御酒(うさき)
明治時代の泡盛製造の酵母の唯一の生き残りから出来た、瑞泉酒造の幻の泡盛の名。昨日の朝日新聞日曜版で特集を組まれていたのをご覧になった方もあろう。
先に語った亡くなった友人に、最後に贈ったのもこの酒だったのだ。配送したことを、沖縄の子供たちが笑顔を浮かべて、海辺に立っている、モノクロの絵葉書で伝えた。その返事、
「心して、いただきます」
これが、僕への、彼の、本当に、最後の言葉になってしまったのだ。
その絵葉書が、彼の死後、彼の机の上にあった。細かな経緯は省く。そうしてそれが、僕にとっては分不相応の、彼の弔辞を読むということへと導いた。
今日、僕は、この酒を置いている、行きつけの酒屋に出向いた。何故だか、どうにもこの「御酒」を、あるだけ全部、買い占めずにはおれなかったのだ。
夕暮れ、何本もの「御酒」を抱えて、家への坂道を登ろうとした、その時、向かいの山で、蜩が、いい声(ね)を立てて、一声、高く鳴いた。
« 忘れ得ぬ人々 1 | トップページ | 人生という病 »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント