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カテゴリー「北原白秋」の253件の記事

2020/06/29

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) ふるさと 奥附・広告 / 北原白秋 抒情小曲集 おもひで オリジナル注附~了

 

ふるさと

 

人もいや、親もいや、

小(ちいさ)さな街(まち)が憎うて、

夜(よ)ふけに家を出たれど、

せんすべなしや、霧ふり、

月さし、壁のしろさに

こほろぎがすだくよ、

堀(ほり)の水がなげくよ、

爪(つま)さき薄く、さみしく、

ほのかに、みちをいそげば、

いまだ寢(ね)ぬ戶の隙(ひま)より

灯(ひ)もさし、菱(ひし)の芽生(めばえ)に、

なつかし、泌みて消え入る

油搾木(あぶらしめぎ)のしめり香(が)、

 

[やぶちゃん注:最終行末の読点は原本のママ。後の昭和三(一九二八)年アルス刊の北原白秋自身の編著になる自身の詩集集成の一つである「白秋詩集Ⅱ」の本篇(国立国会図書館デジタルコレクションの当該ページ画像)では句点に変わっているが、私は断然、読点を支持するので、そのままとした。

 以下、奥附。配置・ポイント・太字等は一致させていない。]

 

 

明治四十四年五月二十日印刷

               正價九十錢

明治四十四年六月 五日 發行

        著  者   北 原      白 秋

  不 許  發 行 者  西 村 寅 次 郞
  複 製     京橋區南傳馬町三丁目十番地

        印 刷 者  橫 田 五 十 吉
           神田區松下町七、八番地
     ―――――――――――
 發行所          東 雲 堂 書 店
       東京市京橋區南傳馬町三丁目十番地
       電話京橋一六三九、振替五六一四番

 

[やぶちゃん注:以下、奥附の左ページ及びその裏にある広告。同前。]

 

 

  北原白秋氏既刊書目

邪   宗   門  第一詩集   賣  切

思   ひ   出  抒情小曲集 新  版

 

 

  北原白秋氏近刊書目

東 京 景 物 詩  新  詩 集  一  卷

抒  情    歌   集  第 一 歌 集  一  卷

 

 

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 旅役者

 

旅役者

 

けふがわかれか、のうえ、

春もをはりか、のうえ、

旅の、さいさい、窓から

芝居小屋を見れば、

 

よその畑(はたけ)に、のうえ、

麥の畑(はたけ)に、のうえ、

ひとり、さいさい、からしの

花がちる、しよんがいな。

 

[やぶちゃん注:これは静岡県三島市などで歌われ、全国的にもよく知られる民謡農兵節(のうへいぶし)をインスパイアしたもの。ウィキの「農兵節」を見ると判る通り、曲中には「のーえ」「さいさい」という掛け声が入る。或いは実際の旅役者がそれらの掛け声を入れて即興で唄っていたを聴いた記憶に基づくものかも知れない。

「しよんがいな」(歴史的仮名遣「しょんがいな」)は感動詞。民謡で一節の終わりに附ける囃子言葉。「しょんがえ」「しょんがい」。]

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 韮の葉

 

韮の葉

 

芝居小屋の土間のむしろに

いらいら泌みるものあり。

畑(はたけ)の土のにほひか、

昨日(きのふ)の雨のしめりか。

あかあかと阿波の鳴戶の巡禮が

泣けば…………ころべば…………韮(にら)の葉が…………

 

芝居小屋の土間のむしろに、

ちんちろりんと鳴いつる。

廉(やす)おしろひのにほひか、

けふの入日の顫へか、

あかあかと、母のお弓がチヨボにのり

泣けば…………なげけば…………蟲の音が…………

 

芝居小屋の土間のむしろに

何時しか泌みて芽に出(づ)る

まだありなしの韮の葉。

 

[やぶちゃん注:「韮」単子葉植物綱キジカクシ目ヒガンバナ科ネギ属ニラ Allium tuberosum

「鳴いつる」「なきいつる」であるが、やや不審。「鳴き居つる」と存続或いは確述の助動詞「つ」の連体止めによる余韻の用法ならば、「ゐつる」でないとおかしい。幾つかの刊本を見るに、「鳴いづる」としており、それが一番しっくりはくるものの、後の昭和三(一九二八)年アルス刊の北原白秋自身の編著になる自身の詩集集成の一つである「白秋詩集Ⅱ」の本篇(国立国会図書館デジタルコレクションの当該ページ画像)でも「鳴いつる」のママであるので、そのまま電子化した。

「お弓」不詳。

「チヨボ」浄瑠璃や歌舞伎の劇場で義太夫節を演奏する場所。通常、舞台上手の上部に設けられており、簾 () が掛けられて客席からは見えないようになっている。]

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 梅雨の晴れ間

 

梅雨の晴れ間

 

廻(まは)せ、廻(まは)せ、水ぐるま、

けふの午(ひる)から忠信(ただのぶ)が隈(くま)どり紅(あか)いしやつ面(つら)に

足どりかろく、手もかろく

狐六法(きつねろつぱふ)踏みゆかむ花道の下、水ぐるま…………

 

廻(まは)せ、廻せ、水ぐるま、

雨に濡れたる古むしろ、圓天井のその屋根に、

靑い空透き、日の光

七寶(しつぱふ)のごときらきらと、化粧部屋(けしやうべや)にも笑ふなり。

 

廻(まは)せ、廻せ、水ぐるま、

梅雨(つゆ)の晴れ間の一日(いちにち)を、せめて樂しく浮かれよと

廻り舞臺も滑(すべ)るなり、

水を汲み出せ、そのしたの葱の畑(はたけ)のたまり水。

 

廻(まは)せ、廻せ、水ぐるま、

だんだら幕の黑と赤、すこしかかげてなつかしく

旅の女形(おやま)もさし覗く、

水を汲み出せ、平土間(ひらどま)の、田舍芝居の韮畑(にらばたけ)。

 

廻(まは)せ、廻せ、水ぐるま、

はやも午(ひる)から忠信(ただのぶ)が紅隈(べにくま)とつたしやつ面(つら)に

足どりかろく、手もかろく、

狐六法(きつねろつぱふ)踏みゆかむ花道の下、水ぐるま…………

 

[やぶちゃん注:「忠信」実在した義経の家臣で義経四天王の一人である佐藤忠信(仁平三(一一五三)年或いは応保元(一一六一)年?~文治二(一一八六)年)を登場人物(狐の変化)としてモデル・インスパイアした「義経千本桜」(延享四(一七四七)年大坂竹本座初演。二代目竹田出雲・三好松洛・並木千柳の合作)のトリック・スター「狐忠信」こと「源九郎狐」のこと。同外題についてはウィキの「義経千本桜」を参照されたい。ここは田舎歌舞伎のその舞台を見た少年期の記憶(それを真似した自分自身の記憶を含む)を素材としている。

「狐六法(きつねろつぱふ)」(「六方」は「六法」とも書く)ここは「義経千本桜」の四段目の口 「道行初音旅」(=「吉野山」)での、非常に知られた花道への引っ込みで見せる独特の「狐六方」のこと。YouTube の衣裳地歌舞伎氏の『岐阜の地歌舞伎「義経千本桜 吉野山道行の場」をみる』を見られたい。]

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 六騎

 

六騎

 

*御正忌(しやうき)參詣(めえ)らんかん、

情人(ヤネ)が髮結ふて待(ま)つとるばん。

 

御正忌參詣(めえ)らんかん、

寺の夜(よ)あけの細道(ほそみち)に。

 

鐘が鳴る。鐘が鳴る。

逢うて泣けとの鐘が鳴る。

  親鶯上人の御正忌なり。

 

[やぶちゃん注:注記号は底本では「御」の字の右側上方に打たれてある。なお、「しやうき」のルビは「正忌」の二文字のみに振られてある(原本を見られたい)。思うに、白秋は「御正忌」に「ごしやうき」と振りたかったのだが、「*」を組んだ関係上、物理的(植字上)に「ご」が振れなくなったものと私は思う。則ち、ここは「ごしやうき」(ごしょうき)と読まなければならない。浄土真宗の信徒(この場合の作中の「御正忌參詣らんかん」と言った六騎の民)にとって「ご」を外して呼ぶことは、有り得ないからである。

「六騎」は「ろくきゆ(ろっきゅ)」で白秋が自序「わが生ひたち」の「3」の冒頭で説明しているが、柳川の東の沖端地区の漁師達の総称(綽名)である。少し長いが、本篇の字背に潜む民心の見事な解読ともなっているので煩を厭わず引いておく。

   *

 柳河を南に約半里ほど隔てて六騎(ロツキユ)の街(まち)沖(おき)ノ端(はた)がある。(六騎(ロツキユ)とはこの街に住む漁夫の諢名[やぶちゃん注:「あだな」。]であつて、昔平家沒落の砌に打ち洩らされの六騎がここへ落ちて來て初めて漁り[やぶちゃん注:「すなどり」。]に從事したといふ、而してその子孫が世々その業を繼襲し、繁殖して今日の部落を爲すに至つたのである。)畢境は柳河の一部と見做すべきも、海に近いだけ凡ての習俗もより多く南國的な、怠惰けた[やぶちゃん注:「なまけた」或いは「だらけた」か。]規律(しまり)のない何となく投げやりなところがある。さうしてかの柳河のただ外面(うはべ)に取すまして廢れた面紗(おもぎぬ)のかげに淫(みだ)らな秘密を匿(かく)してゐるのに比ぶれば、凡てが露(あらは)で、元氣で、また華(はな)やかである。かの巡禮の行樂、虎列拉避(コレラよ)けの花火、さては古めかしい水祭の行事などおほかたこの街特殊のものであつて、張のつよい言葉つきも淫らに、ことにこの街のわかい六騎(ロクキユ)は溫ければ漁(すなど)り、風の吹く日は遊び、雨には寢(い)ね、空腹(ひもじ)くなれば食(くら)ひ、酒をのみては月琴を彈き、夜はただ女を抱くといふ風である。かうして宗敎を遊樂に結びつけ、遊樂のなかに微かに一味の哀感を繼いでゐる。觀世音は永久(とこしへ)にうらわかい町の處女に依て齋(いつ)がれ(各の町に一體づつの觀世音を祭る、物日にはそれぞれある店の一部を借りて開帳し、これに侍づくわかい娘たちは參詣の人にくろ豆を配(くば)り、或は小屋をかけていろいろの催(もよふし[やぶちゃん注:ママ。])をする。さうしてこの中の資格は處女に限られ、緣づいたものは籍を除かれ、新しい妙齡(としごろ)のものが代つて入(はい)る。)天火(てんび)のふる祭の晚の神前に幾つとなくかかぐる牡丹に唐獅子(からしし)の大提灯は、またわかい六騎(ロクキユ)の逞ましい日に燒けた腕(かひな)に献げられ、霜月親鸞上人の御正忌となれば七日七夜の法要は寺々の鐘鳴りわたり、朝の御講に詣(まう)づるとては、わかい男女(をとこをんな)夜明まへの街の溝石をからころと踏み鳴らしながら、御正忌參(めえ)らんかん……の淫らな小歌に浮かれて媾曳(あひゞき)の樂しさを佛のまへに祈るのである。

   *

「御正忌」(ごしょうき(現代仮名遣))親鸞の忌日を指す。親鸞は弘長二年十一月二十八日(ユリウス暦一二六三年一月九日/グレゴリオ暦換算同年一月十六日/享年九十(満八十九歳))に入滅した。浄土真宗は一向宗として越前・越中・越後に信者が多いことは知られるが、親鸞の師である法然の浄土宗は、現行でも最有力派閥である鎮西派が北九州ですこぶる強く、親鸞自身は浄土宗の真の教えを伝えるという意味で自身で宗派を名乗ったわけではなかったことや、キリスト教禁教の影響もあって、浄土真宗の信者も実は多い。因みに、薩摩藩は浄土教を禁教としたため、隠れて信仰を守り、現在でも鹿児島は実はダントツに浄土系信者が多い。

「情人(ヤネ)」小学館「日本国語大辞典」に「やね」で「情人」を当て、『九州地方で愛人をいう』とする。しかし、その後にはまさに本篇のそれが引用されているだけで、結局、語源を探し得ない。]

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 水門の水は

 

水門の水は

 

水門(すゐもん)の水は

兒をとろとろと渦をまく。

酒屋男は

半切(はんぎり)鳴らそと擢を取る。

さても、けふ日のわがこころ

りんきせうとてひとり寢る。

 

[やぶちゃん注:これ。短篇乍ら、一読忘れ難い。「兒をとろとろと渦をまく」は「兒」の命を(或いは生肝を)「取ろ」う「捕ろ」うとと、水渦の「とろとろ」のオノマトペイアの掛詞が効いて、「酒屋男」が「半切(はんぎり)鳴らそ」う「と擢を取」った櫂で打つその「コン! カン!」という音が鋭く聴こえ、少年のトンカ・ジョンは「悋気したろう!」という不条理の理由から「ひとり寢る」というコーダが、一つの弛みもなく、モンタージュされているからである。

「擢」はママ。「かい」で「櫂」が正しい。酒の仕込みでかき混ぜるのに用いるもの。

「半切(はんぎり)」「半切桶」(はんぎりおけ)の略。多種多様の用途持った平たい桶(一般の桶を半分に切った浅さの意)を指す。これも酒造の用具。

「りんき」「悋氣」男女間のことなどで焼きもちをやくこと。嫉妬。]

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) あひびき

 

あひびき

 

きつねのてうちん見つけた、

蘇鐵のかげの黑土(くろつち)に、

黃いろなてうちん見つけた、

晝も晝なかおどおどと、

男かへしたそのあとで、

お池のふちの黑土に、

きつねのてうちん見つけた。

  毒茸の一種、方言、色赤く黃し。

 

[やぶちゃん注:菌界担子菌門菌蕈(きんじん)亜門真正担子菌綱スッポンタケ目スッポンタケ科キツネノロウソク属キツネノエフデ Mutinus bambusinus の異名。サイト「きのこ図鑑」の「キツネノエフデ」に、林や『竹林の中、草地や道のほとり、家の庭など様々な場所に発生し』、『直径約』一・五センチメートルの『の卵型の幼菌から』、『先端が濃い紅色の本体が伸びて出ている強いにおいを持つキノコで、上部の先端には暗褐色の粘液部分(グレバ)があり』、『これが悪臭を放』つ。但し、『先端部分が中に隠れている卵状の幼菌の段階では特に匂いは』ないとある。『キツネノエフデは一般的なキノコのようなカサの部分はなく』、『先端部分は尖るように細くなってい』おり、『頭部と柄の部分があまりハッキリしないという事も特徴のひとつで』あるとある。『夏から秋にかけて見られるキノコで』あるが、『大体、梅雨の時期から発生し始め』、『キツネノエフデに似ているキノコとしてはキツネノロウソク』(キツネノロウソク属キツネノロウソク Mutinus caninus)『などがあげられ』る。本種には『毒があるという情報は』ないものの、前述の如く、『悪臭がきつく、食用には適さないキノコだと言われてい』いるともある。写真あり。かなり妖しい感じである。なお、白秋は「赤く黃」(きいろ)「し」と言っているが、キツネノエフデは紅いが、黄色くはない。キツネノロウソクは橙色の子実体の頂部のグレバと呼ばれる胞子を含んだ粘着性器官が生ずるが、これは黄色いから、或いは両種がそこには生えていた可能性もあるように思われる。

「蘇鐵」裸子植物門ソテツ綱ソテツ目ソテツ科ソテツ属ソテツ Cycas revoluta。]

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 目くばせ

 

目くばせ

 

門づけの*みふし語(がた)がいふことに

高麗烏(かうげがらす)のあのこゑわいな。

晝の日なかに生れた赤子

埋(う)めた和尙が一人(ひとり)あるぞえ。

 

古寺の高麗烏(かうげがらす)のいふことに、

みふし語(がた)のあの絃(いと)わいな。

今日(けふ)も今日とて、かんしやくもちの

振(ふ)られ男がそこいらに。

 鄙びて粗末なる一種の琵琶を抱きて卑近なる
  物語を歌ひながらゆく盲目の門づけなり、
  地方特殊のものにてその歌ひものをみふし
  云ふ。

 

[やぶちゃん注:「みふし語(がた)」「みふし」の太字部分は底本では傍点「ヽ」。但し、「語」にルビを振った関係上、「語」には傍点が実はない。しかし、これは版組上の止むおえない仕儀と考えられるので、特異的に「語」も太字とした。また、その冒頭部分の「*」は底本では「み」の右上方位置にある。部分は底本では注は底本では全三行であるが、ブラウザの不具合を考えて、四行で示した。

「みふし語り」「みふし」孰れも確認出来ない。小学館「日本国語大辞典」にも載らない。]

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 道ゆき

 

道ゆき

 

鰡(ぼら)と黑鯛(ちんのいを)と、

黑鯛魚(ちんのいを)と、

鰡と、のうえ

肥前山をば、やんさのほい、けさ越えた、ばいとこずいずい

 

後家(ごけ)と、按摩(あんま)さんと、

按摩さんと、

後家と、のうえ

蜜柑畑から、やんさのほい、昨夜逃げた、ばいとこずいずい

 

[やぶちゃん注:ポイントの変形はママ。小文字(底本では右寄せであるが、ここでは上寄せ。底本ではもっとポイントが小さいが、読み難くなるので、これ以上は小さくしなかった)のそれは思うに、囃子言葉と思われる。サイト「d-score」の『作曲白秋民謡集「道ゆき」 北原白秋』には、『これは、ばいとこずいずいぶしである』。『前聯は柳河地方のそれをそのまゝ用ゐた』(昭和四(一九二九)年改造社刊「北原白秋民謠集」から)とあるのだが、「ばいとこずいずい」節なるものを調べ得なかった。従って「ばいとこずいずい」の意味するところも不詳である(囃子言葉とすると、意味も不明な可能性はある)。識者の御教授を乞う。

「鰡」ボラ目ボラ科ボラ属ボラ Mugil cephalus

「黑鯛(ちんのいを)」スズキ目タイ科ヘダイ亜科クロダイ属クロダイ Acanthopagrus schlegelii。異名は「ちぬ」がよく知られるが、九州の地方名で「ちん」と呼ばれ、「ちんのうお」という呼称も確認出来た。

「肥前山」肥前修験道の一拠点であった佐賀県多久市東多久町納所天山にある両子(ふたご)山(グーグル・マップ・データ)のことか。標高三六六メートル。柳川の北西二十五キロメートルほどの位置に当たるが、その間は有明海湾奥の平地であるから、柳川からは見えるものと思われる。]

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 氣まぐれ

 

氣まぐれ

 

逢ひに來た*ちの

日の照り雨のふるなかを、

*Odan mo iya, Tinco Sa!

 

しやりむり別れたそのあとで、

未練(みれん)な牡丹がまたひらく。

Odan mo iya, Tinco Sa!

 1ちのは雅言のとやなり。來たの、來たん
   ですつて。柳河語。
 2Odan はわたしなり、Tincosa は感嘆詞なり、
   全體の意味はあら厭だよ、まあ。同上。

 

[やぶちゃん注:注記号は底本では前者が「ち」の右側上方に、後者が「O」の右上方に打たれてある。太字「ちの」と「とや」は底本では傍点「ヽ」。注は全三行であるが、ブラウザでの不具合を考え、四行で示した。

Odan はわたしなり」山口県長門の方言で「私」の意が確認出来る。

Tincosa は感嘆詞」確認出来ない。

Odan mo iya, Tinco Sa!」は恐らく、「おら、もう、厭(い)や! 全くもう!」とか「あたい、もう、厭やや! あんれ、まあ!」といった謂いか。但し、拒絶ではなく、実は内心は嬉しがっての対位表現ということであろう。

「しやりむり」源田仮名遣「しゃりむり」で、副詞。「いやでも応でも。是が非でも。何が何でも。むりやり。しゃにむに」の意。方言ではない。

ちのは雅言のとやなり」古語「とや」は格助詞「と」+疑問の係助詞「や」で、「と」の受ける内容が疑わしいか、不確かであることを含む万葉以来の古語。「ちの」は確認出来ない。]

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