怪獣使いと少年
以下は、主に切通理作著「怪獣使いと少年」を参考に作成したレジュメである。
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上原正三脚本「帰ってきたウルトラマン 怪獣使いと少年」についての分析
・郷が報告する良少年の履歴
彼の父徳三は、北海道江差の漁師から、美山鉱山に鉱夫として移った。昭和38(1963)年、石油に取って代わられた鉱山も閉山、東京に職を求めて出稼ぎに出て、そのまま「蒸発」(当時の流行語であった)してしまう。翌年、母親は病死し、「良は叔父の家に引き取られ」「二年前に家出して行方不明」となっていたのである。まさしく良少年の家族は、高度経済成長の日本社会の歪みを一身に背負って破壊されたと言ってよい。
・良と老人
彼は父親を求めて東京へやって来て、怪獣に襲われる(このシーンは少年を襲った社会的歪みそのものの悪夢のメタファーのようにも思われる)。不思議な老人に救われ、河原のバラック(川崎の河原には朝鮮工場労働者の人々の集落がある)で奇妙な共同生活を始める。実はこの老人はメイツ(=「友人」)星から地球の風土・気候を調べるためにやってきた(これは侵略目的ではなく、地球が宇宙空間を汚染しているが故であろう)宇宙人であり、念力によって良を襲った怪獣ムルチを地下に閉じ込めたのである。良もそれを知っている。老人は「金山」と名乗り(在日朝鮮の人々が日本名としてよく用いる姓である)、川崎の工場で働いていた(鶴見・川崎には朝鮮や沖縄の人々があわせて、2万人近く住み、働いている。ちなみにムルチとウルトラマンの格闘にあって、気がついてほしいのだ、その格闘の場となるかの工場群は、『壊れない』のだ、いや、とても彼らの、血と汗する職場を壊すことは出来なかったのだ)が、工場の空気汚染によって公害病(高度経済成長の負の遺産)を患い、本来持っているサイコキネシス(念動力)を完全には使いこなせない。そのため、地球に来た際に地下に隠した宇宙船を掘り出すことが出来ない。良は、老人に代わってスコップで宇宙船を掘り出そうとしていたのだ。彼はつぶやく。
「地球は今に人間が住めなくなるんだ。その前に地球にさよならするのさ」
・大衆エゴと差別
老人を警官が撃ち殺す。これは関東大震災の朝鮮人虐殺とダブってくる。実際、戦後でも根も葉もないデマに乗せられた人々が暴徒と化して、川崎の沖縄の人々の集落を襲い、死傷者を出すという事件も起きている。
また、良をさいなむ少年達のシーンで見逃してはならないのは、「下駄」である。朝鮮の人々が「日本人野郎」というニュアンスで侮蔑的に使う言葉に「チョッパリ」という語があるが、これはブタの爪先が二つに割れた状態、「下駄を履いた足」のことなのである。かつて半島を侵略した日本人の象徴が朝鮮の人々にとって「下駄」であったのだ。
この作品の唯一の救いがあるとすれば、パン屋の娘であろう。君は、宇宙人かもしれないと、絶対多数が忌避する少年に、パン屋としてパンを売ることができるか、と作者は問いかけてくる。
・隠されたメタファー
ゴジラの時の様に、最後の種明かしをしよう。
●北海道出身の良少年=アイヌ[=原日本人にして差別された少数民族]のメタファー
●金山老人(メイツ星人)=朝鮮人[=言語的にも日本人と最も近しい友であるにもかかわらず未だに日本社会にあって言われなき差別の中にある民族]のメタファー
そして、工場地帯で泥まみれになって暴れ狂うのは、
●巨大魚怪獣ムルチ=ウチナンチュー[=沖縄人。「ムルチ」とはウチナーグチ(沖縄方言)で「魚」の意味である]のメタファー
怪獣との格闘と全て終わった後の虚空へと去るウルトラマンの映像を通してすべて雨が降り続けるというシチュエーションは、他にはない。これは、ただ生きるために蘇ったに過ぎない古代魚ムルチの涙であると共に、社会の理不尽さへの怒りを込めた郷の、金山老人の、そして少年良の涙に他ならない――
この作品は、如何にも苦い。しかし、それは僕等自身の肝の苦さなのである。
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