和漢三才圖會卷第八十九 味果類 胡椒
[やぶちゃん注:図の右上に「倭」(本邦種)の文字があって苗木が描かれてあるが、但し、調べる限りでは、インド産のコショウは、中国を経て、奈良時代に伝来しているので、特に中国産のものとの違いを示しているものではない。但し、コショウ属には複数あるので、異種である可能性を考慮して、かく添えたもので、それは、良安の評言の中にも感じられ、現行の植物学的、或いは、世界的な異種分布を考えれば、極めて正当な添え辞である。上方左には、その「倭」の胡椒の実の「粒」のキャプションとともに三個体が描かれてある。下方には、同種が蔓性植物であるために行われる棚を用いた栽培のさまが描かれている。]
こしやう 昧履支
胡椒
【胡者西戎之名雖
非椒類因其辛似
椒名
之】
フウツヤ゜ウ
[やぶちゃん字注:下方の割注(これは、「本草綱目」の「卷三十二」の「果之四」「味類一十三種内附四種」の「胡椒」(「維基文庫」の当該部をリンクした)の『釋名』に『昧履支』とした後に『蚊時珍曰、胡椒、因其辛辣似椒、故得椒名、實非椒也。』と記してあるのを、良安が手を加えたものであるが、何故か、最後の「之」が、改行されてしまっている。これは、彫師が誤ったものとしか思われない。訓読では、前に繋げた。]
本綱胡椒出摩伽陀國今南畨諸國皆有之其苗蔓生莖
極柔弱作棚引之葉長一寸許扁豆山藥軰正月開黃白
花結實纏藤而生狀如梧桐子亦無核生青熟紅青者更
辣四月熟五月采收曝乾乃皺其葉晨開暮合合則褁其
子於葉中今遍中國食品爲日用之物也
實【辛大温】 下氣温中去痰除臟腑中風冷殺一切魚肉鼈
蕈毒蓋純陽之物腸胃寒濕者宜之熱病人動火傷氣
時珍自少嗜之歳歳病目而不疑及也後漸知其弊遂
絕之目病亦止纔食一二粒卽便昏澀病咽喉口齒者
亦宜忌之
△按胡椒阿蘭陀商舶將來之畨陀國之產最良蘓門荅
剌交趾母羅加次之近頃有撒種生者其樹髙二三尺
葉似畨椒葉而厚不靭亦似千葉梔子葉四月開小白
花秋結子生熟與異國之產無異伹枝莖雖纎弱不蔓
之屬葉亦大異也云云蓋此不胡椒小天蓼也灌木類
天蓼下可考合
胡椒辛氣入鼻則嚏故誤物入鼻孔不出者傍撒胡椒
末令嚏則隨出
*
こしやう 昧履支《まいりし》
胡椒
【「胡」とは、「西戎《さいじゆう》」の名。
椒類《せうるゐ》に非ずと雖も、其の辛
さ、椒に似るに因りて、之れを名づく。】
フウツヤ゜ウ
「本綱」に曰はく、『胡椒は摩伽陀國《マガダこく》に出づ。今、南畨《なんばん》の諸國、皆、之れ、有り。其《その》苗《なへ》、蔓生《つるせい》して、莖、極《いはめ》て柔弱≪なれば≫、棚を作り、之れを引く。葉の長さ一寸許《ばかり》、扁豆《へんづ》・山藥《さんやく》の軰《はい》のごとし。正月、黃白《わうはく》の花を開き、實を結ぶこと、藤《かづら》[やぶちゃん注:蔓。]を纏(まと)ひて、生ず。狀《かたち》、「梧桐《ごとう》」の子《み》のごとく、亦、核《さね》、無し。生《わかき》は青く、熟≪せ≫ば、紅《くれなゐ》なり。青き者は、更≪に≫辣《から》し。四月に熟す。五月に采り、收《をさ》め、曝乾《さらしほ》して、乃《すなはち》、皺(しは)む。其《その》葉、晨《あした》に開き、暮《くれ》に合《がつ》す[やぶちゃん注:萎(しぼ)む。]。合する時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則《すなはち》、其の子を、葉の中に褁《つつ》む。今、遍(あまね)く、中國の食品、日用の物と爲《なす》なり。』≪と≫。
『實【辛、大温。】』『氣を下し、中《ちゆう》を温め、痰を去り、臟腑の中《なか》の風冷を除き、一切≪の≫魚・肉・鼈《すつぽん》・蕈《きのこ》の毒を殺《さつ》す。蓋し、純陽の物、腸胃・寒濕の者、之《これ》、宜《よろ》し。熱病の人、火《くわ》を動《うごか》し、氣を傷《きづつく》る。時珍[やぶちゃん注:自称。]、少(わか)き時より[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、之れを嗜(す)く。歳歳《さいさい》、目を病《や》む。而《しかれ》ども、疑《うたがひ》及ばざるなり。後《のち》、漸《やうか》く其《その》弊(ついへ[やぶちゃん注:ママ。])を知り、遂《つひ》に之《これ》を絕(た)ち、目の病《やまひ》≪も≫亦、止む。纔《わづか》に一、二粒を食《くふ》≪のみにても≫、卽《すなはち》便《すなは》ち、昏-澀(かす)む。咽喉・口・齒を病む者、亦、宜しく、之《これ》、忌むべし。』≪と≫。
△按ずるに、胡椒、阿蘭陀《オランダ》商舶《しやうはく》、之れを將來《しやうらい》す。畨陀國《バンダこく》の產、最《もつとも》良し。蘓門荅剌《ソモタラ》[やぶちゃん注:スマトラのこと。]・交趾(カウチ)[やぶちゃん注:現在のヴェトナム北部。]・母羅加(モロカ)、之≪に≫次ぐ。『近頃、種を撒《まき》て生(は)へる者、有り。其《その》樹、髙さ、二、三尺、葉、「畨椒(たうがらし)」の葉に似て、厚く、靭(しな)へず。亦、「千-葉《やへ》の梔子(くちなし)」の葉に似たり。四月、小≪さき≫白≪き≫花を開《ひらき》て、秋、子を結ぶ。生《なま》・熟《じゆく》、與《ともに》、異國の產と異なること、無し。伹《ただし》、枝・莖、纎(ほそ)く弱《よはき》と雖《いへども》、蔓(つる)の屬ならず。葉も亦、大《おほい》に異《こと》なり。』云云《うんぬん》≪と≫。蓋し、此《これ》は、胡椒ならず、「小天蓼(こまたゝび)」なり。「灌木類」≪の≫「天蓼(またゝび)」の下《した》、考合《かんがへあはす》べし。
胡椒は、辛氣《しんき》、鼻に入《いる》と、則《すなはち》、嚏(はなひ)る故《ゆゑ》、誤《あやまり》て、物、鼻の孔《あな》に入《いり》て、出《いで》ざる者、傍《かたはら》に胡椒の末《まつ》を撒(ま)きて嚏《はなひ》らしむれば、則《すなはち》、隨《したがひ》て、出づ。
[やぶちゃん注:★!★今回は、変則的に、良安の評言部に不審があるので、それを片付けてから、注に入ることとする。私の長年の「和漢三才圖會」の読者も、一読、不審に思うであろう箇所である。「云云」の部分である。今までの、サイトとブログで完遂している膨大な「動物部」でも、また、ブログで単発で行っている「和漢三才圖會抄」でも、そして、今まで三百十三記事に至っている本「植物部」でも、「云云」等という記載は、私の記憶する限り、一度もなかったからである。而して、東洋文庫訳には、ここ以下終りまでについて、以下の後注があるのである。
《引用開始》
この部分は杏林堂版では次のようになっている。「わたしの家にもあるが、まだ三尺以上のものは見ない。小木でよく子を結ぶ。〔一般に倭方(わほう)の木香丸や阿伽陀円などという薬中に胡椒を入れるが、これは気を下し肺・胃を温める効があるからである。〕」
《引用終了》
出版詳細が判っていないが、「和漢三才圖會」には、杏林堂版は、通行本の五書肆名連記版を改稿したものとも思われる。私は、杏林堂版を所持していないので、「日本古典籍ビューア」のここで、当該部を視認し、以下に示すこととした。煩を厭わず、良安の評言部全部を本プロジェクトと同じ形式で示す。下線部が異なる箇所である。
*
△按胡椒阿蘭陀商舶將來之畨陀國之產最良蘓門荅
剌交趾母羅加次之近頃有撒種生者其樹髙二三尺
葉似畨椒葉而厚不靭亦似千葉梔子葉四月開小白
花秋結子生熟與異國之產無異伹枝莖雖纎弱不蔓
之屬葉亦大異也予家亦有之未見過三尺者小木而
能結子【凡倭方木香丸阿伽陀圓等薬中入用胡椒者以下氣溫中之功也】
胡椒辛氣入鼻則嚏故誤物入鼻孔不出者傍撒胡椒
末令嚏則隨出
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△按ずるに、胡椒、阿蘭陀《オランダ》商舶《しやうはく》、之れを將來《しやうらい》す。畨陀國《バンダこく》の產、最《もつとも》良し。蘓門荅剌《ソモタラ》[やぶちゃん注:スマトラのこと。]・交趾(カウチ)[やぶちゃん注:現在のヴェトナム北部。]・母羅加(モロカ)、之≪に≫次ぐ。近頃、種を撒《まき》て生(は)へる者、有り。『其《その》樹、髙さ、二、三尺、葉、「畨椒(たうがらし)」の葉に似て、厚く、靭(しな)へず。亦、「千-葉《やへ》の梔子(くちなし)」の葉に似たり。四月、小≪さき≫白≪き≫花を開《ひらき》て、秋、子《み》を結ぶ。生《なま》・熟《じゆく》、與《ともに》、異國の產と異なること、無し。伹《ただし》、枝・莖、纎(ほそ)く弱《よはき》と雖《いへども》、蔓(つる)の屬ならず。葉も亦、大《おほい》に異《こと》なり。』≪と≫。予が家も亦、之《これ》、有り。≪而れども、≫未だ、三尺≪を≫過《すぐ》者を見ず。小木《せうぼく》にして、能く、子を結ぶ【凡そ、倭方《わはう》の「木香丸《もくかうぐわん》」・「阿伽陀圓《あかだゑん》」等の薬中に胡椒を入《れ》用《もちふ》るは、以氣を下《くだ》し、中《ちゆう》を溫《あたたむ》るの功《かう》を以つてなり。】。
胡椒は、辛氣《しんき》、鼻に入《いる》と、則《すなはち》、嚏(はなひ)る故《ゆゑ》、誤《あやまり》て、物、鼻の孔《あな》に入《いり》て、出《いで》ざる者、傍《かたはら》に胡椒の末《まつ》を撒(ま)きて嚏《はなひ》らしむれば、則《すなはち》、隨《したがひ》て、出づ。
*
・「木香丸《もくかうぐわん》」江戸時代の売薬の名。植物の木香(双子葉植物綱キク目キク科ドロミアエア属モッコウ Dolomiaea costus 。インド北部原産の多年生草本。江戸時代には薬物として渡来していた。現在は雲南省や、本邦でも北海道で栽培が行われている)の根から製した腹痛の薬。
・「阿伽陀圓《あかだゑん》」万病に効く霊薬と言われた「阿伽陀」の名によって作られた丸薬。近世、大坂安堂寺町通の紐屋(薬店の屋号か)などで売薬として売られた。孰れも小学館「日本国語大辞典」に拠ったが、大坂安堂寺町通は江戸時代より組み紐の店があり、今もある。紐屋が、本業以外に、この薬を売っていたものか? 調べたが、判らなかった。
さて、以上で、概ね、すっきりしたので、以下、普段の注に入ることとする。
*
この「胡椒」は、日中ともに、
双子葉植物綱モクレン亜綱コショウ目コショウ科コショウ属コショウ Piper nigrum
である。当該ウィキを引く(注記号はカットした。必要を認めない箇所は基本、示さずに省略した。また、私は実際のコショウの植物体を見たことがないので、以上の本文と図と比較するために一部で同ウィキの画像をリンクした。太字・下線は私が附した)。『コショウ科コショウ属に属する』蔓『性植物の』一『種』(『図1a)、または』、『その果実を原料とする香辛料のこと(英:pepper;図1b)である。インド原産であるが、世界中の熱帯域で広く栽培されている』。『果実には強い芳香と辛みがあり、香辛料としてさまざまな料理に広く利用され、「スパイスの王様」ともよばれる。精油が香気成分となり、アルカロイドのピペリン』(piperine)『やシャビシン』(Chavicine)『が刺激・辛味成分となる。果実の処理法などによって、黒胡椒(ブラックペッパー)や白胡椒(ホワイトペッパー)などに分けられる』。十五『世紀以降のヨーロッパの東方進出は、コショウ貿易による利益も関わっていた』。『コショウの英名は「pepper」であるが、これはサンスクリット語で同属別種であるヒハツ(インドナガコショウ)』(畢撥: Piper longum )『を意味する「pippali」に由来しており、古くに名前の取り違えが起こったと考えられている』。『トウガラシ』((唐辛子・蕃椒:キク亜綱ナス目ナス科トウガラシ属トウガラシ Capsicum annuum )『やオニシバリ』(鬼縛り:バラ亜綱フトモモ目ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属オニシバリ Daphne pseudomezereum :果実は辛く、有毒)、『また』、『サンショウ』(ムクロジ目ミカン科サンショウ属サンショウ Zanthoxylum piperitum )『の果実を「胡椒」とよぶことがある』ので注意が必要である。蔓『性の木本(藤本=とうほん)であり、長さはときに』十メートル『以上になり、節は膨らみ、節から不定根を出して他物に絡み付く(図2a、b)。葉は互生、葉柄は長さ』一~二センチメートル、『葉身は卵形から長卵形』で、十~十五センチメートル×五~九センチメートルで、『先端は尖り、無毛で革質、表面は光沢がある暗緑色、葉脈は掌状で』、五~七(或いは九)『脈、中央の脈は基部から』一・五~三・五センチメートル『の部分で分枝する(図2c)』。『野生株では単性花(雄花と雌花が別)をつけ』、『雌雄異株(雄花と雌花が別の個体につく)のものが多いが、栽培される系統のものは雌雄同株(雄花と雌花が同じ個体につく)であり、また様々な程度で両性花をつける。野生型では果実量が少ないが、栽培されるものでは両性花率が高い系統ほど果実量が多いことから、栽培の歴史の中でこのような系統が選択されてきたと考えられている。花期は』六~十『月(中国の場合)、穂状花序を形成し、花梗は葉柄とほぼ同長、花穂は長さ約』十センチメートル、『葉と対生状につく(図3a、』3『d)。苞は』箆(へら)『形から楕円形、およそ』三~三・五×〇・八ミリメートルで、『花被を欠く。雄しべは』二『個、花糸は太く短い(図3d)。雌しべの子房は球形、柱頭は』三~四(或いは五)『個(図3d)』。『果穂は長さ』十五~十七センチメートル『ほどになり』、五十から六十『個の果実からなる(図3b』、3『c)。個々の果実は核果』一『個の種子を含み、球形で直径』五~六ミリメートル。『未熟果実は緑色だが』、『これを天日干しすると黒色』となり、『熟した果実は赤色になる(3b、』3『c)。『染色体数は 2n = 48, 52, 104, 128 が報告されており、栽培の歴史の中で著しい染色体倍加が起こったと考えられ、また他種との交雑の可能性も示唆されている』。
以下、「分布」の項。『原産地はインド南西部マラバール地方とされるが、すでに紀元前』一『世紀ごろには東南アジア熱帯域で栽培されていたと考えられている』。二〇二〇『年時点では、東南アジア、アフリカ、中南米の熱帯域で広く栽培されている』。
以下、「香辛料」の項。『コショウの果実には強い芳香と強烈な辛みがあり、最もよく使われる香辛料(スパイス)の』一『つであるため、「スパイスの王様(king of spice)」ともよばれる。コショウの辛さは、塩辛さとは異なる辛さである。コショウは肉料理、魚料理、野菜料理、スープなどさまざまな料理に使われ、またハムやソーセージの製造にも利用される。他にもソースやケチャップなどの調味料の原材料ともなる』。
以下、「種類」の項。『コショウは収穫のタイミング(未熟果、完熟果)や乾燥方法、外皮(外果皮・中果皮)の除去などの違いにより、黒胡椒、白胡椒、青胡椒、赤胡椒の』四『種類に分けられる』。
・『黒胡椒、ブラックペッパー(黒コショウ、黒こしょう、black pepper)』
『完熟前の緑色の果実を収穫し、天日干しで乾燥させたものであり、黒色になる。湯通しした後に乾燥したり、薪を使って』燻(いぶ)す『こともある。乾燥の際、果皮(外果皮、中果皮)にシワが生じるが、剥がさず』、『そのまま使用する。中果皮には辛み成分が多く含まれており、香りと辛みが強いため、強い味の肉料理や青魚などとの相性がよいとされる。また、インドの伝統医学であるアーユルヴェーダにて高く評価されている』。
・『白胡椒、ホワイトペッパー(白コショウ、白こしょう、white pepper)』
『赤色に完熟した果実を収穫し』、一『週間ほど水に浸して発酵させた後、柔らかくなった外果皮・中果皮を除去したものである。核(種子とこれを包む硬い内果皮)のみからなり』、『外果皮・中果皮がないため、黒胡椒より』、『辛みは弱いが』、『異なる風味を持ち、魚料理やシチューなど素材の味が強くないものとの相性が良いとされる』。『人によっては白胡椒に不快臭を感じる事があるが、これは製造工程で果皮を水中で腐敗させる際に発生する物質に由来しており、流水中の処理により』、『臭みの発生を押さえることが報告されている。白胡椒は発酵食品でもあり、コーヒーやカカオのように発酵過程の調節で多様な風味をつくることが可能ともされる。一方で、黒胡椒の外果皮・中果皮を機械で剥がして白胡椒としたものもある。また』、『下記のように胡椒は薬用にも使われるが、その際には』、普通、『白胡椒が使われる』。
・『青胡椒、緑胡椒、グリーンペッパー(青コショウ、青こしょう、green pepper)』
『完熟前の緑色の果実を原料とするが、黒胡椒とは異なり』、『天日干しにはせず、ゆでてから塩蔵、またはフリーズドライ加工したもの。そのため、果実の色は緑色が残っている(図8)。さわやかな香りと辛みを特徴とする。料理に散らしてアクセントにしたり、香りを活かしてスープやサラダに加える。タイ料理では「プリックタイオーン」とよばれ、粒のまま炒め物に利用されることがある』。
・『赤胡椒、ピンクペッパー(赤コショウ、赤こしょう、pink pepper)』
『赤色に完熟した果実を収穫するが、白胡椒とは異なり』、『外果皮・中果皮をはがさずにそのまま塩蔵したものや』、『天日乾燥したもの。赤い外果皮はシワが入り(図9)、香りと辛みがマイルドであるとされる。ペルーなど南アメリカの料理で使用されることがある。ただし「ピンクペッパー」(pink pepper)は』、胡椒とは全く無縁な、『ウルシ科の辛みがない植物コショウボク』(胡椒木:ムクロジ目ウルシ科サンショウモドキ属コショウボク Schinus molle )『の果実を意味することが多い』(私のような「ウルシかぶれ」の体質者は或いは気をつけねばならんな。当該ウィキをリンクしておく)。
『コショウは様々な形態で利用され、ホール(原形の粒の状態、粒胡椒)、あらびき(粗挽き)、パウダー(粉末状)などが市販されている。また、使うたびにペッパーミルを用いてホールを挽いたほうが新鮮な風味を得ることができるとされる』。『異なる種類の胡椒を混ぜて使うこともあり、日本で市販品には黒胡椒と白胡椒を混合したものもある。また』、『塩などと混ぜた「味付塩こしょう」として市販されているものもある』。『コショウの消費期限は、製造方法や保管状況にもよるが、おおよそ』二~三『年である。挽いた後のものは、挽く前(ホール)より香味が飛びやすい。また「黒胡椒」「白胡椒」の乾燥させたものは、「青胡椒」「赤胡椒」といった乾燥させる前のものより長持ちしやすくなる。大航海時代など物流が発達する前は「青胡椒」「赤胡椒」は原産地での香辛料や食材として使用されていたのに対し、原産地から離れていたヨーロッパでは「黒胡椒」「白胡椒」が使用されていた。現在は物流が発達したことや世界各地でコショウの生産が行えるようになったこと、さらに各国の料理が世界中に広まっていることからこの区別はなくなっている』。以下、「薬用」の項。『コショウの果実にはアルカロイドであるピペリンなどが含まれており、薬効を期待した料理や外用薬に使われることがある。抗菌、食欲増進、消化促進、健胃、駆風、発汗促進、利尿、鎮痛などの作用があるとされ、食欲不振、消化不良、胃弱、嘔吐、下痢、腹痛、腹部膨満、歯痛などに使われる。また、抗がん作用、抗酸化作用、止瀉作用も報告されている。脂肪燃焼作用やエネルギー代謝の亢進によるダイエット効果、また他の成分の吸収率を高めることで一緒に摂取した医薬品の作用を増強する効果があるとして健康食品に使用されることもあるが、多量に摂取した場合に他の医薬品と相互作用を示すことから、健康被害が発生する可能性を否定できず注意が必要ともされる』。『アルカロイドであるピペリンやシャビシン、ピペラニン (piperapine)、これらの構成要素であるピペリジン(piperidine)などが辛み成分となり、また精油であるピネン(pinen)、リモネン(limonene)、カリオフィレン(caryophyllene)、ピペロナール(piperonal)などが香り成分となる。コショウでくしゃみが出るのは、辛味成分であるピペリンが鼻腔の神経を刺激するためである』。
以下、「産地」の項。『コショウはインド原産であるが、世界中の熱帯域で広く栽培されている』。二〇二一『年時点の生産量(ただしコショウ属の他種を含む)はベトナムが最大であり、以下ブラジル、インドネシア、ブルキナファソ、インドと続いている』とある。
なお、以上の引用本文は、「本草綱目」の「漢籍リポジトリ」の「卷三十二」の「果之四」「味類一十三種内附四種」の冒頭の「胡椒」(ガイド・ナンバー[079-10a]以下)のパッチワークである。
「昧履支《まいりし》」これは、原拠は「本草綱目」の記載から、唐の段成式(八〇三年~八六三年)が撰した怪異記事を多く集録した「酉陽雜俎」(二十巻・続集十巻・八六〇年頃成立)の「續集」の「卷十八 廣動植之三」からである(「百度百科」の「昧履支」を見よ)。原文は「中國哲學書電子化計劃」のこちらで、当該部の電子化されてある。一部に手を加えて示す。
*
胡椒、出摩伽陀國、呼爲昧履支。其苗蔓生、極柔弱。葉長寸半、有細條與葉齊、條上結子、兩兩相對。其葉晨開暮合、合則裹其子於葉中。形似漢椒、至辛辣。六月採、今人作胡盤肉食皆用之。
*
私は、同書を東洋文庫版の今村与志雄訳注で所持する。当該部の訳を引用する。
《引用開始》
胡椒(こしょう)。
マガダ国に産出する。同地では、昧履支と呼ぶ。その苗は、蔓(つる)生で、きわめて
やわらかく弱い。葉の長さは、一寸半で、細い条(こえだ)があり、葉と同じである。条(こえだ)に子(み)を結び、両々相対する。その葉は、朝、開き、日が没すると、合わさる。その子(み)を葉のなかにつつむ。ぁ達は、漢椒に似ているが、たいへん辛(から)くひりひりする。六月、採取する。いまの人は胡盤肉をつくるとき、これを使用する。
*
今村先生の注を使用させて戴くと、「昧履支」は『現代中国語音 mei-li-či。これは胡椒を意味するサンスクリット、マリチャ marica、marica の転写である。なお、サンスクリットのマーガダ māgadha は、コショウ pepper の形容語である。インドのうち、とくにマガダ国 Maghda という地名に結びつけられる所以がある』とある。私の後注も参照のこと。
「漢椒」は『蜀椒のこと』とあるので、先行する「秦椒」及び「蜀椒」で示した通り、サンショウを指す。
「胡盤肉食」『胡は、唐代、外来の物をさす場合、一種 の接頭語として使用されたが、とくに、西域、イラン系の文物に用いられることが多い。もっとも、胡椒のようにインド産の物にも使われているから、その使用の仕方は、きゅうくつなところはなかった。胡盤肉食は、西域ふうの肉料理という意味らしい。胡椒は、その後、普及し、一六世紀、明代の李時珍(一五一八-一五九三年)のときには、「胡椒は、いま南番諸国および交趾、滇南[やぶちゃん注:現在の雲南省昆明以南の広大な地域を指す。]、海南の諸地はどこにもある……いまや中国の食品にゆきわたり、日用の物になった」というぐらいになっていた。』と述べておられる。
以下、
本文注に入る。
「西戎」中国が西方の異民族を呼んだ卑称。
「南畨」「南蠻」に同じ。同前で南方の異民族を呼んだ卑称。
「摩伽陀國《マガダこく》」当該ウィキによれば、ヒンディー語ラテン文字転写で「Magadha」(紀元前六八二年~紀元前一八五年)は『古代インドにおける十六大国の一つ。ナンダ朝のもとでガンジス川流域の諸王国を平定し、マウリヤ朝のもとでインド初の統一帝国を築いた。王都はパータリプトラ』(現在のビハール州の州都パトナ。グーグル・マップ・データ)とある。
「扁豆《へんづ》」マメ目マメ科マメ亜科インゲン連フジマメ(藤豆・鵲豆)属フジマメ Lablab purpureus 。東洋文庫訳では、割注で『(インゲンマメ)』とするが、誤り。マメ科インゲンマメ属インゲンマメ Phaseolus vulgaris で、全く異なる種である。何故、間違ったかは、判る。これを担当された清水淳夫氏は大阪生まれだからである。ウィキの「フジマメ」によれば、『関西ではフジマメをインゲンマメと呼び、インゲンマメはサンドマメと呼ばれている』とあるのである。
「山藥《さんやく》」これは、本来は漢方薬での呼称である。しかも、「本草綱目」であるから、単子葉植物綱ヤマノイモ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属ナガイモ Dioscorea polystachya しか指さない。日本原産のヤマノイモ属ヤマノイモ Dioscorea japonica は厳密には含まない。但し、中国にも現在は非常な広域で分布はしており、その伝播の時期は判らない。
「梧桐《ごとう》」双子葉植物綱アオイ目アオイ科 Sterculioideae 亜科アオギリ属アオギリ Firmiana simplex 。先行する「卷第八十三 喬木類 梧桐」を見よ。
「母羅加(モロカ)」これは、現在のモルッカ諸島(英語::Moluccas/オランダ語:Molukken)=マルク諸島(インドネシア語:Kepulauan Maluku)、インドネシア共和国のセラム海とバンダ海に分布する群島のことであろう。当該ウィキによれば、『スラウェシ島の東、ニューギニア島の西、ティモール島の北に位置する。歴史的に香料諸島(スパイス諸島)』(☜)『として特に西洋人や中国人の間で有名であった』とある。
「小天蓼(こまたゝび)」『「灌木類」≪の≫「天蓼(またゝび)」』「コマタタビ」という種はないので、双子葉植物綱ツバキ目マタタビ科マタタビ属マタタビ Actinidia polygamaの実のことを言っているとしか思われない。先行する「卷第八十四 灌木類 木天蓼」を見よ。]