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カテゴリー「Memorandum」の2件の記事

2020/04/02

Memorandum 人差し指

 

 その人は何時も何かを指す時に人差し指を強く上に反らすのであつた。

 城ヶ島燈臺をバツクに彼女を撮らうとした際、

「何を撮つてゐるの? 燈臺?」

と言つて、燈臺を指さしたその時も――

 五島プラネタリウムで木星を說明者がライトで指示し、そこに正にモーツアルトの交響曲第四十一番「ジユピター」がバツクにかかつて、

「ジユピター!」

と子供のやうに彼女が聲を擧げ、笑顏で架空の木星の白點を指さした時も――

 さうして、あの夏の日、江ノ島の不思議な龜裂した石碑を前にして、その奇體な文字を人差し指でなぞりながら、

「これは……讀めないわ……」

と言つた時も――

 

 彼女の人指し指は何時も實に――しなやかに――上に反つてゐた。

 

 私は今でも時々意味もなく彼女のやうにして人差し指を反らしてみる。

 私は決して何時もはそんな風にはしないのに……いや、指さす對象さへも、最早、何もないのに…………

 

Gotou

 

2020/04/01

Memorandum 庵主はん

 

   庵主はん

 

 私は石礫(いしころ)の多い小道をその女と步いてゐた。

 步いてゐる間、彼女はづつと默つてゐた。

 すると、道の傍らの右の古い家から、一人の年老いた尼僧が家人に送られて出て來た。

 年老いた家人らは丁重に挨拶をして尼僧を見送つてゐた。

 私は立止まつて振り返り、その尼の後姿を暫く見送つてゐた。

「庵主(あんじゆ)はんです。」

 連れの女は私に言つた。

 私は默つて頷いた。

「みんなからとても尊敬されて居られます。」

と彼女は言つた。

 道を左に逸れると山路に入り、長い階段があつた。其處を二人で默々と登つた。登りきると、古い水道局の貯水塲に出た。

 彼方に美しい立山の連峯が眺められた。

「明日(あした)……行かれるんです……ね……」

と彼女は言つた。

 私は默つて肯いた。

 しかし――その時、私は、

『行くべきは當り前だ……しかし――ここで今――それは正しいのだらうか?』

と、不圖、理に反した譯の判らぬ思ひが過(よ)ぎつた。

 何か苦い唾(つば)が私の口に溢れた。

 しかし私はそれでも、只、默つた儘、美しい連峯に見入つてゐる「振り」をした……彼女が寂しさうに俯くのを視界の左に認めながら……。さうして……つい先程(さつき)見た「庵主はん」のことを思ひ出してゐた。

『……この女は……私の慘めな死の後(のち)に、私を恨みつゝ、しかも悼んでは……尼僧と、なるのかも知れない……』

と考へてゐる自分に氣づいて――何か言ひ知れぬ慄(ぞつ)とする――その女に對しての私の「罪」のやうなものを感じ始めてゐた。……

 

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