[やぶちゃん注:右下に「唐胡桃ノ葉」とキャプションを附して、本文で、『「唐胡桃」(からぐるみ)なるものが、中国から近年、本邦に齎されたとして、最近では、結構、植えている』などと言っており、特に、『葉が、本邦の胡桃の葉と異なり、檞(かしわ)の葉に似ていて、葉の末の部分は尖っておらず、葉の辺縁のギザギザもない』とも言っていて、その「違う」ところの葉を描いているのだが、肝心のその違いが、全然、上手く描かれていないのは、ガッカりだ。]
くるみ 羗桃 核桃
播羅師【梵書】
呉桃【延喜式】
胡挑
久留美
言呉菓也
フウ タウ
[やぶちゃん字注:「播」は、原本では、(つくり)の第一画がない、「グリフウィキ」のこれであるが、表示出来ないので、標準字で示した。]
本綱胡桃本出羗胡漢時張鶱使西域始得種還植之北
土多有之南方亦有伹不佳其樹髙𠀋許春初生葉長四
五寸微似大青葉兩兩相對頗作惡氣三月開花如栗花
穗蒼黃色結實至秋如青桃狀熟時漚爛皮肉取核爲果
人多以欅柳接之
山胡挑 南方有之底平如檳榔皮厚而大堅多肉少穰
其壳甚厚須椎之方破
[やぶちゃん字注:「壳」(「殼」の異体字)は、原本では、第六画の横画がない、「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、標準字で示した。]
胡桃仁【甘熱】能入腎肺最虛寒者宜【痰火積熱者不宜多食】利三焦
益氣養血潤肌黑鬚髮多食去五痔【多食動風脫人眉同酒食多咯血】
與破故紙同爲補下焦腎命門之藥故古有云黃壁無
知母破故紙無胡桃猶水母之無蝦也胡桃能制銅
胡桃青皮【苦濇】烏髭髮【與科蚪等分擣泥塗之一染卽黒】 治白癜風【與硫黃同摻之】 染帛黒色【枯皮亦佳水煎染之】
新六山からのまはすくるみのとにかくに持ちあつかふは心なりけり光俊
△按胡桃有數種唐胡桃自中𬜻多來近頃本朝亦徃徃
種之其葉似檞之軰而末不尖無刻齒長五六寸伹兩
兩不對生此與本草之說少異其實核圓大而色淡皮
薄易破仁脂多味最美也養山雀者破以餌之喜食之
鬼胡桃 核形似桃核而團甚堅硬炒過入水破之其仁
脂少味不美
姬胡桃 核微扁仁脂多味美本草所謂南方山胡桃而
[やぶちゃん字注:「姬」は原本では、「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、通用字とした。]
倭胡桃是也其油磨木噐甚光澤用其皮染帛黒色久
久不變凡胡桃與銅錢共嚼合則錢成粉制銅之證也
一種有澤胡桃 岸澤多有之雖結實不堪食其材畧似
欅而理粗匠人以僞爲欅
*
くるみ 羗桃《きやうたう》 核桃
播羅師《ばんらし》【梵書。】
呉桃《ごたう》【「延喜式」。】
胡挑
「久留美」。
言《いふ》心は、「呉菓(くれ
のこのみ)」なり。
フウ タウ
[やぶちゃん注:「言《いふ》心は」の「心」は、送り仮名にある。]
「本綱」に曰はく、『胡桃は、本《も》と、羗胡(ゑびすくに《キヤウコ》[やぶちゃん注:「ゑ(ヱ)」はママ。])より出づ。漢の時、張鶱《ちやうけん》、西域《さいいき》に使《つかひ》して、始《はじめ》て、種を得て、還り、之《これを》植う。北土《ほくど》に、多く、之れ、有り。南方にも亦、有れども、伹《た》だ、佳《か》ならず。其の樹の髙さ、𠀋ばかり。春の初《はじめ》、葉を生《しやうじ》、長さ、四、五寸。微《やや》、「大青《たいせい》」の葉に似て、兩《ふた》つ兩《ながら》、相《あひ》對す。頗《すこぶ》る、惡(わる)き氣(かざ)を作《なす》。三月、花を開く。栗の花のごとし。穗《ほ》、蒼黃色。實を結ぶ。秋に至《いたり》、青桃《せいたう》の狀《かたち》≪の≫ごとし。熟《じゆくす》る時、皮肉を漚爛《おうらん》≪す≫[やぶちゃん注:水分を含んで腐ったようになる。]、核《さね》を取《とり》て、果《くわ》と爲《なす》。人、多《おほく》≪は≫、欅《けやき》・柳《やなぎ》を以つて、之れを接《つ》ぐ。』≪と≫。
『山胡挑《さんこたう》』『南方に、之れ、有り。底《そこ》、平《ひらた》にして、「檳榔《びんろう》」のごとく、皮、厚《あつく》して、大《はなは》だ、堅く、肉、多く、穰《たね》、少《すくな》し。其《その》壳《から》、甚だ、厚《あつし》。須らく、之れを椎(う)つて、方《まさに》破るべし。
『胡桃《こたう》の仁《にん》【甘、熱。】≪は≫、能《よ》く、腎・肺に入り、最も、虛寒の者に、宜《よろし》【痰火《たんくわ》・積熱《しやくねつ》の者、多食、宜《よろ》しからず。】。三焦を利し、氣を益し、血を養《やしなひ》、肌を潤《うるほし》、鬚《ひげ》・髮を黑くす。多《おほく》食へば、五痔を去る【多く食へば、風《ふう》を動かし、人の眉を脫《ぬ》く。酒と同じく食ふこと、多ければ、血を咯《はく》。】』≪と≫。『破-故-紙《はこし》と同《おなじ》く下焦《げしやう》≪の≫腎命門《じんめいもん》を補《おぎな》ふ藥と爲《なす》。故に、古《いにし》へより、云へる有《あり》、「黃檗《わうばく》、知母《ちも》、無く、破故紙に、胡桃、無きは、猶《な》を[やぶちゃん注:ママ。]、水母(くらげ)の、蝦(ゑび[やぶちゃん注:ママ。])、無《なき》がごとし。」≪と≫。胡桃、能《よ》く、銅を制す。』≪と≫。
『胡桃の青皮《せいひ》【苦、濇《しぶし》。】≪は≫、髭《ひげ》・髮を烏(くろ)くす【科-蚪(かへるのこ)[やぶちゃん注:「科蚪」はママ。「蝌蚪」(おたまじやくし)。]≪と≫等分≪に≫、泥に擣《つ》き[やぶちゃん注:レ点はないが、返して訓じた。]、之れを塗れば、一染《いつせん》にして、卽ち、黒し。】』『白-癜-風(《しろ》なまづ)を治す【硫黃《いわう》と同《おなじく》、之れを、摻《すりこむ》。】』『帛(きぬ)を染《そむ》≪るに≫黒色≪と成す≫【枯皮《かれかは》も亦、佳《よ》し。水≪に≫煎じて、之れを染む。】。』≪と≫。
「新六」
山がらの
まはすくるみの
とにかくに
持ちあつかふは
心なりけり 光俊
△按ずるに、胡桃《くるみ》、數種《すしゆ》、有り。「唐胡桃《たうくるみ》」、中𬜻より、多《おほく》、來《きた》る。近頃、本朝にも亦、徃徃《わうわう》、之れを、種《うふ》。其の葉、檞(かしは)の軰《はい》に似て、末《すゑ》、尖(《と》が)らず、刻-齒《ぎざ》、無く、長さ、五、六寸。伹《ただし》、兩兩《ふたつながら》、對生せず。此れ、「本
草≪綱目≫」の說と、少異あり。其の實・核《さね》、圓《まろく》、大にして、色、淡く、皮、薄く、破《やぶ》れ易し。仁《にん》、脂《あぶら》、多く、味、最も、美なり。山雀《やまがら》を養(か)ふ者、破りて、以つて、之れを、餌(ゑ)にす。喜んで、之れを、食ふ。
鬼胡桃《おにぐるみ》 核《さね》の形、桃の核に似て、團《まろく》、甚だ、堅硬≪なり≫。炒過《いりすご》≪して≫、水に入《いれ》て、之れを破れば、其の仁《にん》、脂《あぶら》、少≪なく≫、味、美ならず。
姬胡桃《ひめぐるみ》 核、微《やや》、扁《ひらた》く、仁、脂、多く、味、美なり。「本草≪綱目≫」、所謂《いはゆ》る、『南方の山胡桃《さんこたう》』にして、倭≪の≫胡桃《くるみ》、是れなり。其の油、木噐《きのうつは》を磨(みが)き、甚だ、光澤≪出づる≫なり。其の皮を用《もちひ》て、帛《きぬ》を染《そむ》れば、黒色にして、久久《ひさびさ》≪に≫變ぜず。凡そ、胡桃と、銅錢と、共に、嚼-合《かみあは》すれば、則《すなはち》、錢、粉《こ》と成る。銅を制するの證《しやう》なり。
一種、「澤胡桃《さはぐるみ》」有り。岸澤《きしざは》に多《おほく》、之れ、有り。實を結《むすぶ》と雖も、食《くふ》に堪へず。其材、畧《ちと》、欅(けやき)に似て、理(きめ)、粗(あら)く、匠-人《たくみ》、以つて、僞《いつはり》て、「欅」と爲《なす》。
[やぶちゃん注:先行する「櫻桃」の注で、
*
「胡桃《こたう/くるみ》」日中では同種ではないので、注意が必要である。中国に分布するのは、ブナ目クルミ科クルミ属 Juglans 止まりである。「維基百科」の同属には、九種を挙げてあるが、これらが総て中国に分布するかどうかは、判らない。本邦の知られた「クルミ」としては、クルミ属マンシュウグルミ(満州胡桃:中文名「胡桃楸」)変種オニグルミ Juglans mandshurica var. sachalinensis であるからである。
*
と述べたが、ここでは、仕切り直しをし、「跡見群芳譜」の「樹木譜 オニグルミ」、及び、同サイトの「外来植物譜 カリヤ・オウァタ」等にあるブナ目クルミ科Juglandaceae・クルミ属 Juglans の中国(周辺国を含む)産・日本産のクルミ類の解説に拠って整理する。まず、クルミ科(クルミ科)には』世界で九『属、約』六十『種が含まれ』るとあって、
■クチバシクルミ属Annamocarya
*クチバシクルミ Annamocarya sinensis(中文名『喙桃屬』。『廣西・四川・貴州・雲南・ベトナム産』)
■ペカン属 Carya(中文名『山核桃屬』)
*Carya cathayensis(中文名『山核桃』。『浙江・安徽産』)
*Carya hunanensis(中文名『湖南山核桃』。『湖南・廣西・貴州産』)
*Carya kweichowensis(中文名『貴州山核桃』。『貴州産』)
*Carya tonkinensis(中文名『越南山核桃・安南山核桃』。『廣西・雲南・ベトナム産』)
■ Cyclocarya 属(中文名『靑錢柳屬』)
*Cyclocarya paliurus(中文名『靑錢柳・靑錢李・山麻柳』。『臺灣・華東・兩湖・兩廣・四川・貴州・雲南産』)
■フジバシデ属 Engelhardia(中文名『烟包樹屬』。五種)
*Engelhardia hainanensis(中文名『海南黃杞』)
*Engelhardia roxburghiana(中文名『黃杞』・『黃欅』。『臺灣・福建・江西・湖南・兩廣・四川・貴州・雲南・東南アジア産』
*Engelhardia serrata(中文名『齒葉黃杞』)
*Engelhardia spicata(中文名『雲南黃杞』。『雲南・廣西・インドシナ・インドネシア・フィリピン産』)
*変種Engelhardia var. colebrookiana(中文名『毛葉黃杞』。『兩廣・四川・貴州・雲南・インドシナ・ヒマラヤ産』)
■クルミ属 Juglans(中文名『胡桃屬』。『世界に約』二十一『種がある』)
* Juglans hopeiensis(中文名『麻核桃』。『河北産』)
*マンシュウグルミ Juglans mandshurica(中文名『胡桃楸・核桃楸・山核桃・楸樹』。『樹皮(秦皮・核桃楸皮・楸皮)を薬用』。『朝鮮(北部)・遼寧・吉林・黑龍江・華北・陝甘・華東・兩湖・四川・貴州・雲南・臺灣産』)
*カシグルミ(ペルシアグルミ)Juglans regia(中文名『胡桃・核桃』。『小アジア・カフカス・イラン・カラコルム産』。『長野県などで栽培』
*変種テウチグルミ(チョウセングルミ・カシグルミ)Juglans var. orientalis
*Juglans sigillata(中文名『鐵核桃』。『雲南・ヒマラヤ産』)
※一方、本邦のクルミは、代表種は、
★クルミ属マンシュウグルミ変種オニグルミJuglans mandshurica var. sachalinensis
で、他に、
★カシグルミ(ペルシアグルミ)変種テウチグルミ(信濃胡桃) Juglans mandshurica var. sachalinensis
がある(但し、当該ウィキによれば、『アメリカから輸入されたペルシャグルミとテウチグルミが自然交雑してできたとされている』。『なお、栽培特性の優れた株の実生選抜により残ったものであるが、現在では、品種として扱われる』。『仮果とよばれる実をつけ、その中に核果があり、さらに内側の仁を食用とすることができる。核果が成熟すると』、『外皮が割れ、核果が落下するため収穫が行いやすい。自生しているヒメグルミ』(Juglans mandshurica var. cordiformis :M.Ohtake氏のサイト「四季の山野草」の「ヒメグルミ」のページによれば、『オニグルミ』『とそっくりで』、『実も区別が難しいが、実の皮がはがれた後の殻がオニグルミと比べ、あまりごつごつしていない。その他』、『クルミの仲間には』、『ノグルミ』(野胡桃: Platycarya strobilacea )『サワグルミ』(沢胡桃:Pterocarya rhoifolia )『などがある』とある)『やオニグルミより大粒で殻を割りやすく食べられる部分も多いため、一般に市販されているクルミはこの種類が多い。日本では主に長野県で栽培されており、長野県東御市が生産量日本一である。別名菓子クルミ、手打ちクルミ』とある)。
以下、ウィキの「オニグルミ」を引く(注記号はカットした)。『落葉広葉樹の高木で樹高は』二十~三十メートル『に達する。樹冠は広葉樹らしい丸いものであるが、太い枝を分枝させる割に小枝が少なく、全体的に樹形は粗い印象になる。樹皮は褐色で若い頃は平滑、老木になると縦に大きく裂ける。若い枝は褐色に毛を密生させる。葉は枝に互生する奇数羽状複葉で小葉の数は』九『枚から』二十一『枚(』四『対から』十『対)、小葉の縁には明確な鋸歯を持つ。葉柄は短くて根元が太い』。『花は』一『つの個体に雄花と雌花の』二『種類が咲く』、『いわゆる雌雄同株である。雄花は尾状花序で』、『前年枝から垂れ下がり、逆に雌花は当年生の若枝に直立する。雌花は』十~二十『花ほどが付き、花穂には褐色の毛が密生する。雌花の』萼『片は緑色、柱頭部は二又に分かれ赤くなる。風媒花であり特に強いにおいなどは無い。開花時期は展葉とほぼ同じ時期である。花粉は棘状の構造物で覆われる。クルミ属の花粉は形態的に同科のサワグルミ属のものに近いが、ノグルミ属のものとはやや異なる』。『果実は初夏に受粉後同年の秋には熟す。果実はほぼ球形の緑色で熟すにつれて』、『やや黄色っぽくなる。毛が密生し』、『ざらざらした手触りである。果実内の果肉は薄く、殆どは核が占める。核は厚い殻を持ち、広卵形から球形で表面には深いひだを持ち』、『縫合部はやや飛び出る』。『ドングリ類やトチノキと同じく、発芽は地下性』『で子葉は地中に残したまま本葉が地上に出てくる。このタイプの子葉は栄養分の貯蔵と吸出しに特化し、最初に根を伸長させ、次に本葉を展開させ自身は地中で枯死する』。『根系は』、『あまり分岐せず』、『水平痕が多いタイプである。垂下根であっても条件の良い層を見つけると水平根を』、『よく伸ばす。細根は根端肥厚が見られ、これは菌類との共生による菌根である』。『冬芽は裸芽と言われることが多いが、特に頂芽に形成される雌花を含む混芽は早落性の鱗片を持つ鱗芽であるという。枝先の頂芽は円錐形で特に大きく、外側につく』一『対の葉は芽鱗の役目をして、早くに脱落する。枝に互生する側芽は小さい。葉痕は倒松形や三角形で、維管束痕が』三『個つく』。『近縁種との判別ポイントとしては』、『小葉の鋸歯の有無』、『及び、葉の表面のざらつきと大きさ、果穂の長さに注目する』。『ニレ類、トチノキ類、ヤナギ類、ハンノキ類などと共に渓流沿いに出現する代表的な樹種である』。『前述のように雌雄同株の植物であるが、開花初期のある時点で見たときに雄花だけ咲かせる個体と雌花だけ咲かせる個体が』あ『るといい、一時的に雌雄異株的な一面があるという。このような繁殖様式をヘテロダイコガミー(英:Heterodichogamy)と呼び、日本語では通例「雌雄異熟」、「異型異熟」もしくはこれに近い表現で訳される。現象自体は古くから知られており、また分類的には』十『科以上で見られるという。雌雄の反転はオニグルミの場合は』、『集団内で開花期間中に一回だけであるが、個体ごとに複数回繰り返すものも知られる』。『種子散布としてはドングリやトチノキなどと同じく、重力散布や小動物、特にネズミ類による貯食行動に依存した散布を行っている。渓流沿いに出現する種ではあるが、流水による分布拡大は比較的少ないとみられている。貯食による散布の結果平地から斜面上部に分布を広げるようになった例もしばしば報告されている。種子散布者としてはネズミ類の中でもアカネズミよりリスの方が望ましく、アカネズミはササ藪に種子を持ち込むので不適である。リスの場合貯食後に積雪があっても掘り起こしており、貯食場所の記憶は嗅覚や単なる視覚ではなく総合的に判断しているという。飛び飛びのパッチ状態でも地域内にオニグルミが存在することは、リスの生存に重要なことの一つだという』。『カラスもよくオニグルミを食べ、この時に空中からクルミを落として割る行動が見られる。クルミの割れやすさは季節によって差があり、晩秋ほど割れやすいという。また、カラスは重いクルミを選んで割る傾向があるという。カラス類はクルミを自動車に踏ませて割らせるという行動も知られている。ツキノワグマもクルミを利用している。クマはサクラ類の種子散布者としては重要であるが、クルミの場合はかみ砕いてしまうために不適である』。『動物散布型の種子ということで虫害果に対する動物の反応も調べられており、動物の種類によって反応が違うという。ミズナラで行った実験では雌雄で差が見られたものもあった』。『結実状況は豊凶の差がある。ブナやミズナラほど不規則ではないが』、『概ね』、『隔年で豊凶を繰り返すという。ある程度の埋土種子能力はあると見られるが、単に林床で保存すると』一『年の保存で発芽率は大きく低下する。人工的に低温恒温条件でビニール袋に入れることで数年程度の保存ができるが、その場合も発芽率は徐々に低下する。ビニール袋に入れるか封筒に入れるかで生存率が大きく変わる樹種もある』。『クルミ類はアレロパシー』(Allelopathy:ある植物が他の植物の生長を抑える物質(アレロケミカル)を放出したり、あるいは動物や微生物を防いだり、或いは、引き寄せたりする効果の総称。邦訳では「他感作用」という。ギリシア語の(ラテン文字転写:allēlōn:「互いに」)+(同前:pathos・「感受」「あるものに降りかかるもの」)からなる合成語で、一九三七年にドイツの植物学者ハンス・モーリッシュ(Hans Molisch(一八五六年~一九三七年)により提唱された)『が強いとされ、他の植物の生育を阻害する例がしばしば報告される。原因物質とされるジュグロンは生の果実からのエーテル処理でセイヨウグルミの数十倍得られるという。降雨時に生じる樹冠流によってオニグルミの周辺土壌は中性化するという』。『海水で育てると』、『速やかに枯死するといい』、『耐塩性は低いと見られる。一方でクルミの種子は時に海岸に漂着することがあるという』。『オニグルミは年間成長期間の中では比較的短期に伸ばすタイプだと見られている。土用芽(』(土用の頃に萌え出る新芽。梅雨明けの頃の気温上昇で芽吹く)『英:lammas shoot)も出さず、成長期間中の二度伸びはない。これは樹種毎に傾向があることが知られている。種子の大きさの割に実生の初期成長は遅いというが、成木伐採後の萌芽更新の際は巨大な根系の資源を使い非常に成長が速い』。『大型のテントウムシの一種、カメノコテントウの幼虫はアブラムシではなく、ハムシの幼虫を捕食する。特にクルミ類に付くクルミハムシを好み、オニグルミの葉の上でも見られる。オニグルミに付く昆虫、特にチョウやガの幼虫は多い。北海道における調査ではオニグルミやヤナギ類などからなる河畔林は、大量の昆虫を川面に落とし』、『魚類などの餌の供給源になっていると見られている』。本種は『日本の北海道・本州・四国・九州と、樺太にかけて広く分布する。沖縄にはなく、鹿児島県の屋久島が南限とされる。本州の中北部に最も多い』。『核の中身は食用になる。形態節の通り』、『地下性の発芽様式を採り、人間や動物が食べている部分は栄養を蓄えた子葉の部分である』。『クルミ類を食べる際』、『僅かに渋みを感じるのは、渋皮に含まれるポリフェノールやタンニンのためである。渋み成分の種類と量はクルミの種類によっても差があるという。果皮や葉にはさらに多くのタンニンが含まれており食用にはできない。ただし、新芽は食べることがある』。『オニグルミの実は食用にでき、日本産のクルミでは唯一の食用種である。採取時期は』九~十『月ごろで、熟した果実を竿などでたたき落とすか、落ちているものを拾い集める。果実は外皮をかぶっているので、土に浅く埋めて外皮を腐らせたり、靴底で地面に強く踏みつけて転がすなどして取り除き、殻を水洗いして天日干しして保存する。広く市販されるテウチグルミやシナノグルミと比較して実はやや小さく、殻(核果)が厚めで非常に堅いので、食べられる殻の中の種子(仁)を綺麗に取り出す事は容易ではない。クルミを割って食べるときは、尖っているほうを下にして縦位置に置いて、金槌で底を叩き、渋皮は熱湯に通して竹串で剥く』。『種子はそのまま生で食べるか、軽く炒って食べる。多くの油分とたんぱく質を含み、味は濃厚で保存性が良い。山菜をクルミ和えで楽しむほか、クルミ豆腐、クルミ味噌、甘煮、和菓子、洋菓子、パンの材料、料理のトッピングなど、広範囲に利用される。中部地方や東北地方では、オニグルミを使った菓子や餅も多い。長期保存が利くので、かつては山村の各家の保存食に利用したり、和・洋菓子用に出荷するなどもされたが、昨今では扱いやすいテウチグルミやシナノグルミのほうが人気が高く、オニグルミは自家消費用に採るぐらいだという』。『植物体としては土の中でも残り易く、古くから食用にされていたことを示すものとして、日本列島の縄文時代の遺跡からも、多量のオニグルミの殻が出土している。特に東北・関東・中部地方に多い。クルミだけを捨てる場所、トチノキだけを捨てる場所などの使い分けが見られる遺跡もある。脂質、特に脂肪酸は種に特異的な組成比を残したまま、土壌中に長期残存するとされており、殻の痕跡など間接的な証拠だけでなく骨の分析などからの古代人の植生解明も期待できるという』。『道管の配置は散孔材。心材は赤褐色で辺材は黄白色で境界は明瞭であるが年輪は不明瞭。気乾比重は』〇・五『程度』。『木材としてはかたく、「ウォールナット」』(walnut)『の名で知られる。ウォールナットは製材後の狂いが少なく、加工も容易という長所を有するため、机や椅子、洋風家具、建築、フローリング、彫刻、小銃の銃床などにも用いられる』。『秋田県の古民家における調査では屋根を支える梁桁』(はりげた)、『床を支える大引』(おおびき)『などの重要な構造材にオニグルミ材が使用されていた家があった。ただし、スギ、クリ、ケヤキなどに比べると使用頻度は少ない。遺跡からはクルミの殻だけでなく木片も見つかることから、古くから木材としても利用されていたとみられる』。『種子が薬用され、生薬名を胡桃仁(ことうじん)と称し、喘息、便秘、インポテンツ、腎結石に薬効があるといわれている。一般的にはオニグルミよりもテウチグルミ(胡桃)がよく使われる。民間療法では』、一『日量』五~十『グラムを』四百『ccの水で煎じて』、三『回に分けて服用する用法が知られるが、そのまま食べても同様に効果があるとされる。体力が落ちてころころしたときの便秘や、咳をしたときに尿漏れするような喘息に良いといわれている』。『魚毒として漁に使ったという記録が各地に残る。殺魚成分はナフトキノン』(1,4-naphthoquinone:C10H6O2)『だとされる。魚毒漁は使用する植物はもちろん、漁の目的から参加者まで多種多様のものがあることが各地で報告されているが、クルミを用いる場合の』、『この辺のことはよくわかっていない』。『殻』は『根付細工などに利用された』。また、『粉砕した殻を埋め込んだ冬用タイヤが開発されている。クルミの殻は硬く鋭利であるが、スパイクタイヤではなくスタッドレスタイヤ扱いとなっている』。『観賞性はあまり高くないが、収穫を楽しむことができる植栽として庭木などにも使われる。植栽する場合、植え込みの適期は』十二~三『月とされる』。『正月の魔除け的な習慣である削掛』(けずりかけ:木を削って花や稲穂のように作った飾り物や幣(ぬさ)。神棚・仏壇・門・墓などに飾られ、農作物の豊作を祈願するもの)『の材料にオニグルミを使うという。削掛に似たアイヌの習慣にイナウがある。イナウに用いる樹種は儀式の目的によっては、それほど制限されないものもあると言い、中にはオニグルミで作るものもあるという』。『クルミを庭に植えることは魔除けになるという地域と、逆に災いごとを呼び込むとして禁忌とする地域があるという』。『「クルミ」』という名は、『タンニンで真っ黒になった様を指して「黒い実」、熟しても果皮に包まれた様から「くるまれた実」、クリに似て食用にできるから「栗実(くりみ)」など諸説ある。「オニ(鬼)」は核果が大きく凹凸も多いことを在来クルミ類、特にヒメグルミとの対比した命名と見られる』。『実際に』、『オニグルミの方言名では「オオクルミ」「オトコクルミ」などのヒメグルミと比較した名前が東北から北陸にかけてみられる。方言名は種類としては多くなく』、『「クルミ」が訛った程度のものが多く、「クルミ」「クルミノキ」などという名前も全国的に知られる。大阪周辺では「ウルシ」と呼ぶという。ウルシは複葉である点と発音が若干似ている。「黒い実」説に近い「クロビ」「クロベ」などは北陸に見られる。四国や九州北部はクリやウメが付く名前が多く、「クリミ」、「コーグリ」、「クリウメ」、「ノグウメ」などがみられる。「ウメ」は』、『幼果がウメのそれに似ていることに因むとみられる。四国はトチノキも「クリ」の付く方言で呼ぶことが多い。変わった名前として「ヤマギリ」(長崎県)「モモタロ」(石川県)「ボヤ」(紀伊半島)「ノブ」(愛媛県・山口県)などがある。九州はサワグルミなどを「ギリ」と付けて呼ぶところが他にも知られる。アイヌは「ニヌム」「ニヌムニ」などと呼んでいた。同じく食用になるヒメグルミと区別しない方言も全国的に多く、「ボヤ」「ノブ」などは』、『実が食用にならないノグルミやサワグルミと同じだという』。『カラフトグルミ(樺太胡桃)、カラフトオニグルミ(樺太鬼胡桃)ともよばれる中国植物名では「核桃楸」(かくとうしゅう)という』。『種小名mandshuricaは「満州の」、変種名sachalinensisは「サハリンの」で何れも分布地に因む命名である。本項ではシノニムとなっているJuglans ailanthifoliaの種小名ailanthifoliaは「ニワウルシ属( Ailanthus )の葉」という意味で』、『いずれも葉が複葉で似ていることからの命名である』とある。
「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「卷三十」の「果之二」の「胡桃」([075-49b]以下)をパッチワークしたものである。
「播羅師【梵書。】」とあるが、「大蔵経データベース」で検索しても、出てこない。不審。
「呉桃《ごたう》【「延喜式」。】」「呉菓(くれのこのみ)」本邦での呼称。呉地方を渡来した中国の代わりに用いたもの。
「羗胡(ゑびすくに《キヤウコ》)」「羌」(きょう)は中国の古代より中国西部に住んでいる異民族を指し、「西羌」とも呼ばれる。現在も中国の少数民族(チャン族)として存在する。「胡」は中国の北西方の未開民族。また一般に、「異民族・外国」の意を表わす。本邦の「夷」(えびす:歴史的仮名遣も同じ)で、孰れも中国で異民族の卑称である。
「張鶱」(?~紀元前一一四年)は前漢の軍人・外交官。本貫は漢中郡城固県。小学館「日本国語大辞典」に、紀元前一三九年頃、『武帝の時、匈奴を牽制するため』、『大月氏と同盟を結ぼうと出発』、『同盟は不成立だったが、大宛、大月氏、大夏などをまわり、のちに烏孫にも使』い『して、西域への交通路と知識を中国にもたらした。また、その間、匈奴征伐に従って功をたて、博望侯に封ぜられた』(その翌年に没した)とある。当該ウィキが詳しい。
「大青《たいせい》」シソ目シソ科キランソウ亜科クサギ(臭木)属クサギClerodendrum trichotomum、或いは変種クサギ Clerodendrum trichotomum var. trichotomum 。中国・朝鮮・日本全国に分布する。和名は、枝や葉に、やや悪臭があることに由来する。六年を過ごした、富山県高岡市伏木の裏山である二上山に多く生えていた。確かに、臭いが、私は、跋渉するごとに、花を好んだ。
「頗《すこぶ》る、惡(わる)き氣(かざ)を作《なす》」不審。クルミの葉が悪臭を持つという記載は、中文のクルミ類の記載をいくら見ても、「臭い」とする記述はない。
「青桃」不詳。中文サイトでも掛かってこない。
「山胡挑《さんこたう》」前掲の Carya cathayensis のことと思われる。
「檳榔《びんろう》」ヤシ科の植物檳榔樹である、単子葉植物綱ヤシ目ヤシ科ビンロウ属ビンロウ Areca catechu のこと。果実を薬用・染色用とする。「檳榔子」(びんろうじ)と書くと、ビンロウの果実を指すが、ここでは、それ。本種は本邦では産しないが、薬用・染料とするため、奈良時代の天平勝宝八(七五六)年頃、輸入された記録が既にある。
「痰火《たんくわ》」熱があって痰が激しく出る病気。
「積熱《しやくねつ》」脾胃に熱が溜まっている状態を指す。
「三焦」既出既注だが、再掲すると、伝統中医学に於ける仮想の「六腑」の一つ「三焦」(さんしょう)。「上焦」・「中焦」・「下焦」の三つからなり、「上焦」は「心臓の下、胃の上にあって飲食物を胃の中へ入れる器官で、心・肺を含み、その生理機能は呼吸や血脈を掌り、飲食物の栄養分(飲食水穀の精気)を全身に巡らし、全身の臓腑・組織を滋養する器官とされる」とされ、「中焦」は「胃の中脘(ちゅうかん:本来は当該部のツボ名)にあって消化器官」とされ、「下焦」は「膀胱の上にあって排泄をつかさどる器官」とされる。因みに、所謂、「病い、膏肓に入る。」の諺の「膏肓」とは、この「三焦」を指し、これらが人体の内、最も奥に存在し、漢方の処方も、そこを原因とする病いの場合、うまく届けることが困難であることから、医師も「匙を投げる」部位なのである。
「五痔」複数回既出既注だが、再掲しておくと、東洋文庫の「丁子」の割注に、『内痔の脈痔・腸痔・血痔、外痔の牡痔・牝痔をあわせて五痔という』とあったが、これらの各個の症状を解説した漢方サイトを探したが、見当たらない。一説に「切(きれ)痔・疣(いぼ)痔・鶏冠(とさか)痔(張り疣痔)・蓮(はす)痔(痔瘻(じろう))・脱痔」とするが、どうもこれは近代の話っぽい。中文の中医学の記載では、「牡痔・牝痔・脉痔・腸痔・血痔」を挙げる。それぞれ想像だが、「牡痔・牝痔」は「外痔核」・「内痔核」でよかろうか。「脉痔」が判らないが、脈打つようにズキズキするの意ととれば、内痔核の一種で、脱出した痔核が戻らなくなり、血栓が発生して大きく腫れ上がって激しい痛みを伴う「嵌頓(かんとん)痔核」、又は、肛門の周囲に血栓が生じて激しい痛みを伴う「血栓性外痔核」かも知れぬ。「腸痔」は穿孔が起こる「痔瘻」と見てよく、「血痔」は「裂肛」(切れ痔)でよかろう。
「風《ふう》を動かし」漢方では、体の揺れ動く症状を言う。
「黃檗《わうばく》、知母《ちも》、無く」東洋文庫訳は、そのまま訳しているが、意味が判ってない! これは「黃柏」の誤りである! 「黃柏」はムクロジ目ミカン科キハダ属キハダ Phellodendron amurense の黄色い樹皮を乾した漢方生薬で、「八ッ目漢方薬局」の「黄柏(おうばく/キハダ)」を見ると、『化膿症や炎症のある場合に使用する外用薬の「中黄膏」には、オウバクが含まれている』。『漢方処方としては、虚熱(消耗性疾患における発熱)を清熱することを目標に(滋陰降火湯)、あるいは』、『ほてりなどの症状にも、知母』(☜)『などとともに配合されている(知柏地黄丸:知柏壮健丸』とある。則ち、補薬として、カップリングに外せないものであることを言っているのである。
「破故紙《はこし》」マメ目マメ科オランダビユ属オランダビユ Psoralea corylifolia の成熟果実を指す。「株式会社 ウチダ和漢薬」の「生薬の玉手箱」の「破故紙(ハコシ)/補骨脂(ホコツシ)」に以下のようにある。かなりの分量があるが、まさに、この「本草綱目」も引用されてあるので、全文を示す。
《引用開始》
「破故紙」は別名「補骨脂」とも称します。『本草綱目』には「補骨脂とはその効力を表した名である。胡人がこれを婆固脂と呼んだのを俗に訛って破故紙といったのだ」とあります。その由来について『図経本草』には「今は嶺外の山坂の地に多くある。四川、合州にもまたあるが、いずれも外国の舶来品の優良なるに及ばない」と、さらに「この物は元来外国から商船で輸入されるもので、中華には産せぬものだ」とあります。明らかに中国以外から導入されたことが分かります。原植物の形態について『本草綱目』ではまた、「この植物は茎の高さ三四尺、葉は小さくして薄荷に似ている。花は微紫色だ。実は麻子のようで円く平たくして黒い」と記載があります。これは現在のマメ科植物であるオタンダビユの形態と一致しています。
オランダビユは、その名称とは異なりインド、スリランカに自生している植物ですから、アーユルヴェーダ文化圏から導入された薬物ということになります。一年生草本で高さ 90 cm ほど、全草が黄白色の毛および黒褐色の腺点に覆われています。茎には縦の稜があり堅く、粗い鋸歯がある広卵形の葉を互生します。7月から8月には花が多数密集した総状花序をつけます。個々の花は蝶形で淡紫色か黄色です。花後にだ円形の豆果をつけます。豆果には宿存する萼があり、果皮は中にある1個の黒色の種子にはりついています。秋に果実が成熟した頃に果序を採取し、日干しにし、果実を揉み出し異物を除きます。この乾燥した果実が破故紙(補骨脂)です。
生薬は腎臓形でやや扁平、黒色から黒褐色で、長さ 3〜5 mm、直径 2〜4 mm、厚さ 1.5 mm で表面には微細な網状のしわがあります。薄い果皮の中には種子が1粒あります。古来、粒が大きく充実し、黒色のものが良いとされています。その薬効は、脾腎陽虚の要薬で、脾が陽虚で溏泄(泥状便のこと)し、腎が寒冷で精流するときに有効な薬物です。破故紙の腎を補い、陽を助ける力は、脾を暖める作用に優るとされています。病状としては、遺尿や頻尿、失精やインポテンツ、足腰の冷えなどに使用されてきました。
『図経本草』には「破故紙は今世間で多く胡桃と合わせて服するが、この法は唐の鄭相國から出たものだ」と、胡桃(クルミ)との配合が重要であることが述べられています。実際に破故紙と胡桃が同時に配合される処方には青娥丸(破故紙、胡桃、杜仲)や、唐鄭相國方(破故紙、胡桃肉)があります。『図経本草』では鄭相國の自叙を引用して破故紙の使用経験を紹介しています。すなわち「予が南海の節度史となったのは七十有五の年であったが、任地、越地方は卑湿のところで、ために身体の内外を傷め、種々の病気が俱発して陽気が衰絶し、乳石などの補薬あらゆるものを服したが、すべてその応験が見えなかった。(中略)不承不承に破故紙を服んで見ると、七八日経つとその反応が現はれて来た。爾来常に服しているが、その効力は誠に不思議なものである」とし、処方の作成方法も紹介しています。「破故紙十両を用い、皮を取り去って洗い、曝しついて細かに篩い、胡桃仁二十両を湯に浸し、皮を去り細かに研いて泥状にして、前述の粉末を入れ、良質な蜜で和し飴糖のようにして磁器に盛って、朝、昼この薬一匙を暖酒二合で調えて服し、飯を食って圧へる。若し酒を飲めぬ人ならば暖かい水で調えて用いる。久しきに互つて[やぶちゃん注:ママ。「互(わた)って」。]服すれば天年を延べ、気力を益し、精神を爽快にし、目を明らかにし、筋骨を補添する」とあります。破故紙と胡桃との関係については『本草綱目』でも「破故紙は神明を収斂し、よく心胞の火と命門の火とを相通じさせるので元陽は堅固になり、骨髄は充実し、渋で脱を治すとある。胡桃は燥を潤し血を養い、血は陰に属して燥を悪む。そこで油でこれを潤し、破故紙を佐ければ木火相生の妙がある。したがって破故紙に胡桃がなければ水母(クラゲ)に蝦(エビ)がないようなものであるという言葉がある」と、両者の組み合わせの重要性が記されています。我が国では使用される機会がほとんどない薬物ですが、これからの高齢社会には重要な薬物であるように思われます。
《引用終了》
「水母(くらげ)の、蝦(ゑび[やぶちゃん注:ママ。])、無《なき》がごとし。」東洋文庫訳の後注に、『水母と鰕』(=「蝦」=海産の「エビ」)『は共生し、蝦は水母の眼の役目をしてあちこち水母を誘導し、その代り水母の涎沫』(よだれ)『を飲んで生きている、という。』とある。但し、無論、この共生説は、誤りであり、クラゲ類(刺胞動物門ヒドロ虫綱 Hydrozoa・十文字クラゲ綱 Staurozoa・箱虫綱 Cubozoa・鉢虫綱 Scyphozoa)やホヤ(脊索動物門尾索動物亜門ホヤ綱 Ascidiacea)・サルパ(脊索動物門尾索動物亜門 タリア綱 Thaliaceaサルパ目 Salpidaサルパ科 Salpidae:この類は、一見、クラゲに見えるが、前のホヤ類同様、脊椎動物である魚類のすぐ前の高等な動物である。因みに、私はクラゲ・フリークであり、ホヤ・フリークである(「ホヤ伝道師」の資格も持っているノダ!))等に勝手に寄生している種群を指している。最も知られるものでは、節足動物門甲殻亜門軟甲綱真軟甲亜綱フクロエビ上目端脚目クラゲノミ(水母蚤)亜目 Hyperiideaのクラゲノミ類:当該ウィキを見られたい)や、節足動物門甲殻亜門軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目十脚目抱卵亜目コエビ下目タラバエビ上科タラバエビ科クラゲエビ属クラゲエビ Chlorotocella gracilis (名にし負う種だが、実際には、クラゲに寄生しているというのは、私は、見たことがない。サイト「海と島の雑貨屋さん」の「クラゲエビ」を見られたい)等を指す。
「白-癜-風(《しろ》なまづ)」尋常性白斑。小学館「日本大百科全書」によれば、『後天性の色素減少症の一つで、俗称白なまず。大小の類円形または不整形の完全脱色素斑で、白斑周囲の健常皮膚は色素増強を示すことが多いため境界ははっきりしている。脱色素斑部の毳毛(ぜいもう)(うぶ毛)または剛毛は、長期間存在する患部では白毛となることが多い。通常は自覚症状に乏しいが、ときにかゆみが先行したり、随伴することもある。好発部位はとくになく、全身至る所に発生するが、顔、胸、手背、腋窩(えきか)(わきの下)、外陰部、肘(ひじ)、膝(ひざ)などによくみられる。臨床的に身体の一部にだけ発症する限局型、一定の神経支配領域に一致して片側性に発症する分節型、比較的広範囲に散在する汎発(はんぱつ)型に分類される。原因については自己免疫説、神経障害説などがあるが、まだ定説はない。治療はソラレン療法、副腎』『皮質ホルモン外用療法などがあるが、難治であることが多い』とある。
「新六」「山がらのまはすくるみのとにかくに持ちあつかふは心なりけり「光俊」「新六」は「新撰和歌六帖(しんせんわかろくぢやう)」で「新撰六帖題和歌」とも呼ぶ。寛元二(一二四三)年成立。藤原家良(衣笠家良)・藤原為家・藤原知家(寿永元(一一八二)年~正嘉二(一二五八)年:後に為家一派とは離反した)・藤原信実・藤原光俊の五人が、寛元元年から同二年頃に詠んだ和歌二千六百三十五首を収録した類題和歌集。奇矯・特異な詠風を特徴とする。日文研の「和歌データベース」の「新撰和歌六帖」で確認した。「第六 木」のガイド・ナンバー「02430」である。本文にも良安が述べている「山がら」は、朝鮮半島及び日本(北海道・本州・四国・九州・伊豆大島・佐渡島・五島列島)に分布するスズメ目スズメ亜目シジュウカラ科シジュウカラ属ヤマガラ亜種ヤマガラ Parus varius varius(背中や下面は橙褐色の羽毛で被われ、頭部の明色斑は黄褐色)。本邦には他に限定地固有種亜種として以下の三種がいる。ナミエヤマガラParus varius varius namiyei(神津島・新島・利島(としま)固有亜種。背中や下面は橙褐色の羽毛で被われ、頭部の明色斑は淡黄色)・オリイヤマガラParus varius varius olivaceus(西表島固有亜種。頭部の明色斑は赤褐色で、背中は灰褐色、下面は赤褐色の羽毛で被われる)・Parus varius varius owstoni オーストンヤマガラ(八丈島・御蔵島・三宅島固有亜種。最大亜種で、下面は赤褐色の羽毛で被われ、頭部の明色斑は細く、色彩は赤褐色。嘴が太い)がいる。詳しい博物誌は、私の「和漢三才圖會第四十三 林禽類 山雀(やまがら) (ヤマガラ)」を見られたい。そこで、良安が、『好んで胡桃(くるみ)を食ひ、飽〔(くひあ)〕くときは、則ち、胡桃を覆(うつむ)け〔置き、後に〕飢〔うれば〕、則ち、之れを飜〔(ひるが)へして〕中の肉を啄む。』と記している。
「唐胡桃《たうくるみ》」種としては、前掲のカシグルミ(ペルシアグルミ)変種テウチグルミ(信濃胡桃) Juglans mandshurica var. sachalinensis を指す。
「山胡桃《さんこたう》」本邦では、オニグルミの別称だが、良安が言うようには、同一種では、ない。まず、中国の同種のウィキがないこと、さらに、同種の英文ウィキを見ると、『日本とサハリン原産のクルミの一種』とあるからである。
「欅(けやき)」これは、良安が本邦の話として言っているので、双子葉植物綱バラ目ニレ科ケヤキ属ケヤキ Zelkova serrata でよいのあるが、これは、大いに注意が必要である。何故なら、既に、「櫸」で述べた通り、現代中国語では、ケヤキを「榉树」(繁体字「欅樹」)とし、別名でも「櫸木」と書きはするが、時珍の時代のそれは、「ケヤキ」ではなく、現代の中文名を、「枫杨(繁体字「楓楊」)とし、別名は、「水麻柳」及び「榉柳」(繁体字「欅柳」)である、中国中南部原産の落葉高木である、
!★!双子葉植物綱マンサク亜綱クルミ目クルミ科サワグルミ属シナサワグルミ Pterocarya stenoptera
を指すからである! ウィキの「シナサワグルミ」によれば、『別名はカンポウフウ、カンベイジュ』で、『中国原産の落葉高木。雌雄同株で花期は』五『月頃、雄花は黄緑色、雌花は黄緑色で柱頭は紅色である』。『公園樹、街路樹として植栽される』とある。因みに、本邦に同種が渡来したのは、調べたところ、明治初期である。]