移住によりミレトス・エフェソスを始めとして都市が成立して次第に繁栄に向かい、紀元前七世紀以降は多数の海外植民市を建設した。紀元前六世紀になってペルシアが支配し、その後、マケドニア・ローマ・ビザンティンなどによる支配が続き、現在はトルコの一部である。ホメロスの詩編の故地にしてギリシア哲学発祥の地である。

「ドリア」(Doria=Doris)紀元前十二世紀頃、バルカン半島を南下したギリシャ人の一派ドリス人が定住した地域名。ペロポネソス半島からクレタ島、小アジアの南西岸に至る地域で、スパルタは彼らが建設したポリスの一つである。

「元老院(セネエト)」原文は「Senate」で、これはラテン語で「senatus」で、古代ローマで王に助言した氏族長老によって構成された集団で、共和政期には公職者の諮問機関であった。貴族・平民の終身議員三百名を、初めはコンスルル(consul:共和制期の政治・軍事の大権を握った最高官職。執政官。統領)が、紀元前四世紀末からケンソル(censor:官職名。五年毎に選ばれる十八ヶ月任期の役人で、全市民の戸口・財産調査(ケンスス)のほか、騎兵査閲を行い、元老院議員の私的道徳まで問題にし、その適不適の審査を行ったことから、最も権威ある官職と考えられていたが、所謂、インペリウム(命令権)は持っていなかった。共和政中期から末期までの時期にこの官職につく者の政治的発言力は最も強大であったが、帝政期に入ると、一世紀の間に皇帝が次第に自らケンソルの仕事を行うに至った)が信望と勢威を基準に選任した。後に専ら元公職者を選び、議員序列も元ケンソル以下の公職序列に準じた。命令権に基づき、通例、コンスルが会議を招集し、議題提示・序列順指名諮問・採決を主導した。最初に指名される最長老議員の発言は大勢の予めの指示として重視され、逆に発言者へ歩み寄る(賛意表明)だけの議員もいた。

「エフオオ」原文「ephors」。現行の綴りは「Ephoroi」「Ephoros」で、現行では「エフォロイ」と音写する。スパルタに於いて最高の権力を持った役人集団。五名からなり、民会で市民の間から選出され、任期は一年。この職の起源には諸説あるが、スパルタ市民内の民主政確立の過程の中で、その権限を拡大した。行政・司法を統べ、市民の日常生活をも厳しく監督した。王は彼らと宣誓を交わすことが義務づけられていた。法に従う限り、その地位に留まり得た。軍事面でも、軍の招集とその規模を決定し、王の指揮を監視した。また、外国使節と交渉する権限をも有していた。

「媾和」「講和」に同じい。]

 

 これ等の四期の革命時代に對して、『舊日本』の社會史には、唯だ二つ相當したものがあらはれて居るのみである。第一の日本の革命時代は、皇室の文武權を、藤原氏が纂奪した事で代表される、――其の事件の後、宗教上及び軍事上の貴族が、現時に至る迄日本を支配して居た。德川幕府の下に在つての、武家の勢力の興隆と權威集中のあらゆる事件は、これを第一の革命時代に屬さしめて適當であらう[やぶちゃん注:マクロ的な社会進化論的立場から見れば、この見解は正当と私は思う。]。日本の開國の際にあつては、進化といふ點から云へば、日本は昔の西洋の、耶蘇紀元前七八世紀の社會に相當する時期以上には進んで居なかつた。第二の革命時代は、實際に一八七一年の維新から僅に始まつたのである。併し其の後の唯だ一代の間に、日本はその第三革命時代に入つたのである。長老貴族政治の勢力は、富者の一種の新寡頭政治――政治上で恐らく全能のものとなる運命を有つた一種の新たな產業上の勢力――突然の隆起によつて脅威されて居る。藩の分散(現今行はれ中である、家族の法律上の組織に於ける諸變化、人民が政治的權利の享受を始めた事は、これ等は皆權力の將來の推移を急がせる傾向となるに違ひない。世態の現今の取狀態では、第三革命時代が、急速にその行く處まで行く氣配が悉く明白にあらはれて居る、それから重大な危險に充ち充ちた次の革命が目睫の間に逼つて來るであらう。

[やぶちゃん注:流石は小泉八雲、既に富国強兵と軍国主義の台頭、非人道的な軍産共同体化してゆく日本の将来をしっかりと予見していた。

 以下、一行空け。]

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