富永太郎詩集(やぶちゃん版)
「富永太郎拾遺詩集及び断片」と題して、家蔵版に未所収の詩篇及び断片を公開、これで、公刊されている代表詩はほぼ網羅されたはずだ。思潮社版の見出しの「翻訳作品から」という表現から見ると、翻訳詩文が、他にもあるようだが、中央公論社版定本を所持していないので(この本、ネットの古本でも余り掛かってこない)、とりあえず、以上をもってやぶちゃん版は完成とする。
指は萎えた。下着は饐えた。
「富永太郎拾遺詩集及び断片」と題して、家蔵版に未所収の詩篇及び断片を公開、これで、公刊されている代表詩はほぼ網羅されたはずだ。思潮社版の見出しの「翻訳作品から」という表現から見ると、翻訳詩文が、他にもあるようだが、中央公論社版定本を所持していないので(この本、ネットの古本でも余り掛かってこない)、とりあえず、以上をもってやぶちゃん版は完成とする。
指は萎えた。下着は饐えた。
家蔵版「富永太郎詩集」完成。注釈と異同も付けた。相応なオリジナリティはあると思う。
指の拘縮が酷い……石膏の手……震える指……ものを握れない掌……石像を演じる話……ノスタルジアのサスノフスキーのエピソード……「こゝろ」は遂に先生と私の別れを終える……「また九月に」……木犀の来るべき秋の香……
亡き僚友の大学生のお嬢さんから葉書を受け取る。心の籠もった筆致。メールに狎れた今の世界は、誠、誤っている。今の僕には、葉書一枚書けないのが残念だ。
*
昭和二(1927)年刊家蔵版「富永太郎詩集」を本格的に打ち込み始める。今の僕には、何か、打ち込むことへの強迫的な、それでいて素敵にあるものが充満した感じが、支配している、とでも言っておこう。
僕は彼を知らなかった18の晩春、一人、井の頭動物園を訪ねたことを思い出す。
その一画には鰻の寝床のような鳥獣剥製所があった。
平日の人気もなきに、好んで誰がそんなものを見よう。
虫食いのカスが油虫の糞のように鷲や梟や鳩の下にだらしなく散って居、うす曇る硝子窓から射した外光は、かすかなある淫靡な匂いを蒸気させていた。
意に沿わぬ学問、田舎出の黒縁眼鏡、三畳間の下宿……当時の、孤独で救い難い卑屈と秘めた傲慢に悶々としていた僕の魂にとって、それはまさにこの詩そのものであったのだ。僕は、彼に逢わずして彼に逢っていたのだ。
だから、僕は、死んだ富永が、好きなのだ。
おまへの手はもの悲しい、
酒びたしのテーブルの上に。
おまへの手は息づいてゐる、
たつた一つ、私の前に。
おまへの手を風がわたる、
枝の青虫を吹くやうに。
私は疲れた、靴は破れた。
***
終行の脚韻がいいね。「鬼火」で、アランが靴の埃を指でなぞりながら「何て悲惨な……」と言うのだが、DVD版では「悲惨な靴」と訳してあり、とてつもなく映画が分かっていない翻訳者であることに、怒りを通り越して、悲惨な気がしたのを思い出す。
富永太郎、大正15(1925)年、結核、享年24歳。鼻に入れられた酸素吸入器のゴム管を「きたない」と自ら引き抜き、死去した。Puer Aeternus!
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