富永太郎「手」
おまへの手はもの悲しい、
酒びたしのテーブルの上に。
おまへの手は息づいてゐる、
たつた一つ、私の前に。
おまへの手を風がわたる、
枝の青虫を吹くやうに。
私は疲れた、靴は破れた。
***
終行の脚韻がいいね。「鬼火」で、アランが靴の埃を指でなぞりながら「何て悲惨な……」と言うのだが、DVD版では「悲惨な靴」と訳してあり、とてつもなく映画が分かっていない翻訳者であることに、怒りを通り越して、悲惨な気がしたのを思い出す。
富永太郎、大正15(1925)年、結核、享年24歳。鼻に入れられた酸素吸入器のゴム管を「きたない」と自ら引き抜き、死去した。Puer Aeternus!
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