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カテゴリー「貝原益軒「大和本草」より水族の部」の121件の記事

2018/11/25

大和本草卷之十三 魚之上 ハス

 

【和品】

ハス 生江湖中琵琶湖ニ多シ味ヨシ長七八寸細鱗白

 色尾鬣赤初夏時出連行其性好飛躍越舩飛游

 四五月自湖底泝於河溝以網取之浮陽之魚也

 以蝦及蚯蚓爲餌釣之或曰氣味甘溫無毒養脾

 胃益氣力補虛乏和胃止瀉作鮓最美爲炙亦良

 ○順和名ニ鰣魚ヲ波曾ト訓ス然レドモ本草綱目所

 載鰣魚ニアラス

○やぶちゃんの書き下し文

【和品】

ハス 江湖の中に生ず。琵琶湖に多し。味、よし。長さ七、八寸。細き鱗、白色。尾・鬣〔(ひれ)〕、赤し。初夏の時、出で、連〔なり〕行く。其の性、飛躍を好み、舩〔(ふね)〕を越ゆ。飛び游ぐ。四、五月、湖底より河・溝〔(みぞ)〕に泝〔(さかのぼ)〕る。網を以つて之れを取る。浮陽の魚なり。蝦〔(ゑび)〕及び蚯蚓〔(みみず)〕を以つて餌と爲し、之れを釣る。或いは曰はく、氣味、甘、溫。毒、無し。脾胃を養ひ、氣力を益す。虛乏を補ひ、胃を和〔(なご)ませ〕、瀉を止む。鮓〔(すし)〕に作り〔て〕最も美〔(よ)〕し。炙り爲して、亦、良し。○順が「和名」に、鰣魚を『波曾〔(はそ)〕』と訓ず。然れども「本草綱目」所載の「鰣魚」にあらず。

[やぶちゃん注:条鰭綱コイ目コイ科クセノキプリス亜科 Oxygastrinaeハス属ハス亜種ハス Opsariichthys uncirostris uncirostrisウィキの「ハス(魚)」より引く。『コイ科』(Cyprinidae)『魚類としては珍しい完全な魚食性の魚である』。『成魚の体長は多くの場合』、三十センチメートル、『最大で』四十センチメートル『に達する。オスの方がメスより大型になる』性的二形。『頭部を除いた体つきはオイカワ』(コイ科 Oxygastrinae 亜科ハス属オイカワ Opsariichthys platypus)『に似て、前後に細長い流線型、左右も平たく側扁し、尻びれが三角形に大きく発達する。体色は背中が青みを帯び、体側から腹部にかけては銀白色である。口は下顎が上顎より前に突き出ていて、口が上向きに大きく裂け、唇が左右と前で「へ」の字に計三度折れ曲がる。目は小さく、他のコイ科魚類に比べて』、『背中側に寄っている。この独特の風貌で他の魚と容易に区別できる』。『ただ、幼魚のうちは上記のような本種の特徴が弱いため特にオイカワに酷似し』、『識別が困難な場合もある。成長するにつれ、頭部が大きくなり、眼が上方背面寄りに移動し、独特の口の形状も顕著となっていく。また、オスのほうがメスよりも本種の外部形態上の特徴が強く発現される』。『主に河川の中流』・『下流や平野部の湖沼に棲息する。酸欠に極めて弱く、高温耐性も高い方ではないが、霞ヶ浦のような水質の悪い水域にも生息することはできる』。『肉食性。アユ、コイ科魚類、ハゼ類などの小魚を積極的に追い回し』、『捕食する。独特の形状に発達した口も、くわえた魚を逃がさないための適応とみられる』。『動作は敏捷で、小魚を追い回す時や川を遡る時、驚いた時などはよく水面上にジャンプする。また琵琶湖での生態調査では、一つの地点から放流した標識個体が一月でほぼ湖全体に分散してしまったことが報告されており、長距離の遊泳力にも優れることが窺える』。『ハスはコイ科魚類、そして日本在来の淡水魚では数少ない完全な魚食性の魚で、ナマズと同様に淡水域の食物連鎖の上位に立つ。日本在来の魚食性淡水魚はナマズやドンコやカワアナゴ、カジカ類など待ち伏せ型が多いが、ハスは遊泳力が高く追い込み型である点でも唯一といえる存在であった』。『繁殖期は』六~七『月頃で、この時期のオスはオイカワに似た婚姻色が現れる。湖や川の浅瀬にオスとメスが多数集まり、砂礫の中に産卵する』。『孵化した稚魚は成魚ほど口が裂けておらず、ケンミジンコなどのプランクトンを捕食するが、成長に従って口が大きく裂け、魚食性が強くなる。 寿命は飼育下で』七『年ほどである』。『東アジアと日本に分布する』。『日本国内の自然分布は琵琶湖・淀川水系と福井県の三方五湖に限られる。しかし』二十『世紀後半頃からアユなど有用魚種の放流に混じって各地に広がり、関東地方や中国地方、九州などにも分布するようになった。今日では流れの比較的緩やかな水域ではポピュラーな魚のひとつとなっている。一部では食害の報告もあったが、他の外来種のほうがクローズアップされやすいためか、それほど問題とはされていない』。『日本以外ではアムール川水系、朝鮮半島、長江水系からインドシナ半島北部にかけての他、台湾にも分布する』。四『ヶ所の分布域ではそれぞれ』以下の通り、『亜種に区分されている』。

Opsariichthys uncirostris uncirostris(日本)

Opsariichthys uncirostris amurensis(アムール川)

Opsariichthys uncirostris(朝鮮半島・長江からインドシナ半島及び海南島。但し、亜種ではなく別種 Opsariichthys bidens とする説もある)

『容姿がオイカワに似ていることもあり、淀川流域ではオイカワを「ハス」、ハスを「ケタバス」と呼ぶ。標準和名との混乱があるので注意を要する。また、その風貌とオイカワの別称である「ヤマベ」から「オニヤマベ」と呼ぶ事もある』。『中国語では「馬口魚 mǎkǒuyú」と称し、別名に「桃花魚」、「山」、「坑爬」、「寛口」がある。地方名では、福建省の客家語で「大口魚」、莆仙語で「闊嘴耍」と呼ばれる。広東省ではオイカワとの混称で「紅車公」と呼ばれる』。『警戒心が強く、動きが機敏で引きの力も強いため、分布域ではルアーなどによる釣りの対象として人気がある。釣りの他にも刺し網や投網などで漁獲される』。『身は白身で、塩焼き、天ぷら、唐揚げ、南蛮漬け、車切り(雌の背ごしを洗いにした物)、などで食べられる。生息数が多い琵琶湖周辺では鮮魚店でも販売されている』。『中国では唐揚げかオイル焼きにすることが多い』。『神経質な』ため、『音や光などに驚いてガラス面に突進し頭をぶつけたり、ジャンプして水槽から飛び出してしまうことが頻繁にあり、それが原因で死んでしまうことがある。また、スレ傷や酸欠、水質悪化、高水温並びに水温差に弱く、上手に飼育しないとすぐに死んでしまう為、飼育の難易度は高い。成魚の場合は狭いと弱るため、最低でも』九十センチメートル『以上の水槽が不可欠となる。泳ぎは機敏で落ち着きがなく高速で泳ぎ回る』ことから、『衝突防止策としてガラス面には水草をたくさん植えて、ジャンプによる飛び出しを防止する』ので、『水槽の上部にはクッション性があるものでフタをするとよい。餌は成魚は配合飼料に慣れるのに時間がかかるため、最初のうちは小魚、赤虫の生餌などがよい。尚、配合飼料に慣れさせる為には、オイカワを一緒に飼育すると効果的である』。十センチメートル『くらいの幼魚であれば』、『成魚よりも比較的飼い易い』とある。「鰣」は福井県三方湖とこれに注ぐ鰣川(リンクはグーグル・マップ・データ)にも産し、「鰣」という名はこの鰣川に由来する。一説に鰭が早く傷むところから、「早子(はす)」とされるともあった。

「尾・鬣〔(ひれ)〕、赤し」「尾」「鬣」は分離した。ハスは個体差があるが、一部の個体は尾鰭だけでなく、他の鰭も赤みを持つものが有意に認められるからである。グーグル画像検索「Opsariichthys uncirostrisを見られたい。

「連〔なり〕行く」群れを成すの意で採る。

「浮陽」不詳。漢方用語に「浮陽」=「戴陽(たいよう)」という語があり、下部が真寒の様態で、上部が仮熱の状態を指す、とあるので、頭部が熱を持った魚で、それで、水中から飛び出る(という説明は私の勝手な解釈)というのか? よく判らぬ。

「脾胃」複数回既出既注。漢方で広く胃腸・消化器系を指す。

「虛乏」あるべきバランスのとれた正気が欠乏している状態。

『順が「和名」に、鰣魚を『波曾〔(はそ)〕』と訓ず』源順の「和名類聚鈔」巻十九の「鱗介部第三十 竜魚類第二百三十六」に、

   *

鰣 「唐韻」云、鰣【音「時漢語抄」云、『波曾』。】、魚名也。似魴肥美、江東四月、有之。

   *

『「本草綱目」所載の「鰣魚」にあらず』「本草綱目」巻四十四「鱗之三」に、

   *

鰣魚【「食療」。】

釋名寗源曰、初夏時有、餘月則無、故名。

出産時珍曰、按孫愐云、鰣出江東、今江中皆有、而江東獨盛、故應天府以充御貢。每四月鱭魚出後卽出、云従海中泝上、人甚珍之。惟蜀人呼爲瘟魚、畏而不食。

集解時珍曰、鰣、形秀而扁、微似魴而長、白色如銀、肉中多細刺如毛、其子甚細膩。故何景明稱其銀鱗細骨、彭淵材恨其美而多刺也。大者不過三尺、腹下有三角硬鱗如甲、其肪亦在鱗甲中、自甚惜之。其性浮游、漁人以絲網沈水數寸取之、一絲罣鱗卽不復動才、出水卽死、最易餒敗。故袁達「禽蟲述」云、鰣魚罥網而不動、其鱗也。不宜烹煮。惟以筍・莧・芹・荻之屬、連鱗蒸食乃佳。亦可糟藏之。其鱗與他魚不同、石灰水浸過、晒乾層層起之、以作女人花鈿甚良。

氣味甘、平、無毒。詵曰、發疳痼。

主治補虚勞【孟詵。】。蒸下油、以瓶盛埋土中、取塗湯火傷甚效【寗源。】。

   *

書いてあることは、益軒が記した内容とかなり合致するのに、益軒が同名異魚と断じている理由が全く判らぬ。]

2018/11/22

大和本草卷之十三 魚之上 ※1※2魚 (ギギ類)

 

2魚 時珍食物本草註云諸生溪河中長五六

[やぶちゃん注:「1」=「魚」+「盎」。「2」=「糸」+「系」。]

 寸黃褐色無鱗濶口口有細齒如鋸鰓下有硬刺

 骨亦硬善吞小魚肉薄味短氣味甘平無毒主益

 脾胃和五藏發小兒痘疹多食生疥々山中

 溪河ニアリアギノ下ノ兩傍ニヒレアリ又背ニヒレアリ皆刺

 ナリ三處共ニ人ノ手ヲフルレバ人ヲサシテ痛ムナマツニ似

 テ小ナリ又鰷ノ形ニ少シ似タルモアリ黃褐色ナリ處々ニ斑

 文アリテ段ヲナスモアリ長三四寸或五六寸山州嵯

 峨ノ川ニテミコ魚ト云ハギヾノ赤キ也形狀ハ同シ筑紫

 ノ村民蜂振ト云ハリアル故名ツク海ニモ此ノ魚アリ案ニ

 本草所載之黄顙魚又號黃𩼝魚又名䱀䰲時珍云

[やぶちゃん注:「黃𩼝魚」の「𩼝」の(つくり)の下部は「甘」ではなく「耳」のように見えるが、このような漢字が見当たらないので取り敢えずこれを当てておく。中文サイトで「玉篇」なる書物に「黃鱨魚」という名が載っており、「鱨」の異体字が「𩼝」であるからである。]

 無鱗魚也身尾倶似小鮎腹下黃背上靑黃情最

 難死反荊芥今案恐クハコレ2魚ト同物異名ナルヘシ

 凡異名同物多シ黃顙魚ヲタラト訓スルハ非ナリ

○やぶちゃんの書き下し文[やぶちゃん注:「1」=「魚」+「盎」。「2」=「糸」+「系」。]

2(ギヾ)魚 時珍「食物本草」の註に云はく、『諸溪河中に生ず。長さ、五、六寸、黃褐色、鱗、無く、濶〔(ひろ)〕き口。口に細き齒有り、鋸のごとし。鰓〔(あぎと)〕〔の〕下、硬き刺〔(はり)〕有り。骨も亦、硬く、善く小魚を吞む。肉、薄く、味、短〔(おと)れり〕。氣味、甘、平。毒、無し。脾胃を益し、五藏の和〔す〕ことを主〔(つかさど)〕る。小兒の痘疹を發し、多く食へば、疥〔(はたけ)〕を生ず』〔と〕。○處々山中溪河にあり。あぎ〔と〕の下の兩傍に、「ひれ」あり、又、に「ひれ」あり、皆、刺(はり)なり。三つ處共に、人の手をふるれば、人をさして、痛む。ナマヅに似て小なり。又。鰷〔(ハヤ)〕の形に少し似たるもあり。黃褐色なり。處々に斑文ありて段をなすもあり。長さ、三、四寸、或いは、五、六寸。山州嵯峨の川にて「ミコ魚」と云ふは「ギヾ」の赤〔きもの〕なり。形狀は同じ。筑紫の村民、「蜂振(〔ハチ〕フリ)」と云ふ。はりある故、名づく。海にも此の魚あり。案ずるに、「本草」所載の「黃顙魚」、又、「黃𩼝魚」と號し、又、「䱀䰲」と名づく。時珍云はく、『無鱗魚なり。身・尾倶に、小〔さき〕鮎(ナマヅ)に似て、腹の下、黃。背の上、靑黃。情、最も死に難〔(がた)〕し。荊芥〔(けいがい)〕に反す。今、案ずるに、恐らくは、これ、「2魚」と同物異名なるべし。凡そ、異名同物、多し。「黃顙魚」を「タラ」と訓ずるは非なり。

[やぶちゃん注:やや問題点(中国のそれは良安の推理する通り、ギギ科 Bagridae のギギの仲間である可能性は結構あるが(ナマズに似てしかも時珍は「軋軋」(現代中国語では「yàyà」。「ィアィア」)と鳴くとする(後掲)からである)、別種である(本邦産種は以下に見る通り、総て日本固有種)。また、後で注するように「ミコ魚」=「蜂振」についてははギギ類ではないがあるが、本邦産種としては、

条鰭綱ナマズ目ギギ科ギバチ属ギギ Pelteobagrus nudiceps(新潟県阿賀野川より以南、四国の吉野川、九州東部まで分布する日本固有種)

をまず挙げてよかろう。それ以外に、同じギギ科の、

ギギ科 Pseudobagrus属ネコギギ Pseudobagrus ichikawai(愛知県・岐阜県・三重県(伊勢湾・三河湾流入河川)に分布する日本固有種。体色は黒褐色に黄褐色の斑紋が入る。幼魚は明色斑が明瞭であるが、成長に伴い、不明瞭となる。絶滅危惧IB類(EN))

ギバチ属ギバチ Pseudobagrus tokiensis(神奈川県・富山県以北の本州に分布する日本固有種。体色は茶褐色から黒褐色。幼魚は黄色味を帯びたはっきりとした斑紋を有する)

や、長くそのギバチと同種とされてきたが、近年、染色体数の違いなどから独立種とされた、

ギバチ属アリアケギバチ Pseudobagrus aurantiacus(九州西部及び長崎県壱岐に分布する日本固有種。準絶滅危惧種(NT))

も掲げておく必要がある(後者は特に益軒のフィールド辺縁であるからである)。非常に興味深いのは、これら四種は夜行性で、音を発すること、無鱗で棘を有することなど、その習性や生態はよく似ているが、本邦内での分布が全く重なっておらず、自然に棲み分けをしている点である(熊本県球磨川にギギがいるが、これは琵琶湖からの人為移入と推測されている)。ウィキの「ギギから引く。『琵琶湖、岡山県、広島県で』「ギギ」及び「ギギウ」、『岐阜県で』「クロイカ」及び「クロザス」と呼ぶ、とある。『全長は』三十センチメートル『にもなるなど、ギギ科のなかで最も大きくなる。同じギギ科のギバチに似ているが、ギギは尾びれが』二『叉になっているので区別できる。背びれに』一『棘』七『軟条、尻びれに』二十『軟条、腹びれに』六『軟条、触鬚が』四『対。上顎に』二『対、下顎に』二『対、合計』八『本の口ひげがある。昼間は岩陰に潜み、夜間に出て』、『底生動物や小魚などを食べる。腹びれの棘と基底の骨をすり合わせ、「ギーギー」と低い音を出す』(漢字で「義義」・「鱨」本文内の私の注を参照)等と記すが、和名はこのオノマトペイアである)。『背びれ・胸びれの棘は鋭く、刺さると痛い』。『直径約』二ミリメートル『の強い粘着性のある黄褐色の卵は』千二百『粒から』二千百『ほど産卵された後に約』七十『時間で孵化し、体長』五ミリメートル『程度の稚魚となる。稚魚は』一『週間で卵黄を吸収し』九ミリメートル『程度まで成長すると、摂食を開始する』。『煮物、フライ、天ぷらなど、食用として利用される』が、現在は個体数が減ってきており、各地で希少種とされていて、保全すべき種になりかけている。私が小学校二年生の時、最初に買って貰った小学館の「魚貝の図鑑」で真っ先に魚体と名前を覚えたのがギギだった。名前が怪獣みたようだったことと、そのブッ飛びの命名由来と、危険がアブナい毒針との三役揃い踏みときた上に、その直後に裏山の溜池の水門でモッゴ(条鰭綱コイ目コイ科モツゴ属モツゴ Pseudorasbora parva獲りの最中、見かけたような気がしたから、衝撃の刷り込み効果が生じたのであった。

2(ギヾ)魚」(「1」=「魚」+「盎」。「2」=「糸」+「系」)サイト「真名真魚(まなまな)字典」のこちらで、本条を引き、最後に、この奇体な二字について、『二字とも大辞典に記載なし』。孰れも、本字一『字だけで魚の名をあらわす用例は見当たら』ず、「2」或いは「絲」を『伴って、ギギをあらわす。ツクリの』「盎」『は、おそらく、ギギを中国でも現してきた』「䱀䰲」の「」の「央(オウ)」『と、まったく別文字だが』、『マナガツオやタナゴを指す』「鰪」の(へん)の(アフ(オウ))『とが、混同して(意識的か無意識かはわからないが)生まれた文字のような気がする。また、翻刻に当って』、「2」と「絲」及び「[「魚」+「系」]」とを『同字として活字化している場合』(「古事類苑」等)が『あり、原典執筆者の用例に戻り』、『確認が必要かもしれない』とある。

『時珍「食物本草」の註』明の汪穎の食療食養専門書「食物本草」に同時代の李時珍が注したものか。

「脾胃」漢方で広く胃腸・消化器系を指す語。

「五藏の和〔す〕こと」「心(しん)」・「肝」・「脾」・「肺」・「腎」の五つの内臓(現代医学のそれとは必ずしも一致しない)の全体のバランスを整える機能・機序。

「小兒の痘疹を發し」子どもが食べると天然痘を発症し。ちと大袈裟過ぎである。天然痘様の激しい発疹と採っておく。

「疥〔(はたけ)〕」顔面単純性粃糠疹(ひこうしん:pityriasis simplex faciei)の俗称。顔面に、境界が比較的鮮明で軽い、色素脱失性の大小の円形病変が生じる疾患。病変部は乾燥し、粃(しいな:籾殻(もみがら))や糠(ぬか)のような感じで落屑(らくせつ:皮膚の表層が大小の角質片となって剝げ落ちること)するため、白っぽく粉を掃いたように見える。通常は自覚症状がない。発赤や丘疹がみられることもある。以前は「顔面白癬」と考えられていたが、現行では白癬菌が病原体であるとは証明されていない。思春期前の小児、特に男児に多く、思春期になり、皮脂分泌が増えると自然に治癒する。症状は夏季に顕著になる。同様の病変が頭部に生じるものは「頭部単純性粃糠疹」、顔面と頭部に生じるものは「顔面頭部単純性粃糠疹」と呼ばれる(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)。

「鰷〔(ハヤ)〕」複数回既出既注であるが、再掲しておく。複数の種の川魚を指す。ハヤ(「鮠」「鯈」などが漢字表記では一般的)は本邦産のコイ科(条鰭綱骨鰾上目コイ目コイ科 Cyprinida)の淡水魚の中でも、中型で細長い体型を持つ種群の総称通称である。釣り用語や各地での方言呼称に見られ、「ハエ」「ハヨ」などとも呼ばれる。呼称は動きが速いことに由来するともされ、主な種としては、

コイ科ウグイ亜科ウグイ属ウグイ Tribolodon hakonensis

ウグイ亜科アブラハヤ属アムールミノー亜種アブラハヤ Rhynchocypris logowskii steindachneri

アブラハヤ属チャイニーズミノー亜種タカハヤ Rhynchocypris oxycephalus jouyi

コイ科 Oxygastrinae 亜科ハス属オイカワ Opsariichthys platypus

コイ科 Oxygastrinae亜科カワムツ属ヌマムツ Nipponocypris sieboldii

カワムツ属カワムツ Nipponocypris temminckii

などが挙げられる。ここでそれらに「形に少し似たるもあり」と言うところが、私が当初、少し同定比定を躊躇したところである。以上の「ハヤ」類はナマズ目 Siluriformes のナマズ類とは全く縁がなく、普通にイメージするナマズと彼らは全く似ていないからである。しかしながら、ギギ類はこちらの小学館「日本大百科全書」の解説の脇にある博物画(クリックで拡大出来る。ネコギギ・ギバチ・ギギの三種の図がある)を見て戴くと判る通り、実はナマズの癖にナマズナマズしていない、ちょいとハヤっぽいスマートな流線型をしているのである。特にギギは尾鰭が二叉していて、似ていると言えるのである。

「處々に斑文ありて段をなすもあり」先に示した通り、若年個体にはこうした斑紋が見られる。

「山州嵯峨の川」山城国嵯峨川は嵯峨嵐山附近を流れる保津川の別称。

「ミコ魚と云ふは「ギヾ」の赤〔もの〕なり」これが一番引っ掛かった。結論から言うと、これはギギ科 Bagridae のギギ類ではない「赤佐」で、ナマズ目 Siluriformes ではあるが、アカザ科 Amblycipitidae の、アカザ属アカザ Liobagrus reini である。ウィキの「アカザ」によれば、『胸鰭と背鰭に鋭く毒のある棘条があり、その棘条に刺されると痛いことからつけられたアカザスが転訛してこの名になったとされている。他には、アカネコ、アカナマズの名がある。日本固有種で、秋田県、宮城県以南の本州と四国、九州に分布する』。『ナマズの仲間としては小型で、体長は最大』十『前後。ドジョウのように円筒形の細長い体型をしており、英名でもLoach catfish(ドジョウナマズ)と呼ばれる。体色は、やや赤色がかるが地域変異が大きい。生息域の重複や頭部の形状などの特徴から』、『ギギやギバチに若干似るが、以上のような特徴から識別は容易である。また、他種と比べて頭部が小さく』、『側線が胸鰭の後ろ近辺までしかないという違いがある。口ひげは上顎に』二『対、下顎に』二『対の計』八『本である。胸鰭に』一『本ずつ、背鰭に』一『本の刺条を持つ。刺条には毒腺があり、刺されると痛む。背鰭の後部には脂鰭があるが』、『その基底は長く、後端で尾鰭と連結する。尾鰭の後縁は丸く扇形になる』。『水温の低い河川の上流域下部〜中流域、渓流部の清澄な水底に生息する。高温に弱く、水温が』二十五『度以上になると死亡個体が出始める』。『夜行性。日中は水底の浮き石の下、岩の隙間などに隠れており、夜間や水の濁った時に活動する。形態と同様、動作もドジョウに似ており、水底の石の間を伝いぬうように動き回る。肉食性で、主に水生昆虫を捕食する』。『卵はゼリー状の物質に守られ、ひとかたまりに産み付けられる』とある。しかし、画像を幾つか並べてみると、素人目にはギバチとかなり似ており、夜行性であること、毒針を有すること等、これは益軒がギギ類と誤認しても無理はないと私は思ったものである。

『筑紫の村民、「蜂振(〔ハチ〕フリ」と云ふ』ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のアカザのページの「地方名・市場名」の欄に『ハチウオ』『ハチナマズ』とあった。一方、同氏のギギページには「ハチ」で始まる異名はないから、この呼称は正しく「アカザ」を指している可能性が頗る高いと思う。

「海にも此の魚あり」これを問題にする人がいるかも知れぬが、どっこい! 背鰭と胸鰭の第一棘条が毒棘となっている、危険海水魚として名の知れた、ナマズ目ゴンズイ科ゴンズイ属ゴンズイ Plotosus japonicus 「ギギ」「ハゲギギ」「ググ」(真正のギギの地方名に「クグ」がある)「ギギュウ」といった「ギギ」と同じ名・異名をも持っているのである。海に「ギギ」は「いる」んですよ!

「本草」「本草綱目」巻四十四の「鱗之四」に(「主治」は略す)、

   *

黃顙【「食療」。】

釋名黃鱨魚【古名。】。黃頰魚【「詩註」。】。䱀䰲【央軋。】黄。時珍曰、顙、頰以形、鱨以味、軋以聲也。今人析而呼爲黃、黃軋。陸璣作黃、楊謬矣。

集解時珍曰、黃顙、無鱗魚也。身尾俱似小鮎、腹下黃、背上靑黃、腮下有二橫骨、兩鬚、有胃。羣游作聲如軋軋。性最難死。陸璣云、魚身無頭、頰骨正黃。魚之有力能飛躍者。陸佃云、其膽春夏近上、秋冬近下。亦一異也。

氣味甘、平、微毒。詵曰、無鱗之魚不益、人發瘡疥。時珍曰、反荊芥、害人。

   *

「鮎(ナマヅ)」条鰭綱新鰭亜綱骨鰾上目ナマズ目ナマズ科ナマズ属ナマズ Silurus asotus。禅宗の公案を絵画化した「瓢鮎図」で知られる通り、漢語漢字・中国語としての「鮎」はナマズを指す。因みに、中国では条鰭綱キュウリウオ目キュウリウオ亜目キュウリウオ上科キュウリウオ科アユ亜科アユ属アユ Plecoglossus altivelis は「香魚」である(アユは北海道・朝鮮半島から中国・ベトナム北部まで、東アジア一帯に分布するが、本邦がその中心である)。

「情」性質。

「最も死に難〔(がた)〕し」なかなか死なない。ナマズ類は概して強健ではある。

「荊芥に反す」「荊芥」シソ目シソ科イヌハッカ属ケイガイ Schizonepeta tenuifoliaの全草を乾燥させたもの。ウィキの「ケイガイによれば、『中国原産の草本で花期は初夏から夏』。『花穂は発汗、解熱、鎮痛、止血作用などがあり、日本薬局方に生薬「荊芥(ケイガイ)」として収録されている。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などの漢方方剤に配合される。「アリタソウ」という別名がある。ただし、本種はシソ科であり』、和名『アリタソウ』(有田草:ナデシコ目ヒユ科 Chenopodioideae Chenopodieae 連アカザ属アリタソウ Chenopodium ambrosioides)『とは全く別の物である』とあるので注意が必要。漢方サイトによれば、高さは六十~八十センチメートルで、シソ科特有の強い香気を有し、初夏に淡い紫紅色の小花を穂状(すいじょう)につけた際に採取し、感冒による熱・頭痛・鼻炎・咽喉の痛みなどを改善する働きがあるとする。

『「黃顙魚」を「タラ」と訓ずるは非なり』確かに。「本草綱目」のそれは鱈(条鰭綱タラ目タラ科タラ亜科 Gadinae のタラ類。日本近海では北日本沿岸にマダラ(マダラ属マダラ Gadus macrocephalus)・スケトウダラ(スケトウダラ属スケトウダラ Theragra chalcogramma)・コマイ(コマイ属コマイ Eleginus gracilis)の三属三種が分布するが、単に「タラ」と呼んだ場合はマダラを指すことが多い)じゃあ、ないねえ。]

2018/10/09

大和本草卷之十三 魚之上 ヒビ (ボラ)

 

【和品】

ヒヾ 琵琶湖ニアリ長六七寸形色似鯔魚只鱗細キ

 ノミ

○やぶちゃんの書き下し文

【和品】

ヒビ 琵琶湖にあり。長さ、六、七寸。形・色、鯔魚〔(ボラ)〕に似る。只〔(ただ)〕、鱗、細きのみ。

[やぶちゃん注:これは困った。琵琶湖産の魚類で「ヒビ」という名を持つ或いは持っていた魚で、体長十八~二十一センチメートルほどで、形も色もボラに似ているが、鱗がボラよりも細い(ボラは鱗の一枚がずんぐりとして大きい)というのだ。幾ら調べても、出てこない。全くの『不詳』として掲げるしかないと思ったが、ここで最後の切り札として――実はこれはなかなかに丈夫で、河川の中流域にまで遡上することもある、ボラそのものなのではないか?――という過激なことを考えて検索をかけてみた。すると! サイト「雑魚の水辺」の「ボラ」に驚くべきことが記されてあったのだ! 『河口や汽水域ではごくごく普通に見られ個体数はかなり多い。若魚はたまに河川の中流域でも見られる。汚染の進んだ都市河川にも多い』とか、『春や夏になると』、『ボラの若魚ハクやオボコが河口浅瀬に群れたり、集団で河川を遡上して河川支流に進入したり』するとあるのは納得として、『海でよく見られる魚であるが、幼魚や若魚は川を数十』キロメートル『も遡り、完全な淡水でも暮らすことができる。ダムや堰堤がなかったころは、淀川、宇治川を遡り』、『琵琶湖まで遡上した記録があるというから驚きだ』(下線太字やぶちゃん。以下も同じ)という文字通り、驚きの記載に出くわしたのだ! あゆの店きむら」のサイト「琵琶湖と鮒寿しのWEBマガジン」の「琵琶湖の話」にも、『本当の意味で琵琶湖は海と繋がっていた時代があった。江戸時代、チヌ』(スズキ目タイ科ヘダイ亜科クロダイ属クロダイ Acanthopagrus schlegelii の異名。ウィキの「クロダイによれば、『河口の汽水域にもよく進入』し、『さらに河川の淡水域まで遡上することもあるため、能登地方では川鯛とも呼ばれる』とある)『やボラなど海水魚が琵琶湖で捕れたという記録が残っている。淀川を遡上してきたのである』とはっきり書いてある。現在、ボラが淀川水系でどれくらい上流まで遡上しているを調べてみると、これがちゃんとあった! 龍谷大学公式サイト内「ダムの魚道は機能しているのか?」理工学部山中裕樹講師らが生き物に配慮した河川整備に貢献する魚類調査手法を開発という記事の中にそれがあったのだ! これは『水中を漂う魚類のDNAを回収・分析することで生息する魚種やその生息量を推定する、いわゆる「環境DNA分析」の技術』による調査なのだが、それによれば、『淀川には下流側から、淀川大堰、天ヶ瀬ダム、瀬田川洗堰という3つの大規模な河川横断構造物がありますが、これらのうち、魚道が設置されているのは淀川大堰のみです。淀川河口から琵琶湖に至る15地点で月毎の採水調査(1地点あたり2リットル)を1年間実施した結果、対象としていた海産魚であるスズキとボラは淀川大堰を通過して、河口からおよそ36kmの京都市伏見区付近まで遡上していることが確認されました』とあるのだ!(記事の下方右にある「環境DNA分析」によるボラの地図データを見られよ!) さすれば! これは、正真正銘の、

琵琶湖に遡上してきた条鰭綱ボラ目ボラ科ボラ属ボラ Mugil cephalus の幼魚

なのではあるまいか? であってみれば、形も色も成魚のボラに似ているが、まだ幼年であるが故に、鱗の大きさがデカくないというのも腑に落ちるではないか?! 大方の御叱正を俟つものではある。]

2018/09/20

大和本草卷之十三 魚之上 泥鰌(ドヂヤウ) (ドジョウ)

 

泥鰌 海鰌ハクジラ也極テ大ナリ泥鰌ハ極テ小也ナレ

 ドモ形ハ相似タリ性温補脾胃ヲ助ク但峻補乄塞氣

 然煮之有㳒○一種京シマドヂヤウ一名鷹ノ羽

 トチヤウト云アリ又ホトケトチヤウ共云筑紫ニテカタビ

 ラトチヤウト云泥中ニハヲラス沙溝淸水ニ生ス本草

 時珍曰生沙中者微有文采ト是也ドヂヤウノ白色

 ニテ有文采者也○泥鰌ノ羹先米泔ニテ能煮ア

 フラ浮ヒタルヲスクヒテスリミソヲ入一沸スレハ氣ヲ不塞乄

 ツカエス煮鰌法也

○やぶちゃんの書き下し文

泥鰌(ドヂヤウ) 海鰌は「クジラ」なり。極めて大なり。泥鰌は極めて小なり。なれども、形は相ひ似たり。性、温補して、脾胃を助く。但し、峻補〔(しゆんほ)〕して、氣を塞ぐ。然〔れども〕之れを煮〔るに〕、㳒〔(はふ)〕、有り。

○一種、京、「シマドヂヤウ」、一名「鷹ノ羽ドヂヤウ」と云ふあり。又、「ホトケドヂヤウ」とも云ふ。筑紫にて「カタビラドヂヤウ」と云ふ。泥中にはをらず。沙・溝・淸水に生ず。「本草」、時珍曰はく、『沙中に生ずる者、微かに文采〔(もんさい)〕有り。』と。是〔(これ)〕なり。「ドヂヤウ」の白色にて文采有る者なり。

○泥鰌の羹〔(あつもの)は〕、先〔(まづ)〕、米〔の〕泔〔(ゆする)〕にて、能く煮、あぶら浮びたるをすくひて、「すりみそ」を入れ、一沸〔(ひとわかし)〕すれば、氣を塞がずして、つかえず。鰌を煮る法なり。

[やぶちゃん注:脊索動物門脊椎動物亜門条鰭綱骨鰾上目コイ目ドジョウ科ドジョウ属ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus が本邦産の代表的一般種。属名「ミスグルヌス」はヨーロッパドジョウ(Misgurnus fossilis:英名European weatherfish or European weather loach)を指す古い英語名に基づき、種小名「アンギリカンダトウス」は「ウナギの尾のような」の意。但し、市販されているもの及び料理屋で供されるそれらは多くがドジョウ属カラドジョウ(唐泥鰌)Misgurnus dabryanus であることが多くなったという(ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のカラドジョウのページによるが、泥鰌好きの私も強くそう感ずる)。同種はアムール川からベトナムまでの中国大陸東部・朝鮮半島・台湾が原産地であるが(ここはWEB図鑑「カラドジョウに拠る)、ぼうずコンニャク氏によれば、カラドジョウは『日本では関東地方、東海地方、近畿地方、愛媛県などで確認されている。日本では国外外来種で、要注意外来生物。群馬県、栃木県、埼玉県、神奈川県、長野県、愛知県、岐阜県、滋賀県、山口県、香川県、愛媛県などで定着』してしまっているとあり、WEB魚図鑑「カラドジョウ」には、『本種は食用として輸入されたドジョウに混ざって逃げ出した、あるいは遺棄され日本に定着したものとされている』。『しかし、日本列島ではふたつの異なる遺伝的集団があることが報告されており、そのうちの一つは中国のものと同じ集団とされる(移植され』て『定着したものと思われる)が、もう一つの集団は他の地域で見られない集団であると』され、『現在』、『研究が進められているところである』とある。なお、私も若い頃はよくやったが、恐るべき有棘顎口虫の中間宿主となることがあるから、「踊り食い」などの生食はやめたがいい。

「ドヂヤウ」ウィキの「ドジョウによれば、『多くのドジョウ料理店などでは「どぜう」と書かれていることもあるが、字音仮名遣に従った表記では「どぢやう」が正しいとされている。大槻文彦によれば、江戸後期の国学者高田与清の松屋日記に「泥鰌、泥津魚の義なるべし」とあるから「どぢょう」としたという。「どぜう」の表記は越後屋初代・渡辺助七が「どぢやう」は』四『文字で縁起が悪いとして縁起を担ぎ』、三『文字の「どぜう」を用いたのが始まりといわれる』とあり、私の行きつけの「駒形どぜう」の主人もそう言っていた。

『海鰌は「クジラ」なり』例えば、かの曲亭(滝沢)馬琴の描いた鯨図譜の題名は「海鰌圖説」(かいしゅうずせつ:現代仮名遣)である。早稲田大学図書館古典総合データベースのこちらで全図見られる。但し、現在、本邦には「海泥鰌」「海鰌」「うみどじょう」の名を標準和名に持つ。骨魚綱条鰭亜綱側棘鰭上目アシロ目アシロ亜目アシロ科ヨロイイタチウオ属ウミドジョウ Loach brotula がいるので注意されたい。ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のウミドジョウのページをリンクさせておく。それによれば、無論、海水魚で水深三十~二百メートルのやや深い砂泥地に棲息し、分布は千葉県外房から九州南岸の太平洋沿岸、新潟県から九州西岸の日本海・東シナ海、及び東シナ海大陸棚斜面から上部で朝鮮半島東岸・済州島・山東省から海南島の中国沿岸、オーストラリア北岸・東岸・西岸とあり、『食用として認知されていない』とある。ちょっと漫画っぽい風体である。

「クジラ」脊索動物門脊椎動物亜門顎口上綱哺乳綱獣亜綱真獣下綱ローラシア獣上目 Laurasiatheria 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla の鯨凹歯類 Cetancodonta、或いはその下位の鯨反芻亜目クジラ目Cetacea に属するクジラ類。

「形は相ひ似たり」おいおい! 似てませんって! 益軒先生! と叫ぼうと思ったら、後に示すように「本草綱目」の受け売りだったのね、先生。

「峻補して、氣を塞ぐ」狭義には、漢方医学に於いて補益力の強い薬物を用いて、気血の激しい虚なる状態や陰陽の気が孰れかに暴走している事態を急激に変化させる療法を指すが、ここはそうした薬効作用が甚だ強いため、精神面での副作用を起こし、気鬱になるという意味であろう。

「然〔れども〕之れを煮〔るに〕、㳒〔(はふ)〕、有り」「㳒」は「法」の異体字。後述されている。

「シマドヂヤウ」「鷹ノ羽ドヂヤウ」日本固有種である、ドジョウ科シマドジョウ(縞泥鰌)属シマドジョウ Cobitis biwae であるが、近年同種からCobitis sp. として「オオシマドジョウ」・「ニシシマドジョウ」・「ヒガシシマドジョウ」「トサシマドジョウ」(どれの異名かは不詳であるが、「スジシマドジョウ」の名もあるようである)の四亜種が分離されているらしく(ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のニシシマドジョウのページに拠る)、それらも当然、「タカノハドジョウ」の異名を引き摺って保有していると考えねばならぬし、ほかにもヤマトシマドジョウ Cobitis matsubarae もおり、それも含めた方が無難である(後で示すサイト川のさかな情報館シマドジョウ属も参照のこと)。また、ウィキの「シマドジョウ」によれば、他にも「カワドジョウ」「ササドジョウ」「スナサビ」「スナメ」などの異名や地方名が多いとあり、『山口県西部・四国南西部を除く』、『ほぼ日本各地の淡水域に生息している。河川の中流域の砂礫底に多く見られる』とある。

「ホトケドヂヤウ」記載ではシマドジョウの異名のようにしか見えないが、現行ではシマドジョウとは科レベルで異なる全くの別種である。コイ目タニノボリ科フクドジョウ(福泥鰌)亜科ホトケドジョウ(仏泥鰌)属ホトケドジョウ Lefua echigonia。日本固有種。シマドジョウのような有意な縦縞はなく、体色も全体に茶褐色から赤褐色を呈して(黒点散在)いて、全く似ていない。分布域は青森県を除く、東北地方から三重県・京都府・兵庫県。但し、フクドジョウ属フクドジョウ Noemacheilus barbatulus の方は、縦縞があり、ややシマドジョウに似てはいる。しかし、フクドジョウは国内での自然分布域は北海道のみで、近代以降に福島県・山形県米沢市に移入、他にはシベリアから中国東北部・朝鮮半島・サハリンに分布する北方種であり、益軒の頃の認識世界の外にいた種であるから、考える必要はない。

「カタビラドヂヤウ」「帷子泥鰌で、先の仏泥鰌の異名だろう」と思っていたが、ちゃんと調べようと思って検索してみて、驚いた! これは何と! この「大和本草」のこの部分の記載(!)によって、九州の有明海へ流入河川に固有の種として、アリアケスジシマドジョウ Cobitis kaibarai という学名(種小名に注目!)が与えられているものの、福岡県での他種とのヤマトシマドジョウCobitis matsubarae などとの混称異名である。この事実を発見したのは、サイト川のさかな情報館シマドジョウ属で、そこには、『筑紫(現在の福岡県)で初めてシマドジョウ類(カタビラトチヤウ)を記録した本草学者「貝原益軒」にちなむ』とあるのである!

「泥中にはをらず。沙・溝・淸水に生ず」シマドジョウ類は『河川の中流域の砂礫底に多く見られ』(ウィキの「シマドジョウ」)、ホトケドジョウも『水温が低く流れの緩やかな河川や湿地、水田等に生息する。あまり底層には潜らず、単独で中層の水草の間を泳ぎ回ることが多い』(ウィキの「ホトケドジョウ」)とあるから、棲息域は孰れでも齟齬はない。

『「本草」、時珍曰はく、『沙中に生ずる者、微かに文采〔(もんさい)〕有り。』と』「本草綱目」巻四十四の「鱗之三」の「鰌魚(しゅうぎょ)」(下線太字はやぶちゃん)。

   *

鰌魚【音酋。「綱目」。】

釋名泥鰍【俗名。】。【「爾雅」。】。時珍曰、按、陸佃云、鰌、性酋健、好動善優、故名。小者名鰌魚。孫炎云、者尋習其泥也。

集解時珍曰、海鰌生海中、極大。江鰌生江中、長七八寸。泥鰌生湖池、最小長三四寸、沈於泥中。狀微似鱓而小、鋭首肉身、靑黑色、無鱗。以涎自染、滑疾難握。與他魚牝牡、故「莊子」云、『鰌與魚游。』。生沙中者微有文采。閩廣人去瘠骨、作臛食甚美。「相感志」云、燈心煮鰌甚妙。

氣味甘、平。無毒。景曰、不可合白犬血食。一云凉。

主治暖中益氣、醒酒、解消渴【時珍。】。同米粉煮羮食調中、收痔呉球。

附方新五。消渴飮水、同泥鰌魚【十頭陰乾、去頭尾、燒炭。】乾荷葉等分。爲末。每服二錢、新汲水調下、日三。名沃焦散【「普濟方」。】。喉中物哽、用生鰍魚、線縳其頭、以尾先入喉中、牽拽出之。【「濟普方」。】。揩牙烏髭、泥鰍魚槐蕋狼把草各一兩、雄燕子一箇、酸石榴皮半兩、搗成團入瓦罐内、鹽泥固濟、先文後武、燒炭十觔取研、日用一月以來、白者皆黑普濟陽事不起、泥鰍煮食之【「集簡方」。】。牛狗羸瘦、取鰌魚一二枚、從口鼻送入、立肥也【陳藏器。】。

   *

『「ドヂヤウ」の白色にて文采有る者なり』それで通属性を言うというのは、ちょっと無理。

「泔〔(ゆする)〕」米のとぎ汁或いは強飯(こわめし)を蒸した後の湯を指す。かつてはこれで頭髪を洗い、また髪を梳(くしけず)る際に濡らす水として一般に用いられた。]

2018/09/06

大和本草卷之十三 魚之上 アユモドキ

 

【和品】

アユモドキ 其形色恰如鰷ニシテ口ニ泥鰌ノ如ナルヒゲア

 リ山州桂川ノ名物也其上流嵯峨ノ大井川ニモア

 リ大ナルハ一尺ハカリアリ身ト尾トアユニ似テ頭ハ不似

 頭ハ粗ドヂヤウニ似タリ凡大井川ニアユスマスイダアメノウ

 ヲアユモドキミコ魚ナトアリ

○やぶちゃんの書き下し文

【和品】

アユモドキ 其の形・色、恰も「鰷〔(アユ)〕」のごとくにして、口に「泥鰌」のごとくなる「ひげ」あり。山州桂川の名物なり。其の上流、嵯峨の大井川にもあり。大なるは一尺ばかりあり。身と尾と、「アユ」に似て、頭は似ず、頭は粗〔(ほぼ)〕「ドヂヤウ」に似たり。凡そ、大井川に「アユ」すまず。「イダ」「アメノウヲ」「アユモドキ」「ミコ魚〔(ウヲ)〕」など、あり。

[やぶちゃん注:本邦固有種の条鰭綱コイ目ドジョウ科アユモドキ亜科 Parabotia 属アユモドキ Parabotia curtus。御覧通り、アユとは無縁なドジョウの仲間である(但し、ドジョウの行う空気呼吸はしない。和名は特に尾鰭がアユのように中央が縊れて上下に分岐していることに由る)。絶滅危惧IA類(CR)。ウィキの「アユモドキ」より引く。現在、棲息が確認されているのは『京都府亀岡市の桂川水系、岡山県の旭川・吉井川水系』のみで、『琵琶湖・淀川水系(宇治川、鴨川、木津川、清滝川)、岡山県の高梁川水系、広島県の芦田川水系では』、『絶滅したか』、『ほぼ絶滅したと考えられている』。『同じアユモドキ亜科のBotia属、Leptbotia属が、インドシナ半島に生息する』。『分布の中心域は東南アジアから中国南部であり、日本のアユモドキの分布はその縁辺部にあたる』。『日本淡水魚ではアユモドキ(Leptobotia curta)が唯一のボティア系の魚であり』、『そのため』、『本種は日本産淡水魚の起源と分散経路を探究する手がかりとなり』得、『動物地理学的にきわめて重要な種であると考えられている』。全長は十五~二十センチメートルで、『体形は側扁』し、『背面や体側面の色彩は黄褐色で、腹面の色彩は白』。『頭部も鱗で覆われ』ている。『体側面は小型の円鱗で覆われ』、『側線は明瞭』。『上顎の吻端に左右に』二『本ずつ、下顎の口辺に左右に』一『本ずつ、計』六『本の口髭がある』。『眼下部に左右に』一『本ずつ』、『先端が二股に分かれた棘状突起がある』。『形態や分子系統解析からアユモドキ亜科Botinaeを、独立した科Botiidaeとする説もある』。『以前はLeptobotia属に分類されていた』。『河川の中・下流域、水路などに生息し、底質が砂礫や砂泥で石組みなどの遮蔽物が多い環境を好む』。『生息地の水質階級は岡山県の報告例では貧腐水性もしくは貧腐水性に近い中腐水性βで、水温は夏季も』摂氏三十度『を超えない水質に生息していた』。『日本に分布するドジョウ類では唯一』、『底層ではなく』、『中層に生息し、遊泳性が強い』。『薄明薄暮性で、昼間は物陰などに潜む』。『底棲のトビケラ・ユスリカの幼虫などの昆虫、イトミミズなどを食べ』、『仔魚や稚魚はプランクトンや付着動物などを食べる』。六~九月に一尾をが一尾『もしくは複数尾で追尾し、体側を擦り合わせるようにして放卵・放精する』。『河川の氾濫や水田の灌漑によって生じた一時的な水場で』、『流れが緩やかで陸生植物が繁茂し』、『一定期間水位低下がない環境でのみ産卵する』。生後二年で『成魚になる』が、『一方で生後』一『年で性成熟したオスが発見された例もある』。『滋賀県の方言で「あいはだ、うみどじょう」、岡山県の方言で「あもず、きすうお」』、『京都方言で「ウミドジョウ」』『と呼称される』(この異名「ウミドジョウ」の「ウミ」は、かつて棲息していた「琵琶湖」を指す。「あいはだ」の「あい」は「アユ」か)。『食用とされ、琵琶湖で漁獲されることもあった』。『河川改修や圃場整備による生息地や産卵場所の消失、堰による移動の妨害、水量低下などにより生息数が減少したと考えられている』。『カワウや人為的に移入されたオオクチバスによる捕食によっても生息数が減少している』。『後述するように法的に採集は禁止されているが、密猟される事もある』。『桂川水系で最大の生息地であった八木町(現:南丹市)の個体群は』一九八七年から一九八八年に、『冬季に越冬場所が枯渇してから』、『生息が確認されず』、『絶滅したと考えられ、飼育下で系統が維持されるのみとなっている』。『日本では』一九七七年に『国の天然記念物に指定されて』おり、二〇〇四年には、「種の保存法」により』、『国内希少野生動植物種に指定されている』。『休耕田を利用した産卵場所の整備、礫の設置による生息環境の改善、保全調査、保全団体や地方自治体による啓蒙活動、密漁者の監視などの保護対策が進められている』。二〇一五年『現在における生息数』は約八百頭と推定』されており、『桂川水系個体群は』二〇一四年の報告では成魚の生息数は』十『年間で』八十~七百三十尾と『推移している』。『旭川水系個体群は』二〇一〇年から二〇一五年に五十~百六十尾が『産卵場所で確認されている』。『吉井川水系個体群の生息数は』三十~五百尾と『推定され』、二〇一五年に『おける生息数は約』二百十尾『推定されている』。『人工孵化や飼育法は確立しており、神戸市立須磨海浜水族園、滋賀県立琵琶湖文化館(休館)、姫路市立水族館などで累代飼育が行なわれている』。『大阪府水生生物センターでは精子の凍結保存に成功している』とある。You Tube で、神戸市立須磨海浜水族園保護飼育ていアユモドキ動画神戸新聞社国天然記念物のアユモドキが見られる。

「鰷〔(アユ)〕」先行する大和本草卷之十三 魚之上 鰷(アユ)を参照。

「泥鰌」条鰭綱骨鰾上目コイ目ドジョウ科ドジョウ属ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus。次項がドジョウ。

「嵯峨の大井川」桂川の嵐山周辺及び上流域での異名。「大堰川」とも。ウィキの「川(淀川水系によれば、『嵐山下流域以南では「桂川」または「葛河(かつらがわ)」と称されるようになった。『土佐日記』では「桂川」、『日本紀略』では「大堰川」、『徒然草』では「大井川」の記載が見える。うち『徒然草』の第』五十一『段では、嵯峨野の亀山殿に大井川から水を引く様子を伝えている。『雍州府志』では、川の西に「桂の里」が有ることから』、『嵯峨より南の下流域を「桂川」と呼ぶようになったとあり、それより上流にあたる嵐山流域を「大井川」としている』とある。

『大井川に「アユ」すまず』「すまず」は「棲まず」。しかし、これは嘘。桂川にはアユは古来より棲息していたし、現在もいる。

「イダ」これは広汎にウグイ(コイ科ウグイ亜科ウグイ属ウグイ Tribolodon hakonensis)の異名でもあるので注意が必要

「アメノウヲ」先行する「大和本草卷之十三 魚之上 鰧魚(ビワマス)で考証した通り、この和名異名は条鰭綱サケ目サケ科サケ亜科タイヘイヨウサケ属サクラマス(ヤマメ)亜種ビワマス Oncorhynchus masou rhodurus のそれの方が遙かに古くから定着しているので注意が必要。益軒は言わんでもいいことを言って混乱を招いていることは、既に大和本草卷之十三 魚之上 鯇(ミゴイ/ニゴイ)で考察した。

「ミコ魚」異名確認は出来たが、語源は不詳。]

2018/09/03

大和本草卷之十三 魚之上 鯇(ミゴイ/ニゴイ)

 

鯇 又名順和名抄アメト訓ス不是ヨク鯉ニ似タリ

 ※ノ字ヲ和名抄ニミコイトヨム鯉ノ類也トイヘハ本草ニ

[やぶちゃん注:「※」=「魚」+(つくり)「癶」(上)+「虫」(下)。]

 靑白二色アリト云地ニヨリテ味ヨカラス近江ノ湖ニ多

 シ時珍云音混郭璞作陳藏噐曰生江湖

 中似鯉郭璞云子似鱒而大時珍曰其形長身

 圓肉厚而鬆状今案本草所云ミコイト合ス一統志曰

 白魚狀如鯉而色白或曰ミコイハ白魚ナリ是武王

 ノ舟中ニ入ルモノ也

○やぶちゃんの書き下し文

鯇(ミゴイ/ニゴイ[やぶちゃん注:前者は右ルビ、後者は左ルビ。]) 又、「〔(コン)〕」と名づく。順〔が〕「和名抄」、「アメ」と訓ず〔は〕是(ぜ)ならず。よく鯉に似たり。「※」[やぶちゃん注:「※」=「魚」+(つくり)「癶」(上)+「虫」(下)。]の字を、「和名抄」に「ミゴイ」とよむ。『鯉の類なり』といへば、「本草」に『靑・白。二色あり』と云ふ。地によりて、味、よからず。近江の湖〔うみ〕に多し。時珍、云はく、『音、混。郭璞、「」と作〔(な)〕す。陳藏噐曰はく、「江湖の中に生じ、鯉に似る」、郭璞云はく、「、子、鱒に似て大なり」、時珍曰はく、「其の形、長く、身、圓〔(まる)〕く、肉、厚くして鬆(もろ)し」。』〔と〕。今、案ずるに、「本草」の云ふ所、「ミゴイ」と合す。「一統志」曰はく、『白魚、狀〔(かたち)〕、鯉のごとくして、色、白』〔と〕。或いは曰はく、「ミゴイ」は白魚〔(はくぎよ)〕なり。是れ、武王の舟中に入るものなり〔と〕。

[やぶちゃん注:これは「本草綱目」に載る別種を一種として強引に纏めようとしており、問題のある記載となってしまっている。ともかくも、標題のルビの「ミゴイ」(身鯉・鮊)及び「ニゴイ」(似鯉)は、日本産固有種で、急流でない河川や湖沼などに棲息する、

条鰭綱コイ目コイ科カマツカ亜科ニゴイ属ニゴイ Hemibarbus barbus

のことである。ウィキの「ニゴイ」によれば(太字やぶちゃん。以下同じ)、体長は最大六十センチメートルに達する大型淡水魚で、『成魚の体色は緑褐色』を呈し、一対の鬚を持つなど、和名通り、コイ(コイ科コイ亜科コイ属コイ Cyprinus carpio)に『似るが、口吻が長く突出し』、『口は下向きにつく』。『体型は細長い流線型を示し、より流水に適する形態を示す』。『背鰭はコイのような前後に長い不等脚台形ではなく、小さく』、三角形を成し、『尾びれは二又が深い』。『日本では本州、四国、九州北部に分布する。このうち』、『中部地方以北の本州と九州北部のものがニゴイで、本州西部と四国のものは近縁種コウライニゴイ』Hemibarbus labeo『であるとされて』おり、こちらの『コウライニゴイは朝鮮半島から中国、台湾まで分布』している。『川の中流から下流、大小の湖沼と、淡水域の極めて広範囲に生息する。水の汚れにも比較的強いが、低酸素への耐性は高くない。汽水域にも生息できるが』、『海水耐性は無く、塩分濃』〇・二%『以下の水域に多く、塩分濃度』一・五%『以上の水域では捕獲され』たことがないとする。『小石や砂底がある水域を好むが、それ以外でも生息している。また、低層を泳いでいることが多いが、止水を好むコイ』やフナ(コイ亜科フナ属 Carassius)『よりも流水への適応性が高い。産卵期は水温の高い地域ほど早く』、四~七月に直径三ミリメートル『ほどの粘着性の卵を産む。稚魚は体側に黒い斑点が』十『個前後並んでいるが、成長すると』、斑点は『消える。繁殖期のオス個体には、「追星」と呼ばれる白色の瘤状小突起物が出現する』。一九八〇『年代後半に筑後川で行われた調査によれば、生後』一『年から』三『年程度を感潮域』(河川等の潮汐現象の及ぶ、河口から当該上流部までを指す。生物の生産性は高いが、汚染され易い)『で過ごし、以降は』二十キロメートル『以上上流の産卵域のある浅瀬周辺に移動する』。『雑食性であるが』、『餌は季節毎に変化し、生息水域で利用しやすいものを餌としている』。体長四センチメートル『程度までの稚魚期はプランクトン、成長すると小魚、水生生物、藻類、小型二枚貝などを食べる』。『また、成長するにつれて顕著な魚食性を示し』、『大型個体はルアーでも釣れるようになる』。『なお、発達した咽頭骨と咽頭歯を備えており、摂食した餌はそこで噛み砕かれて消化管に送られる』。『ニゴイを目当てに漁獲することは少ないが、栃木県などではサイタタキ漁』(恐らくは「サイ叩き」で「サイ」はニゴイの地方名)『と呼ばれる専門の漁が行われる。コイやフナ、ウグイ、ウナギなどの大型淡水魚と一緒に漁獲(混獲)されることがある』。『その一方、商品価値が低く』、『大型に育ち』、『膨大な数に繁殖する雑魚であり』、ウナギの稚魚であるシラス鰻や『モクズガニなども捕食することから、地域の漁協によっては駆除目的の漁獲も実施され』ている。『小骨が多いが、白身の上品な肉質で』、『食味は良好な魚であり』、『唐揚げなどで食べられる他、ヒラメの代用魚とされたこともある。旬は春とされている』。『味は良いが』、『骨が多く』、『食べにくい雑魚として扱われ、蒲鉾や天ぷらの材料として使われてきた。「ミノ」(青森県)・「セータ」(関東地方)・「アラメ」(長野県)・「マジカ」(滋賀県・京都府)・「キツネゴイ」(大阪府)・「ヒバチゴイ」(奈良県)・「イダゴイ」(岡山県)など、別名が多い。『ニゴイ属(Hemibarbus)の魚は中国を中心とした東アジア地域に分布し』、八『種類ほどが知られ』、『日本ではニゴイ、コウライニゴイの他にズナガニゴイ』Hemibarbus longirostris『が近畿地方と中国地方に分布している。全長は』二十センチメートル『ほどで、体の背中側は黄褐色の地に小さな褐色の斑点がたくさんある。他の』二『種類に比べると』、『小型で外見も異なる』とある。

 以上の太字部を御覧になれば判る通り、本邦にしかいない点で、標題ルビの「ミゴイ」「ニゴイ」は、その代表種をニゴイ Hemibarbus barbus であると言ってよいものの、それ以外に

コウライニゴイ Hemibarbus labeo

及び

ズナガニゴイ Hemibarbus longirostris

をも含めねば不十分であることが判る。

 しかも困ったことに、「本草綱目」が言う「鯇」には、後の二種が含まれている可能性が、その分布域から言って排除出来ないこともお判りであろう。

 ところが、それだけでは、実は、混乱は収まらないのであり、

「鯇」というのは現代中国では専ら、「中国四大家魚」「大和本草卷之十三 魚之上 鰧魚 (ビワマス)」の最終注を参照)の一種として有名な、コイ科亜科クセノキプリス亜科 Oxygastrinaeソウギョ属ソウギョ Ctenopharyngodon idellus を指す語

であることが、益軒の叙述の分析の混迷を倍加させてしまうのである。

 何故、「混迷」というかと言えば、「本草綱目」の「鯇」の叙述は当然、このソウギョであると読むのが自然であり、しかもソウギョは本邦には、本来は、いない魚だからである(現在は本邦に棲息し、水草を有意に食害して生態系を破壊する要注意外来生物に指定されているウィキの「ソウギョによれば、日本には明治一一(一八七八)年以降に、他の「四大家魚」とともに、日本人の有益な蛋白源として、日本列島内に導入され、『各地の川や湖沼に放流された。利根川水系への移植は、食糧難の解決のため』、昭和一八(一九四三)年と昭和二十年の二回で、合せて二万三千尾、全国へは三百七十万尾もが放流されてしまった。『また、戦後の農業形態の変化に伴って、湖沼に繁茂する水草が農業肥料などとして利用されなくなり、その繁茂を嫌った世論もあって』、『各地で』、『湖沼の水草を制限する意図』から、『利根川水系産のソウギョが各地に放流された。しかし』、『巨大に成長したソウギョは旺盛な食欲で各地の湖沼の水草を食いつくし、水草帯を生息地とする在来魚や水生昆虫の生息を脅かすなど』、『生態系に深刻な悪影響を与えることが認識されるようになった。かつて水草の繁茂する湖だった長野県の野尻湖は、ソウギョの放流後』、『水草が激減し、現在では網で囲った保護区域を除き』、『ほとんど見ることができない』。無論、水草の減少要因は『ソウギョだけでないとしても、ソウギョの放流と水草の減少が同期していることから鑑みれば、食害が原因である可能性は高い。また、水草を消化吸収した後に出す膨大な糞が湖沼底に堆積し、却って水質汚濁の原因ともなることが理解されるに至ったため、自然環境に好ましくない負荷をかける外来種と認識されるようになった』。『長野県木崎湖では、キザキフラスコモ(学名: Nitella minispora Imahori)が食害の結果、絶滅したことが報告されている』『利根川、江戸川以外では繁殖できなくとも、ソウギョ自体の寿命や放流の継続により、これらの影響は長く続くと考えられている』とある)。

 ソウギョは、体長が実に二メートルにも達する超『大型魚だが、日本で見られるのは殆どが体長』一・二メートル『程度の個体である。体は一様に緑灰色で、腹面は黄白色をしており、特に目立つ模様はない。コイに似ているが、コイの背びれは前後に細長いのに対し、ソウギョの背びれは小さくて丸っこい』。体長三センチメートル『程度までの間は、雑食性で』、『植物性プランクトンのランソウ類、ケイソウ類、緑藻類、ベンソウ類等のほか動物性プランクトン』『のワムシやミジンコを餌として』おり、体長三~十三センチメートル『程度までの間は、植物性プランクトン以外に浮遊する動物性ものやユスリカをエサとしている』。体長は十三センチメートル『程度を越えた個体は草食性で、水中で成長する藻や』、『水面で成長するウキクサやヒシなどの他、マコモやヨシなどの抽水植物や水面上に垂れ下がった雑草なども食べる。口に歯はないが、喉に丈夫な咽頭歯をもち、これで植物を刈り取って摂食する。緑色をした』一センチメートル『くらいの丸い糞が新鮮な状態で確認できたら』、『ソウギョが近くにいる可能性が高い』とある。

 以上から判然とするように、益軒が「本草綱目」の記載は本邦のニゴイとよく一致する、などと如何にもしたり顔で能天気なことを言っているのであるが、そもそもが

二種は、観察能力の低い魚に詳しくない素人が見ると「コイ」に似ている

のであり、当然、

中型個体なんぞを言葉だけで中途半端に説明されたならば、「ニゴイ」と「ソウギョ」は同じ魚だ、と誤認するに違いない

のである。

〔(コン)〕」中文ウィキの「草魚」(=ソウギョ)に、晋の郭璞の「爾雅注」に「鯇、今、魚、似鱒而大」とある。

『順〔が〕「和名抄」、「アメ」と訓ず〔は〕是(ぜ)ならず』『「」の字を、「和名抄」に「ミゴイ」とよむ。『鯉の類なり』といへば』(「」=「魚」+(つくり)「癶」(上)+「虫」(下))まず、私はこの文末の「いへば」は、ややジョイントの悪いものとして響く。「いふ」で終止しておいた方がよい。恐らくは『「アメ」と訓ず〔は〕是(ぜ)ならず』と先にやらかした結果、表現に捩じれが生じたのだと思う(こうしたこなれない日本語の言い回しも、本条を判り難くしている)。源順の「和名類聚鈔」の記載というのは、まず、「」は「鯉」「鮒」の次にあり(国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを参照)、

   *

(ミ) 文字集略【音漢語抄】鯉

[やぶちゃん注:「」=「馬」+(つくり)「癶」(上)+「虫」。]

   *

である。この「ミ」というルビはまさに「ミゴイ」(=ニゴイ)の「ミ」であろう。「鮒」を挟んで「」とあり、「鯉の類ひなり」とあるのだから。因みに、「」は「羔」(音「コウ」・子羊の意)の異体字である。

 さらに「鯇」はというと、まさに前の「」の後の「鰣(ハソ)」(コイ目コイ科クセノキプリス亜科ハス属ハス Opsariichthys uncirostris であろう)「鱸」の次に出(国立国会図書館デジタルコレクションの画像では前のリンク先の次のページ)

   *

鯇(アメ) 爾雅集注云鯇【胡本反上声之重字亦作和名阿米】似タルㇾ鱒者也楊氏漢語抄云水鮏【一云江鮏今案本文未ㇾ詳】

   *

とある。益軒の否定している「アメ」という呼び名は「アメノウヲ」に違いない。所謂、以前にも注で出した、。琵琶湖固有種(但し、現在は各地に人為移入されている)の条鰭綱サケ目サケ科サケ亜科タイヘイヨウサケ属サクラマス(ヤマメ)亜種ビワマス Oncorhynchus masou rhodurus の異名である(産卵期の特に大雨の日に群れを成して河川を遡上することに由来する「雨の魚」は異名としてかなり知られている)。確かに、ここでの益軒の否定は、

「鯇」を「ニゴイ」と訓ずるならば、ニゴイアメノウオという意味で正しい

ことにはなる。しかし、

現在でもなお、ビワマスは漢字表記で「鯇」と書くし、「江鮭」とも書く

のであってみれば、また、ここに出る「鮏」という漢字は本邦では「鮭」(サケ科サケ属サケ(シロザケ)Oncorhynchus keta)の別字として知られ(ご覧の通り、アメノウオ(ビワマス)はサケ亜科 Salmoninae なのだ。但し、漢語としては「魚の腥(なまぐさ)さ」を示す他は「魚の名」とするものの、どのような魚か不明である)、益軒が偉そうに否定するのは実はお門違いなのであって、順の「和名類聚鈔」のそれは、

「鯇」を「アメオノヲ」と訓じたのであるから、アメノウヲ=ビワマスという意味で正しい

のである。

『「本草」に『靑・白。二色あり』と云ふ』「本草綱目」の「鯇魚」の記載は以下である。

   *

鯇魚【音「患」。「拾遺」。】

釋名鰀魚【音「緩」。】。草魚。時珍曰、鯇、又、音混。郭璞作。其性舒緩。故曰「鯇」、曰「鰀」。俗名「草魚」。因其食草也。江閩畜魚者以草飼之也。

集解藏器曰、鯇、生江湖中、似鯉。時珍曰、郭璞云、子、似鱒而大是矣。其形長身圓、肉厚而鬆狀類靑魚。有青鯇白鯇二色。白者味勝、商人多之。

氣味甘、溫。無毒。時珍曰、李廷飛云、能發諸瘡。

主治暖胃和中【時珍。】。膽臘月收取陰乾。氣味、苦、寒。無毒。主治、喉痺飛尸、水和攪服【藏器。】。一切骨鯁、竹木刺在喉中、以酒化二枚、溫呷取吐【時珍。】。

   *

はっきりと「草魚」の文字が見える。因みに、メンドクサいことに「鰀」の字は本邦では「アメノウオ」=「ビワマス」に与えられているのである。

鱒」漢語のこれもマスを指す。但し、以前に述べたが、「マス」という種はいない。「マス」とは、本邦の場合は、条鰭綱原棘鰭上目サケ目サケ科 Salmonidae に属する魚類の内で和名・和名異名に「マス」が附く多くの魚、或いは、本邦で一般に「サケ」(サケ/鮭/シロザケ:サケ科サケ属サケ Oncorhynchus keta)・ベニザケ(サケ亜科タイヘイヨウサケ属ベニザケ[本邦ではベニザケの陸封型の「ヒメマス」が択捉島・阿寒湖及びチミケップ湖《網走管内網走郡津別町字沼沢》)に自然分布する]Oncorhynchus nerka)・マスノスケ(=キング・サーモン:サケ亜科タイヘイヨウサケ属マスノスケ Oncorhynchus tschawytscha)など)と呼ばれる魚以外のサケ科の魚(但し、この場合、前者の定義とは「ヒメマス」「マスノスケ」などは矛盾することになる)を纏めた総称である。「マス」・「トラウト」ともにサケ類の陸封型の魚類及び降海する前の型の魚を指すことが多く主にイワナ(サケ科イワナ属 Salvelinus)・ヤマメ(サケ亜科タイヘイヨウサケ属サクラマス亜種ヤマメ(サクラマス)Oncorhynchus masou masou)・アマゴ(タイヘイヨウサケ属サクラマス亜種サツキマス Oncorhynchus masou ishikawae)・ニジマス(タイヘイヨウサケ属ニジマス Oncorhynchus mykiss)などが「マス」類と呼ばれる

「一統志」「大明一統志」。明の英宗の勅撰地理書(但し、先行する景泰帝の命じた一四五六年完成の「寰宇通志」の改訂版)。一四六一年に完成。全九十巻。最終の二巻は「外夷」(朝鮮国・女直・日本国・琉球国他)に当てられているが、説明は沿革・風俗・山川・土産のみで、簡略である。

『「ミゴイ」は白魚なり』漢和辞典でも、「白魚」を鯉に似た魚とし、白花魚、ニゴイ(大陸産)に当ててある。

「武王の舟中に入る」「史記」「周本紀」に、周の武王が殷の紂(ちゅう)王を討伐する兵を挙げ、黄河を渡った際、武王の乗る船に、白色の魚が飛び込んで来た。白は殷の色(周は赤)であったことから、これを捕って神に供え祀り、これこそ殷が周の手中に落ちる吉兆と解釈したという故事を指す(但し、原文は『武王渡河、中流、白魚躍入王舟中、武王俯取以祭。既渡、有火自上復于下、至于王屋、流爲烏、其色赤、其聲魄云。是時、諸侯不期而會盟津者八百諸侯。諸侯皆曰、「紂可伐矣。」。武王曰、「女未知天命、未可也。」乃還師歸』となっており、他にも、黄河を渡り切った時には火の塊りが川を溯ってきて、また、下って行き、武王の陣の上まで来ると、一羽の真っ赤な鴉となって「魄(ハク)!」と鳴いた(魄には安定の意がある)というのも瑞兆で、ばらばらにたまたまやってきた諸侯らも期せずして口を揃えて「紂、討つべし!」と鬨を挙げたのだが、何故か。武王はこの時、「未だ殷の天命は尽きていない」と言って帰国している。これには幾つかの解釈があるようであるが、私は吉兆があまりにも続けて出現したことが、却って危ぶまれ、それに誇って慎重さを失って逆に敗れることを恐れたという説を採る)。]

2018/08/29

大和本草卷之十三 魚之上 ヲモト (カワムツ或いはヌマムツ)

 

ヲモト 嵯峨ニアリハヱニ似テ背ニ有斑點爲群水面ニ

 ウカブ河ノヨトミニアリ

○やぶちゃんの書き下し文

ヲモト 嵯峨にあり。「ハヱ」に似て、背に、斑點、有り。群を爲して水面にうかぶ。河のよどみにあり。

[やぶちゃん注:桂川水系に棲息し、「ハヤ」類に含まれるか或いは近縁種で、背部に斑点があり、河川の淀みに群れを成している種――「ヲモト」――聴いたことがない。搦め手から攻める。現在まで出現した「ハヤ」類の内で登場したものの、今一つ、バイ・プレイヤーの種の異名を探った。すると、ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のカワムツ」ヌマムツ」の各ページの「地方名・市場名」の欄に、孰れも『アカモト』と『モト』とあるのを発見した。しかも前にも書いたが、

Oxygastrinae 亜科カワムツ属カワムツ Nipponocypris temminckii

Oxygastrinae 亜科カワムツ属ヌマムツ Nipponocypris sieboldii

であるが、後者「ヌマムツ」は実は二〇〇〇年頃までは「カワムツ」と同種とされていたのである。ウィキの「ヌマムツによれば、しかし、『カワムツとの交雑がないこと、鱗が細かいこと(側線鱗数』がカワムツは四十六~五十五片であるのに対し、ヌマムツは五十三~六十三片と有意に多い)、『体側の縦帯がやや薄いこと、胸鰭と腹鰭の前縁が黄色ではなく赤いこと』。『カワムツが河川上中流などに住む流水適応型に対し』、『ヌマムツは用水路などの緩やかな流れを好む止水適応型である』こと『などから』、『別種とされ』、二〇〇三年に『新和名「ヌマムツ」が決まった』とあり、学名も新たに作られている。されば、孰れかに限定比定する必要はあるまいが、敢えてこの記載の「背に、斑點、有り」というのを優位に濃い背鰭前縁の赤色斑だったとするならば、これはカワムツである。サイト日本淡水魚愛護会」ヌマムツ or カワムツを見られたい。]

大和本草卷之十三 魚之上 ゴリ

 

ゴリ 二種アリ一種腹下ニマルキヒレアリ其ヒレノ平ナル

 所アリテ石ニ付ク是レ眞ノゴリナリ膩多シ爲羹味ヨ

 シ形ハ杜父魚ニ同シテ小ナリ但背ノ文黑白マシレ

 リ又名イシブシ賀茂川ニ多シ漁人トリヤウアリテ多

 クトル一種ヒレ右ノ如クナラズ膩ナシ味ヲトレリ然トモ

 是亦羹トシテヨシ賀茂川ニ多シ筑紫ニテウロヽコト云

 物ナリ順和名抄引崔禹錫食經曰性伏沉在石

[やぶちゃん注:「」は実際には(へん)と(つくり)の間に縦一画が入った字体。]

 間者也順和名曰伊師布之○或曰生所〻山谷

 澮溝伏石間小魚不過一寸又一種長一二寸有斑文

 其形狀似河豚而小常在山谷至五月隨水流落

 其大者至夜而鳴其聲淸亮而可愛土人謂之河

 鹿其味極美甘平無毒補脾開胃

○やぶちゃんの書き下し文[やぶちゃん注:ある意図があって、改行を施した。]

ゴリ 二種あり。一種、腹下に、まるきひれあり。其のひれの平〔ら〕なる所ありて、石に付く。是れ、眞の「ゴリ」なり。膩(あぶら)多し。羹〔(あつもの)〕と爲し、味、よし。形は「杜父魚〔(とふぎよ)〕」に同〔(おなじく)〕して、小なり。但し、背の文、黑・白。まじれり。又の名、「イシブシ」。賀茂川に多し。漁人、とりやう、ありて、多くとる。一種。ひれ、右のごとくならず、膩〔(あぶら)〕、なし。味、をとれり。然れども、是れ、亦、羹として、よし。賀茂川に多し。

筑紫にて「ウロヽコ」と云ふ物なり。

順〔が〕「和名抄」、崔禹錫が「食經」を引きて曰はく、『の性〔(しやう)〕、伏沉〔(ふくちん)〕して石の間に在る者なり。順、和名、曰はく、「伊師布之(イシブシ)」。○或いは曰ふ、「所々の山谷・澮溝〔(くわいこう)〕に生ず。石〔の〕間に伏す。小魚。一寸に過ぎず。又、一種、長さ、一、二寸。斑文、有り。其の形狀、河豚〔(フグ)〕に似て、小なり。常に山谷に在り。五月に至りて、水に隨ひ、流れ落つ。其の大なる者、夜に至りて鳴く。其の聲、淸亮にして愛すべし。土人、之れを「河鹿(カジカ)」と謂ふ。其の味、極美。甘、平。毒、無し。脾を補し、胃を開く。」〔と〕。

[やぶちゃん注:「ゴリ」ウィキの「ゴリ」が多様な種を含む「ゴリ」の総説としてよいので、まず引用させてもらう。『ゴリ(鰍、杜父魚、鮖または鮴)は、一般的には典型的なハゼ類の形をした淡水魚を指す一般名、地方名である。ただし、一部にメダカ類』(条鰭綱ダツ目メダカ科Adrianichthyidae memeメダカ亜科メダカ属 Oryzias)『やシマドジョウ類』(条鰭綱骨鰾上目コイ目ドジョウ科シマドジョウ属 Cobitis)『を指す地方も存在する』。「ゴリ」は特定魚類の『標準和名ではなく、ゴリの名で呼ばれる魚は地方によって異なる。スズキ目』(条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目スズキ目 Perciformes)及びスズキ目『ハゼ科』(スズキ目ハゼ亜目ハゼ科 Gobiidae)『に属するヨシノボリ類』(ハゼ科ゴビオネルス亜科Gobionellinae ヨシノボリ属 Rhinogobius)・『チチブ類』(ゴビオネルス亜科チチブ属 Tridentiger)・『ウキゴリ類』(ゴビオネルス亜科ウキゴリ属 Gymnogobius)などの『小型のハゼ類や』、概ね、淡水産の『カサゴ目』(棘鰭上目カサゴ目 Scorpaeniformes)及びカサゴ目『カジカ科』(カジカ亜目カジカ上科カジカ科 Cottidae)『に属するカジカ類、あるいはその両方を合わせて呼ぶ場合などがある』。但し、『「ゴリ」という語が標準和名に組みこまれているのは、ハゼ科・ウキゴリ属のウキゴリ類だけである』(下線太字やぶちゃん。以下、同じ)。『これらはいずれも川底に生息する淡水魚で、ハゼ類に典型的な大きな頭部、飛び出した目、大きな口などが特徴である。体色は褐色から暗褐色』で、概ねかく呼称される魚類は全長数センチメートル程しかない『小型魚である。一般に種類ごとの特徴がわかりにくく、よく似ている。ハゼ科の「ゴリ」では』、二枚の腹鰭が合わさって一つの吸盤のような役割を担っていて、『これで水底の岩などに吸い付くことで流れの比較的速い川にも生息できる。また、宮城県、島根県、高知県、大分県などの沿岸地域ではハゼ類の幼魚をゴリとよぶ場合がある』(カジカ類の腹鰭ではこうした吸盤化は見られない)。『青森県の南部地方、石川県の一部などでメダカを指す例があり、岐阜県郡上市ではシマドジョウを指す例がある』。『全国的には、淡水に生息するハゼ類がゴリと呼ばれる場合が比較的多い。しかし、琵琶湖近郊やその重要市場である京都市や徳島県などでは、ハゼ科のヨシノボリのことを』特に『ゴリと呼ぶ』。『高知県、特に四万十川、それに和歌山県の東部ではハゼ科のチチブの幼魚をゴリと呼ぶ』。『地方によっては、ゴリカジカ、ゴリンベト、ゴリンチョ、ゴリンジョ、ゴリンドーなどの呼び名を使う例もある』。『日本語で「鰍」は「ゴリ」を意味するが、中国語で「鰍」はドジョウを意味する。中国語で「ゴリ」は、「杜父魚」と書かれる』。なお、慣用句の「ごり押し」について、『ハゼ科の「ゴリ」は、吸盤状の腹ビレで川底にへばりつくように生息するため、漁の際には網が川底を削るように、力を込めて引く必要がある。この漁法が、抵抗があるところを強引に推し進めるという意味の「ごり押し」の語源となっているという説がある』とある。

『一種、腹下に、まるきひれあり。其のひれの平〔ら〕なる所ありて、石に付く。是れ、眞の「ゴリ」なり。膩(あぶら)多し。羹〔(あつもの)〕と爲し、味、よし。形は「杜父魚〔(とふぎよ)〕」に同〔(おなじく)〕して、小なり。但し、背の文、黑・白。まじれり。又の名、「イシブシ」。賀茂川に多し。漁人、とりやう、ありて、多くとる』「とりやう」は「漁(と)り樣(やう)」で漁獲方法にコツがあることを言っている。この叙述は実は悩ましい。というのは「イシブシ」というのは現在では、

ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科ウキゴリ属ウキゴリ Gymnogobius urotaenia

の異名とすることが多いのであるが、「まるきひれ」(丸き鰭)「あり。其の」鰭「の平〔ら〕なる所ありて、石に付く」、則ち、吸盤状の腹鰭で、川底の石や護岸に吸するという性質は、若魚の場合、ふらふらと遊泳をするウキゴリ(だから「浮きゴリ」)ではなく、

ゴビオネルス亜科ヨシノボリ属 Rhinogobius

のヨシノボリ類に特徴的なものだからである。なお、ヨシノボリ類は現在、多数の種(或いは亜種)らしきものが確認されている。詳しくはウィキの「ヨシノボリ」を参照されたいが、そこには現行の日本産ヨシノボリ属の種として実に十五種が掲げられている。

 ところが、さらに悩ましいのは、私が六年間を過ごした北陸で「ゴリ料理」(金沢が名物)と言えば、上記の種ではないのである。ウィキの「ゴリ」によれば、『北陸から丹後にかけての地方では、カサゴ目・カジカ科のカジカ、ウツセミカジカ、アユカケ(カマキリ)などの淡水産カジカ類をゴリと呼ぶ。特に石川県金沢市周辺ではこれらの魚を用いた佃煮、唐揚げ、照り焼き、白味噌仕立てのゴリ汁などの「ゴリ料理」が名物となっている』とあるからである。以上の「ゴリ料理」の種はそれぞれ、

条鰭綱カサゴ目カジカ科カジカ属カジカ Cottus pollux(日本固有種。北海道南部以南の日本各地に分布。「ドンコ」の異名でも知られ、ここに出る「杜父魚」(とふぎょ)も現行ではこのカジカの異名とされることが多い

カジカ属ウツセミカジカ Cottus reinii(日本固有種。北海道南部・本州・四国・九州西部の分布(主に太平洋側とも)。嘗ては琵琶湖固有種とされたが、全国的に広がっている小卵型の個体群と琵琶湖産のそれは遺伝的な差が僅かにしかないことが判明している)

カジカ属アユカケ Cottus kazika(日本固有種。「カマキリ」は異名。胸鰭は吸盤状ではなく、分離している。鰓蓋には一対の大きい棘と、その下部に三対の小さい棘を持ち、和名は、この棘に餌となる鮎を引っ掛けるとした古い伝承に由来する)

 ここまでくると、益軒どころか、古えも今も何を「ゴリ」に比定するか、とことん、迷ってしまうのである。、私が嘗て、寺島良安の「和漢三才圖會 卷第四十八 魚類 河湖有鱗魚」の「石斑魚(いしぶし)[ウキゴリ?]」の注で同定迷走した時には、例えば、辞書を引いても、それは解消されなかった。

・「広辞苑」 川魚ウキゴリの別称。「和名抄十九」

・「大辞林」 ウキゴリ、ヨシノボリ、カジカの異名。

・「大辞泉」 (1)ウキゴリの別名。(2)ドンコの別名。(3)ヨシノボリの別名。

・「角川新版古語辞典」 かわかじか。夏の季語。

しかし、まんず、以上を綜合すると、票が多い当確二名は、

スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科ウキゴリ属ウキゴリ Gymnogobius urotaenia

カサゴ目カジカ科カジカ属カジカ Cottus pollux

としてよいだろうとは思うし、何となく「源氏物語」なんぞに出るのは、「ブサイクなカジカじゃあなくて、やっぱ、ヨシノボリかなあ?」などと思ったのを思い出した。ところが、それでは最初の鰭の吸着がヤバクなるのだ! されば、やはり、

ゴビオネルス亜科ヨシノボリ属 Rhinogobius

が、『眞の「ゴリ」』に穴馬で当たっちゃうことになるのである。取り敢えず、疲れて来たので、

「背の文、黑・白。まじれ」るという『眞の「ゴリ」』は「ヨシノボリ」

そうでない「膩(あぶら)」のない「ゴリ」は「ウキゴリ」

としておく。番外の「カジカ」は異形で、益軒の叙述では論外となる。脂の有無はカジカは食ったことがあるが、「ヨシノボリ」も「ウキゴリ」も食ったことがない私には判らぬ。

これにて、この考証は終りとする。

『筑紫にて「ウロヽコ」と云ふ物なり』何故、ここを改行したか? 実はぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」の「カワヨシノボリ」Rhinogobius flumineusのページの「地方名・市場名」の欄を見たからである。同ページによれば、生息域の中に『九州北部』が含まれており、滋賀県琵琶湖周辺で稚魚のことを『ウロリ』・『ウリンコ/福岡県久留米市』(下線太字やぶちゃん)・『ウルリ/岐阜県岐阜市、関市』・『ウルル/岐阜県岐阜市、関市』・『ウロリ/岐阜県岐阜市、関市』とあったからである。この「ウリンコ」を始めとする、異名群は見るからに「ウロロコ」に親和性があるからである。ここを改行したのは、続いていると、『眞の「ゴリ」』じゃない方の、私が「ウキゴリ」とした方を『筑紫にて「ウロヽコ」と云ふ物なり』と読めてしまって、始末に負えないからである。いや、考えてみれば、ここでブレイクが入り、京附近で言っている複数の種を指す「ゴリ」は、筑紫で「ウロロコ」と呼んでいる魚類と同じものだ、と益軒が言っていると考えることは、何ら不自然ではないのだ。文句のある人は、私とは別に一から種同定をされるがよかろう。私より真に論理的に正しい正確なそれが出来たとならば、是非是非、お教え下され。謹んで御拝聴申し上げまする。

」(「」は実際には(へん)と(つくり)の間に縦一画が入った字体)この字体でもよいのであれば、後で出る通り、中文サイトの漢字辞典にも、漢名ではこれは「河豚」の別名と出るのである。「和名類聚鈔」原本でも確認した。しかし……う~ん……これは困る気もするぞ……河豚は膨らんで浮かぶんだよ……そうなんだよ……これは「ウキゴリ」の若い魚の遊泳習性と親和性を持った呼び名なんじゃないかってちっらと思っちゃったんだよなぁ……まあ、「其の形狀、河豚〔(フグ)〕に似て、小なり」だけってことで。

「伏沉〔(ふくちん)〕」伏せるように沈んでいること。

「澮溝〔(くわいこう)〕」「澮」は「細い小川」「用水路」「溝」。

『其の大なる者、夜に至りて鳴く。其の聲、淸亮にして愛すべし。土人、之れを「河鹿(カジカ)」と謂ふ』無論、「ゴリ」類は孰れも鳴かない。これは所謂、両生綱無尾目ナミガエル亜目アオガエル科カジカガエル属カジカガエル Buergeria buergeri の誤認であろう(江戸時代にはカジカガエルは鳴き声の美しさがもて囃され、贈答なんぞもされていたのだが、知らぬ人は知らぬものなのである。ある動物の鳴き声を全く別の生き物に誤認していた例は江戸期の随筆にも多数登場する。いい例が螻蛄(ケラ)の鳴き声を蚯蚓(ミミズ)とした例で、これは近代に至るまで民間では信じられていた。お時間のある方は北越奇談 巻之五 怪談 其三(光る蚯蚓・蚯蚓鳴く・田螺鳴く・河鹿鳴く そして 水寇)を読まれたい)。いやいや、とすれば、この鳴くと誤認されているのは、それこそ「其の味、極美」の、ほれ! 蛙出ない「カジカ」、カサゴ目カジカ科カジカ属カジカ Cottus pollux なんじゃぁ、ないのかなぁ?]

2018/08/28

大和本草卷之十三 魚之上 カマツカ

 

【和品】

カマツカ 京都ニテカマツカト云又賀茂ニテ河キスゴ或ハ

 カナクシリト云カモ川ニ多シ其形ハゼ又キスゴニ似タリ

 頭方ニシテカトアリ色モ味モハゼニ似タリ長六七寸地

 ニツキテ上ニヲヨカス或沙中ニカクル膾トスヘシ性平無毒

○やぶちゃんの書き下し文

【和品】

カマツカ 京都にて「カマツカ」と云ふ。又、賀茂にて「河キスゴ」或いは「カナクジリ」と云ふ。かも川に多し。其の形、「ハゼ」、又、「キスゴ」に似たり。頭、方(けた)にして、かど、あり。色も味も「ハゼ」に似たり。長さ、六、七寸。地につきて、上に、をよがず。或いは、沙中に、かくる。膾とすべし。性、平。毒、無し。

[やぶちゃん注:条鰭綱コイ目コイ科カマツカ亜科カマツカ属カマツカ Pseudogobio esocinus

『京都にて「カマツカ」と云ふ』ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のカマツカのページには、『鎌柄』で『琵琶湖周辺での呼び名。鎌の柄のように硬い。煮ると』、『鎌の柄のように締まるため』とある。

「賀茂」京都府京都市にある賀茂別雷神社(上賀茂神社)と賀茂御祖神社(下鴨神社)の周辺域。この一条、「京都」と「賀茂」と「かも川」(鴨川)という京都を殆んど知らぬ私などにとっては「そないな細分区分が本当に出来るんかいな!?」と激しくツッコミたくなる。

「河キスゴ」「キスゴ」は海水魚の条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目スズキ目スズキ亜目キス科キス属シロギス Sillago japonica のこと。生態や細身のスマートな体型が似ており、白身魚として調理法も塩焼き・天ぷらなどにして美味という点でも似ていることによる。

「カナクジリ」ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のカマツカのページには異名が沢に載るが、その中にカナキシ・カナクジ・カナクジリ・カナビシャの類似名の中に出る。「カナ」は「金」で「硬いもの」か。カマツカの頭部が後に出るように四角い方形を成し、それが一見、硬く見え、さらに臆病な性質から、驚いたり、外敵が現れたりすると、その頭で素早く川底の砂に穴を掘って中に潜り込み(これが「クジリ」(くじる:穴を空ける))、目だけを出して身を隠す習性を持つことからの異名であろうと思われる。

「ハゼ」条鰭綱スズキ目ハゼ亜目 Gobioidei に分類される魚の総称。漢字では「鯊」「沙魚 」「蝦虎魚」など書く。ウィキの「ハゼ」によれば、二千百『種類以上が全世界の淡水域、汽水域、浅い海水域のあらゆる環境に生息し、もっとも繁栄している魚のひとつである。都市部の河川や海岸にも多く、多くの人々にとって身近な魚に挙げられる』とし、『運動能力の低い底生魚ゆえ、体色は砂底や岩の色に合わせた保護色となっているものが多い。ただし温暖な海にはキヌバリ、イトヒキハゼ、ハタタテハゼなど派手な体色をもったハゼも生息する。シロウオなど透明な体色のものもいる』とある。

「方(けた)」四角の意。「四」を表わす「十」文字の形「+」(桁状)及びそれが合わさって形成される「」から。

「六、七寸」十八~二十一センチメートル程。カマツカは体長十五~二十センチメートルほど(長く下に尖った吻を特徴とし、吻の下部には一対の触手としての鬚(ひげ)を持つ。

「をよがず」表記はママ。「泳がず」。 

「膾」大型個体は刺身も美味いとされるあ、寄生虫が恐いのでやめましょう。

「平」漢方で、寒涼や熱温の作用が顕著ではない緩和的薬性を持っていることを指す語。]

2018/08/27

大和本草卷之十三 魚之上 モロコ (アブラハヤ)

 

モロコ ハヱニ似テ頭小キニ腹少シヒロク形マルシ西州ニアブラ

 メト云又アフラハヱト云本草ニノセタル黃鯝魚ナルヘシ油

 ハエニ堅筋數條アルモノアリ白黑相マシハル嶋魚ト云ヲリ物

 ノシマノ如シ

○やぶちゃんの書き下し文

モロコ 「ハヱ」に似て、頭、小さきに、腹、少しひろく、形、まるし。西州に「アブラメ」と云ひ、又、「アブラハヱ」と云ふ。「本草」にのせたる「黃鯝魚」なるべし。「油ハエ」に、堅筋(たてすぢ)、數條あるものあり。白黑、相ひまじはる。「嶋魚」と云ふ。をり物の「しま」のごとし。

[やぶちゃん注:これ、原文たった四行の中に、四つの名が出る。しかし、主記載は「ハヤ」類に似ていること、頭が小さく、腹部が少し広くて、魚体全体は丸い印象を与えるという点が、四つの名の中で現代の標準和名の種として存在する「ハヤ」類のそれと一致することから、これはもうウグイ亜科アブラハヤ属アムールミノー亜種アブラハヤ Rhynchocypris logowskii steindachneri と断定してよい。アブラハヤは腹部の銀白色部分が実際に広いし、頭はコンパクトで尖らず、全体に丸みを帯びた魚体である。読者の中には、何を慎重になっているのかと不審に思われる方もあろうが、実は標題の「モロコ」が大変なクセモノなのである。「モロコ」という和名異名を持つ魚は実は淡水魚に限っても、複数存在するからである。まず、

コイ目コイ科バルブス亜科タモロコ(田諸子)属タモロコ Gnathopogon elongatus elongates

コイ科カマツカ亜科スゴモロコ属デメモロコ Squalidus japonicus japonicus

を挙げねばならぬ。これに琵琶湖固有種である、

タモロコ属ホンモロコ Gnathopogon caerulescenss

と、同じく琵琶湖固有亜種である、

スゴモロコ属スゴモロコ Squalidus chankaensis biwae

も挙げねばならぬ(固有種だからいいだろうとは言えない。既に上記二種は各地に放流されて棲息域は拡大しているからである)。しかも、面倒なことに、似たような発音の、

コイ目コイ科モツゴ(持子)属モツゴ Pseudorasbora parva

がいる。私には幼少時代の「クチボソ」(関東)の呼称とともに馴染み深い名なのであるが、「モロコ」と「モツゴ(或いはモッゴ)」じゃ違うだろうと言うなかれ! ウィキの「モツゴによれば、「モツゴ」には『地方名として、ヤナギモロコ(岐阜)、イシモロコ(滋賀)』があっちゃったりするわけだ。以上で五種、しかも、海産であるが、イシナギ(条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目スズキ目スズキ亜目イシナギ科イシナギ属オオクチイシナギ Stereolepis doederleini・コクチイシナギ Stereolepis gigas :肝臓に多量のビタミンAを含む有毒魚である)の別称だったり、クエ(スズキ亜目ハタ科ハタ亜科マハタ属クエ Epinephelus bruneusの別称だったりもするのである。たかがモロコ、されどモロコ、である。なお、同定種「アブラハヤ」の「あぶら」は表面がぬめぬめして油がついたような感触であることに由来する。

『「本草」にのせたる「黃鯝魚」なるべし』「本草綱目」の巻四十四の「鱗之三」の以下。

   *

黃鯝魚【音「固」。「綱目」。】

釋名黄骨魚。時珍曰、魚腸肥曰鯝。此魚腸腹多脂、漁人煉取黃油燃燈、甚腥也。南人訛爲黃姑、北人訛爲黃骨魚。

集解時珍曰、生江湖中小魚也。狀似白魚、而頭尾不昻、扁身細鱗、白色。闊不踰寸、長不近尺。可作鮓葅、煎炙甚美。

氣味甘、溫。無毒。主治白煮汁飮、止胃寒洩瀉【時珍。】。

主治瘡癬有蟲、燃燈、昏人目【時珍。】。

   *

但し、私は益軒のようにこれを「アブラハヤ」に同定するのには躊躇を感じる。それは、漁師は本種の内臓から燈明の油を採取すると言う部分で、これ、とても「アブラハヤ」では信じられないからであり、「アブラハヤ」は沿海州や中国東北部の河川にしか棲息していないからである。調べてみると、現代中国語では似たような漢名で鯉科クセノキプリス亜科属黄尾 Xenocypris davidi という淡水魚(和名は見当たらない)はいる(中文百度百科」「黄尾)。但し、これが「本草綱目」のそれであるかどうかは判らぬ。しかし、サイトデータを見ると、標準体長十一・八センチメートルで、最大長三十五・七センチメートルとあるので、アブラハヤなどよりも遙かに大きい。

『堅筋(たてすぢ)、數條あるものあり。白黑、相ひまじはる。「嶋魚」と云ふ』「シマウオ」という「アブラハヤ」の異名は確認出来なかったが、アブラハヤは普通に体側に黒色の縦帯がある

「をり物の「しま」のごとし」「織物の「縞」の如し」。]

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