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カテゴリー「夢」の112件の記事

2019/02/13

アリス蘇生夢

今朝方の夢――

私は妻と、蟻地獄の底のような場所の古びた一つの民家に住んでいる。
 
[やぶちゃん注:阿部公房の「砂の女」(一九六二年発表)の勅使河原宏監督の映画版(一九六四年公開)によく似ていた。しかし全体は黒澤明の「どん底」(一九五七年)のそれに近い。]

底の地中には温泉があって、気がつくと、私の家の脇には大きな古びた湯治宿も建っていたりする。温かく、その引火性のガスが宿部屋に配された筒状の人工の噴気孔から噴き出していたりするのである。私はその大部屋に入って行くのだが、その焰を強くし過ぎて、その脇にあった布団の白いカバーの一部を黒焦げにしてしまった。私はそれを仲居の、和服日本髪の少女に謝りながら告げると、少女は、
「そういうことはよくあるのであります。」
と言って微笑して、手際よく、そのカバーを外して、取り替えて呉れるのであった。
 
[やぶちゃん注:それはもう、言わずもがな、つげ義春の漫画にそっくりな少女とシチュエーションの映像なのであった。]

私は私の家を改築をしようと、建具などを出し入れしている。合間に、外に出した古いレコード・プレイヤーのカートリッジを替えて(途中、ウェイトが重過ぎて、針が上がり気味なのが気になるのだが、レコードはかけられた)何かのレコードをかけて聴いたりもしている。
 
[やぶちゃん注:残念なことに、そのレコードが誰の何だったのかをどうしても思い出せない。因みに、私のレコード・プレーヤーは、十年以上前、ターン・テーブルの回転ムラが起こるようになって以来、一度も使っていない。七百枚以上はあるレコードはそのまま死蔵している。これは昨日の夕刻、レコードを売らないかというその手の業者から電話があったのが直接には起因であろう。無論、断った。]

私は崩れた外周の一部の斜面を掘っている。上部にはアスファルトの断面がある。してみれば、ここは地震によって生じた陥没地帯であるらしい。

――そのアスファルトと砂の間から、一昨年、埋葬した三女のアリスの姿が見えた。
 
[やぶちゃん注:実際には動物葬祭業者に火葬にして貰っている。但し、二女のアリスは私の家の梅の木の脇の枇杷の下に、母と私と二人で埋葬した。]

しかし、彼女の姿は遺体ではなく、生きているのであった。

私が手を添えると、眼を開き、首を回して、私の手を舐めるのであった。

傍で穴掘りを手伝って呉れていた獣医の先生が応急処置をして、彼女はすっかり元のアリスに戻ったのであった。
[やぶちゃん注:この実在する家の近くの先生が、私が望んだ三女アリスの安楽死の処置をして下さった。]

この蟻地獄のような場所は実は「砂の女」のような出られぬ地獄ではなかった。

最後のシーンで私は、そこを出て、アリスを散歩させていたから。

アリスは、まだ、勘が戻らないのか、時々、無暗に突進して人家の壁にぶつかって、コロンと転げては、尻尾を振って、私の元へと走って来たりするのであった……

 

2019/01/22

さっき見た夢

私は高校国語教師最後の私の、理系クラスの試験の回答用紙を抱えて職員室に戻って来た。
[やぶちゃん注:私の見知らぬ学校である。]

私の出題は変わっていた。論文試験で、その問題は以下であった。
[やぶちゃん注:これは異様に覚えている。]

   *

 ある時空間で、君は、一見、君と全く同じ姿・顔形・音声をした生命体「x」と遭遇した。
 しかし、君が「x」と会話し、観察し、非破壊の諸検査装置を用いて(非破壊であれば、如何なる機器を使用しても構わない)、「x」の体内構造・生態・習性及び思考方法等を可能な限り、観察してみたところ、その結果は総てが、鏡像のような反転を示していることが判明した。体内の脳を含む臓器の総てが、左右反対であり(「内臓逆位」(Situs inversus:サイタス・インヴァーサス)といい、実際の人体の変異として存在する)、それだけでなく、運動も思考方法までも明らかに自分とは反転していることが次々と判ってきた。
 それは言わば、何か存在や観念全体の現象自体が、位相数学で言う「メビウスの帯」(Möbiusband)か「クライン管」(Kleinsche Fläche)のような印象を与えるのである(例えば、我々の外皮と消化管は一続きであることを想起せよ)。
 君はその自分そっくりのしかし鏡像体である生命体「x」を記述して、後世に資料として残したいと考えた。

問題:そうした生命体「x」の存在様態を、最も正確に表現し得ると考える方式で自由に記録をせよ。解説の途中、或いは、総てを、論理式又は数式で表記して構わない(但し、改行せず、五百字以上。五百字に満たないものは採点対象としない)。

   *

見ると、生徒たちは一人残らず、論理式と数式のみで、みっちり回答用紙の裏まで書いている。

それを覗いたそのクラスの担任の物理教師が、「何だか、一杯、書いてますねぇ。」と揶揄した。

私はそれに応えず、しかし『これを私は二週間後の退職までに読み解いて返却出来るだろうか?』と不安に思いながらも、生徒全員が真剣に挑んでくれたことを嬉しく思うのでああった…………

[やぶちゃん注:私は遠い昔、一度だけ、総てを横書で、似非物の論理式を挟んで無謀な授業したことがある。私の好きな三木清「旅について」で、その「授業ノート」も公開している。覚醒した時、そんな昔を思い出していた。]

2019/01/05

元日と二日に見たとんでもない不敬な夢

元日の夢――

那須野のようだ。早春である。

皇后の美智子さまと、眞子さんを連れ出して、私は散歩をしているのだ。
侍従や警護の者はいない。

お二人は少女のように楽しそうに私の好きなゲンゲの花を摘んで、冠を作って、私に呉れるのであった……

二日目の夢――

昨日と同じ那須野のようだ。早春であるが、一面に雪が積もっている。
天皇陛下と私はやはり散歩をしている。
侍従や警護の者がいたが、陛下が、
「まいてしまいましょう。」
と仰せられた。
二人で少年のように、走り出した。

もう誰もいなくなった。

私が懐に手を入れると、真っ赤な赤ゲットの敷布が出てくるのであった。

また懐に手を入れると、茶道の道具が一式、まるで仙人のように出てくるのであった。

私が野点をする。

陛下に差し上げると、お飲みになられ、

「本当に――おいしいねえ。」

と仰せられて、私に微笑されるのであった……

[やぶちゃん注:二日続けて同じロケーション、皇族の方々が出てこられる――全く以って私の夢の特異点なのであった。]

2018/12/17

原口貫入夢

……今朝……こんな夢を見た……

顕微鏡下の微速度撮影の映像を見るように

――「私」は(ここが肝心)「自分は何らかの後生動物の嚢胚期である存在である」と認識している――

(後生生物:原生動物以外の海綿・腔腸・棘皮動物等から脊椎動物に至る全部の動物。この現象が起こるのはこれら総てであるからである。則ち、私はカイメンかも知れず、クラゲかも知れず、ヒトデかも知れず、ホヤかも知れず、カピカラかも知れず、また厭なヒトかも知れぬのである。判らぬのである)

――そういう意識をその画像の中の「嚢胚である私」が「意識している」のであり――
そういう「私であるという見当識を持った嚢胚」を――夢を見ている「私」は「外から眺めているらしい」のである――
「嚢胚である私」の活動が活発になってゆくのが「外化した私」に見える。胚の中を細かな細胞の粒子が激しく動き出した!――

「あっつ! 僕は原口貫入を始めるんだな!」
――と――「嚢胚である私」が思った瞬間、原口ができ、胚表の組織が入り込み、原口背唇部が見えた。
(そこで夢は終わった。その後に神経胚が形成されたなら、私はホヤから上位の脊索動物かも知れないが、私はクラゲがよい)

インド神話「リグ・ヴェーダ」にある一つの創造神話に、宇宙の創造神が「ヒラニヤ・ガルバ」(Hiraṇyagarbha:黄金の胎児)として原初の水の中に現われたとするのは知っている(と言っても、その言葉を最初に知ったのは諸星大二郎の漫画「暗黒神話」だが)が、私はこの夢をそれやキューブリックの「二〇〇一年宇宙の旅」のスター・チャイルドなんぞと重ね合わせる解釈は完全に「ゼロ」である。
 
私は嘗て、二十代の終り、勤務先のPTAの会報で「生まれ変わるとしたら何になりたい?」と問われて、「誰もやって来ない深海の海底の岩の上の海鞘(ほや)」と答えた。今日、この夢を見て、「まだ、甘かったな」といまさらに思った。
 

2018/12/15

羊を飼う夢

私は今朝方(がた)――寝床の中で二匹の羊の子を飼う――夢を見た。

 
今夜はどんな夢を見るのだろう…………

2018/09/03

昨夜の二つの夢

最近はあまり夢を見なくなった(忘れているのではなく、実際に見なくなった可能性が高い)が、夕べは二つの表面上、関連性のない奇妙な夢を見た――

最初の夢――

……私は古代の都(平城京か)の、死者の名を管理する官吏であるらしい。
何人もの死んだ者たちの名が筆で紙に記してあり、それを見ている私を、夢を見ている私はその背後の斜め左肩上から見下ろしている。
そこには当時にありがちな「太子」「忌部」「麻呂」といった文字が見えるのであるが、それに向かっている私が、それらの字の上に、墨を含ませていない筆をすうっと下ろすと、それらの字が一瞬にして消え、そこは空白になってしまうのであった。
と、見る間に、そうした虫食いになった無数の名前は、紙から綺麗な列になって抜け出し、白黒斑の蛇のようにして室内を飛び交ったかと思うと、再び、紙の上に戻って来る。
すると、そこには漢字が組み換えられた死者の新しい名が出現している。
私はそれを見て、頷いているのである…………

第二の夢――

私は博多に移住している。
「博多どんたく」の夜なのだろう、私も羽織を裏返しにした「肩裏(すらせ)」に軽衫(かるさん)を着、例の「博多にわか」の奇体な面をつけている。
〔注:実際の私は徹底した祭り嫌いで、「博多どんたく」も、ニュース映像でちらと見ただけであり、そもそもが、博多も、私(わたくし)の旅行と修学旅行引率の新幹線乗り換えで小一時間を過ごしたことがあるばかりである。さらに言うと、「博多にわか」のあの面は、何故か、私には江戸川乱歩的猟奇感を惹起させ、生理的嫌悪の、強い対象物なのである。〕

その恰好で、私はかの梅崎春生(彼は普通の開襟シャツ姿である)と飲み屋に入って酒を飲んでいるのである。
〔注:言わずもがな、梅崎は福岡生まれである。〕

私は尿意を催し、鞄を置いたまま、席を離れる。店にはトイレがないので、それを探すために路地を徘徊した。

祭りの囃子が遠く近くに聴こえ、若い女性たちの着飾った「どんたく」の一団とすれ違った。

その時、その一団を押しのけるように、一人の背の高い若い男(私と同じ格好で「博多にわか」の面をつけている)が乱暴に抜けて行く。

その右手に、キラりと光ったのは拳銃であった。

私は
「あっ! 拳銃を持ってる!」

と叫んだ。女性たちの悲鳴が揚がる。
男は、露地を、私のいた居酒屋の方へと、いっさんに走り抜けて行って見えなくなった。
 
私は反対側の通りに抜けると、一区画分、大回りをし、さっきの店へ戻ろうとした。鞄には財布が入っているからであった。
 
廻り込んだところには一階がスーパーになったビルが建っていた。
 
そこの駐車場に先の若い男が現われ、スーパーの中に銃を乱射し始めた。
  
人々が逃げ惑う中を私は逆行し、先の居酒屋に入ると、そこはもう、皆、逃げてしまって「もぬけのカラ」となっていた。
〔注:因みに、無論、梅崎春生もおらず、彼の出演は最初のシーンだけで淋しかったな、というのは覚醒してからの私の思いではあった。〕
 
私は幸いに残っていた鞄をひったくると、何故かまた、銃声の続く方の露地を抜けて、いっさんに逃げた。

流れ弾が ピュン! ピュン! と空を切るのが、ごく近くに聴こえた。
 
大分、走って、人気のない路地の街灯の下で、鞄の中を確かめた。

財布はあったが、取り出したその財布は、二発の銃弾が美事に貫通していた。
 
紙幣はもとより、一緒に入れていた病院の磁器診察カードも打ち抜かれていた。
 
「あぁ、また、カードを作り直すの、面倒っちいな。」
 
と私は呑気に呟いた。
 
――見ると、その財布は左右に穴が二つ空いて――
 
「博多にわか」の面に、そっくりなのであった…………

2018/06/23

今朝方見た奇妙な夢――

 

教え子の女性の葬儀が、ある教会で行われる、という通知を受けて私は出かけようとする。
母は何故か、「行かない方がよい」と制止するのだったが、振り切って、出かけた。

外人のシスターが待っていた。
参列者は、何故か、私一人らしい。
シスターは、彼女は自死であったことを私に告げ、遺品一式――

何かが書かれた手札大の薄い木片のようなもの・私へ宛てた煌びやかな便箋一枚・赤ワイン一本・卵三個

の入った段ボールを渡し、礼拝堂へ案内した。
何人もの葬儀が行われており、彼女のそれはずっと後だということであった。

私は私宛の便箋を読んだ。それは遺書ではなく、彼女が何処か外国から私へ宛てて書いたものであって、記されたそれは聞いたことのない国名なのであった。しかし、添えられた絵はインドか東南アジアの、ヒンズー教か仏教の寺院らしい建物が、極彩色の色鉛筆で美事に描かれているのであった。内容は、それらの美しさと神秘性を私に伝える敬体の文章であり、如何にも旅を楽しんでいる便りなのであって、自死の気配は微塵もないのであった。

ただ、末尾に、
「そんな旅先で不思議なものを見つけました。先生に読み解いて貰えたらと思いい、同封します。」
とあるのであった。どうも今一つの遺品の木片様のものがそれであるらしい。手に取ると、それは木をごく薄く削いで圧縮した、人工の木製紙で出来ていた。

しかも、そこには何故か、漢字仮名混じりの古文が三行(五十字程であった)に亙って書かれていた。

「其時■■須■威出で給ひ……」で始まっていた。

[やぶちゃん注:本夢は私の夢の特異点で、その文字列を、覚醒した時には全文はっきりと覚えていたのであった。しかし、急速に記憶から消えてしまった。直ぐに書き取ればよかった。非常に残念である。]

私は彼女の葬儀が始まるまで、熱心に、それを現代語訳した。

[やぶちゃん注:覚醒時はその訳も確かに覚えていたのだが、これも忘れた。ただ、その内容は、まさに彼女の自死を予言する内容であったことは確言出来る。しかも今、これを書きながら(遅まきながら)、私にはこの木片は、例のインドにあるとされる「アガスティアの葉」であることが明確に理解された。紀元前三千年の昔に実在したとされるインドの聖者アガスティアの残した全人類各個人の情報(自身の過去・現在・未来)について全てが記されているという「木の葉」である。ネットを調べれば判るが、事実、ある、のである。但し、すこぶる怪しいものではある。しかし、正に木簡のようなものなのである(私は実際の朴のような大きな葉っぱに書かれているのだと思っていたが、今、調べてみたところが、例えばここでは、まさに木簡状であった)。]

彼女の葬儀が始まる。
やはり私一人なのであった。彼女の親族はいない(来ない?)らしい。
式を行うのは先のシスター一人であった。
祈禱を終えると、シスターが、遺体はこちらの墓地に埋葬する旨を語った後、
「遺品はどうなさいます?」
と訊ねてきた。
私が躊躇して黙っていると、
「こちらで貴方が天へ送られるのが、よろしいでしょう。」
と言い、礼拝堂の裏手へと導くのであった。
そこには霊安室のような、殺風景な部屋があった。

私はそこで、小さな釜の中にワインを流し込み、便箋と木片をそれに浸した上、三つの卵を、割り入れた。

ところが、三つ目の卵を割ると、そこからは黄色い色をしたアーモンド形の種子のようなものが出てきた。

 
私はそれらが、ぐつぐつと釜の中で煮られるのを

――凝っと

見つめていた…………
 

2018/05/09

つげ義春風「人魚橋」伝説夢(少々長めの昨夜見た夢)

 
 

晩春であった。
その橋は山間(やまあい)の深い溪谷に架かっていた。
見下ろすと、碧色の溪水の両岸に新緑の木々が茂っていた。

僕はこの四月から、この近くにある高校に赴任しているのだった。
[やぶちゃん注:これは夢を見ている僕の認識であって、学校自体は夢に出てこない。]
この学校には生徒の「遅刻カード」の提出が定められていた。
手札大の紙に遅刻理由を書いて、教員の捺印を受け、授業をしている教師に出すというものであった。
[やぶちゃん注:これに酷似したシステムは、僕が曾て七年間務めた高校で実際に行われていた。裏表で四十回分ほどの枠が発注されたピンク色の用紙に印刷されてあり、捺印は職員室にいる一時間目の授業のない教員が捺印することになっていた。やや辺鄙な場所にある高校で、遅刻する生徒は非常に多く、僕は一時間目の空いている日が憂鬱で仕方なかった。理由も書かさねばならず、遅刻がさらに長引き、その在り方に、僕は大いに疑問もあった。因みに、その学校は僕の家から遠く、朝六時起きで、二時間近くかけて通勤しなくてはならぬのであった。]

ところが、この学校、こうした教師の捺印方式にとっくに音を挙げたものか、登校には誰もがそこを必ず渡らねばならない、その橋のたもとに小屋を設け、そこで遅刻常習者の最大回数の者に印鑑押しの仕事を強制させているのであった。

この橋は「人魚橋」という名であった。
そうして――ご多分に漏れず、その橋に纏わる、とある「学校の怪談」が囁かれていたのであった。

……それは……

『――人魚族の血を引く生徒がこの番人役に当たると、その生徒を愛する生徒が出て来て「好きだ」と告げた時、その者に呪いをかけて、自身の身代わりと成すことができ、自分はほんとうの人間になれる。……もし――誰もその人を愛さなければ――未来永劫――その人は「人魚橋」の番人をしなければならない。……それから、その人魚の呪いを少しでも邪魔した者があった時は、やはり、その邪魔した者を身代わりとして呪うことで、人間への転生が成就する……』

というものだった。
僕は、赴任早々、教え子の女子生徒から、その話を聴いて、覚えていたのであった……

ある早朝、通勤で、橋の手前まで通じているバスに乗っていると、番人の女子生徒が僕の横に座っていた。
すぐ後ろに、新入生の男子生徒がいた。
すると、その後ろの男子が番人の女子に、僕の右肩越しに話しかけ始めた。僕は寝ている振りをしながら、しかし、聴いていた。
そのうちに、どうもこの男の子は入学するや、この番人の彼女に一目惚れしたらしいことが話し振りから判ったのだった。

彼はそれからそれへと彼女の気を引こうとする話をしているのが、よく判った。
横に僕がいるのも気にせず、大きな声で彼女に話をし、今にも「好きなんです」と言いかけそうな雰囲気になってきた。
僕は余りの五月蠅さに、彼の方を徐ろに振り返ると、

「君ね、まだ、新入生だから知らないかも知れないがね、この橋にはね、とある伝説があるんだ……」

と言いかけた――言いかけた途端――僕の右に座っていた番人役の彼女が真っ青になって――いや――形容ではなく――その溪谷の深い碧玉色の谷水のようになって――怖ろしい顔で僕を睨んだのであった……

……翌日……僕はその「人魚橋」の番小屋にいた。
僕はもう、そこに住むことに決めていた。
何の悲壮感もなかった。
あの女の子は人魚族の末裔であったのだ。
「だから、僕が、これから遅刻カードに捺印する役を背負わねばならぬだけのことだ」と妙に達観しているのであった。

僕は何十個もの印鑑を用意していた。三文判数本に、実印に、「心朽窩主人」や似顔絵附きのもの、何故か「國立國会圖書館之印」という四角なドデカいものもあった。
[やぶちゃん注:これは僕が実際に『毛利梅園「梅園魚譜」人魚』で同図書館の人魚図の画像を使用させて貰っていたりするからであろう。]

遅刻した生徒がたくさんやってきた。
僕は黙って笑って挨拶すると、片っ端から紙に印鑑を捺して配ってやる。
彼らに人気なのは「國立國会圖書館之印」なのであった。
それを黒インクでズンと捺した遅刻カードを、髪を紫色に染めた女子生徒が喜んで受け取っては、「チョーカッコいい!」と頭の上で振りながら、楽しそうに橋を渡って行くのであった。

気がつくと、橋のたもとの少し離れたところには、一軒の古い駄菓子屋があった。
そこでは、若い一人の美しい少女が店番をしているのであった。
彼女は、僕に向かって、「ご飯はこれから私が届けるのであります」と、はにかんで笑みを浮かべながら、声をかけてきた。
何か、嬉しくなった。
[やぶちゃん注:これはもう、つげの「紅い花」のキクチサヨコか、「もっきり屋の少女 」のコバヤシチヨジである。但し、ワンピースであって、浴衣ではなかった。]

ところが――
その瞬間――
番小屋の中の僕の右肩を、誰かの手が「グイ」と摑んだ――

……それは……あの、昨日までこの役を務めていた女子生徒であった。
黙ったまま、一寸咎めるような顔つきをしたが、すぐに僕の横に座ると、次から次へと入ってくる遅刻生徒のカードに、色々な印を楽しそうに捺しては、「はいはい! 遅刻してはいけません!」と言いつつ、笑っているのであった……

僕は悟った――
『彼女は人間にならずに――なれたのに――ここへ戻ってきたのだ……』……

え? 僕は今、どうしてるかって?

「今も――二人で仲良く――人魚橋の番小屋で――遅刻カードに印を捺しているのです――」

[やぶちゃん注:エンディグは、つげの「李さん一家」のそれの台詞のインスパイアに違いないのだが、寧ろ、僕には「やなぎ屋主人」で主人公が幻のように見る、仮想された、「やなぎ屋」の娘と夫婦になって年老いた二人の映像に近いものであった。並んで印を捺している二人のセピア色になった静止画像で終わっていたからである。
 ここからは蛇足で、覚醒後の感想なのだが、この夢の中の僕は、人魚族の末裔の彼女の体の一部を食べたのに違いないと思うのである。でなくては、番人として未来永劫、その仕事を全うすることは出来ないからである。

 言っておくが、以上は僕が昨夜見た夢を可能な限り、忠実に再現したものである。作り物? 創作する能力など、今の僕には殆んど枯渇しているのである。]

2018/05/03

写真画像夢

 

ブラック・バックの画面――モノクロームの写真である――

奥の祭壇に肩を出した真っ白なウェデイング・ドレスを着た若い女性が笑顔で立っている――彼女は今しも祭壇から降りようとしている――その彼女の右手を初老の燕尾服を着た彼女の父らしき人物が左手で支えている――

その写真を――私は実に――就寝してから今朝未明に目覚めるまで――ただ八時間余り――凝視し続けていた……

こんな静止画像の夢は初めてだった。
その女性には、どこか見覚えがあるのだが、どうして思い出せないでいる。
ただ、私はその画像を夢見ながら、
『その女性は今は離婚している』
と感じていたのであった。

そうして目醒めた時――ひどく哀しい気持ちになったのを確かに覚えている。……

2018/03/14

変生女子(へんじょうじょし)夢

昨夜見た、不思議な二つの夢――自分が女性で――しかも別々な二話でそうなのだ――。

   *

第一話――唐代伝奇風

 

 時は唐代。私は十代か二十代の女である。

 邸宅の奥まった部屋で、若い夫と、ある遊びをしている。

 大きな唐三彩の盆皿に、私が小さな革製の入れ物で白砂を一杯入れる。

 夫は同じような入れ物から黒い粘性のある土の塊を入れる。

 それを交互に繰り返す。

 夫の入れたその塊りは、自然に龍の形象へと変容する。

 龍は昇天しようと蠢くが、私の入れる白砂に邪魔されている。

 龍が昇天すれば、夫の勝ち。

 龍が白砂に阻まれて、最早、動けなくなれば、妻である私の勝ち、である。

 遂に、龍は白砂に半ば埋もれて、首と胴の一部を白砂からちょっと覗かせた状態で、固まって動かなくなってしまう。

 「私の勝ち!」――と笑って夫を見上げる。

 夫も微笑している。

 ところが――目を戻すと――龍は白砂を崩すことなく――そのまま穴の開いたままに――昇天して消えている。

 吃驚して夫の方を見ると――夫の姿は消えている…………

 

   *

 

第二話――B級SF映画風

 

 時は遙か未来。

 場所は太陽系外の惑星。

 空気はないから、宇宙服に身を包んでいる。

 私は二十代の白人の女性である。

 小型の宇宙艇の操縦室に夫がいる。

 私は昇降機で惑星の地表に降りる。

 五十メートルほど先に無人の宇宙コンビニエンス・ストアが見える[やぶちゃん注:シチュエーション、ショボ過ぎ。]。

 そこに人間の姿に化けたエイリアンが来るという情報を受けて、夫とともにそこに来たのである。

 私は女狙撃兵である。

 岩蔭から銃を指し出し、スコープを覗くと、ストアから不法に物品を略奪した、よれよれの茶のコート姿の中年男が出てくる[やぶちゃん注:宇宙服を着ていないから、間抜けなエイリアンである。]。

 通常弾で、二度、撃つ。

 二発とも命中するが、男はあろうことか、そのまま平然と歩いている。

 そこで大きさが倍はある徹甲弾を銃に装塡し、撃つ。

 コートがスローモーションで翻って、男は仆れる。

 「任務完了。」

 と夫に連絡し、宇宙艇の真下の昇降機に入る。

 しかし、磨りガラスの外にモンスターの影が近づくのが見えた![やぶちゃん注:ここは二重太陽のある星系であった。ここではエイリアンは本来の姿に戻っているのだが、磨りガラスであるためにはっきりした様態は見えない。]

 「あいつ! 死んでなかったんだわ!」

 と叫ぶ。

 夫が

 「エレベーターが故障してる!」

 と叫んでいる。

 ドアの向うから影が近づいてくる…………

   *
 
女性になる夢は恐らく生まれてから一度も見たことがない上に、時制の恐ろしく隔たったアンソロジー形式の二話連続というのも異様だ。

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