電子テクスト初級編
「ああ。」
私はあわてて娘の片腕を拾うと、胸にかたく抱きしめた。生命の冷えてゆく、いたいけな愛児を抱きしめるように、娘の片腕を抱きしめた。娘の指を唇(くちびる)にくわえた。のばした娘の爪の裏と指先きとのあいだから、女の露が出るなら……。(川端康成「片腕」エンディング)
生きた女の右腕と老人の物語、晩年の素敵に奇体な小品。
毎日、自分の右腕を鬱々と凝と見るうちに、ふっと浮かんだ。
さて、これはしかし、著作権が存続しているはずだよね。ところが! ここで読めるんだ。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/novel/kawabatayasunari.html
「日本ペンクラブ:電子文藝館」は合法的に著作権存続作品を公開している重宝なサイトだ。
僕は、現在、邦文・欧文合わせて電子テクストだけで12GB以上のデータベースを自宅と職場に保持している。ネットを初めた直後からだから、6年かかった。
ではここで、僕が毎日巡回する電子テクストのページを紹介する。自分でテクストのデータベースを作るなら、これらは基本中の基本、初級編だ。海外サイトや、隠し部屋の違法な公開等の中上級編はまた後日に。但し、サイトによっては、リンクにうるさいので名称のみに留める。検索を使って自分で発見するのも第一歩だ。スクリプトの不具合や誤植を見つけて、管理者と仲良くしてみるのも面白いよ!
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「日本ペンクラブ:電子文藝館」(HTMLのほかに、PDF版もある。青空文庫とは一線を画す、と館長秦恒平は言ってるな)
「青空文庫 新規公開作品」(ちょっと権威になりかけてるが、電子テクスト公開の草分け。ここを知らなきゃモグリだ)
「泉鏡花文庫『鏡花花鏡』」 (日々更新で新聞小説のように鏡花を追体験しよう。管理者はシュッツ好きの大変誠実な方)
「綺堂事物-岡本綺堂案内」(綺堂へのこだわりでは敵なし。まさにキドーワールド!)
「宮沢賢治の童話と詩 森羅情報サービス」(銀河の星のように存在する賢治サイト、でも、ここで決まり! 最近できた保存しても使える縦書き表示機能も嬉しい)
「網迫の日記」(マニアック。僕もよく知らない作家の単品が、日々続々時秒刻みでアップ! アップ! アップ! 僕はRDF/RSSでメールから更新を確認している)
「うわづらをblogで」(大学の先生の。原本の雰囲気を楽しめ、保存も一瞬。同様のものに国立国会図書館の画像ライブラリがあるが、あれは何だか読むのも保存も気が遠くなる。RDF/RSSあり)
「やまとうた 更新情報(ホームページ制作メモ」(和歌のデータベースは大学や研究所に数多あるが、ここが何より見やすく、纏まっている。この方、同じ鎌倉在で、blogも結構好きだ)
「J-TEXTS掲示板質問箱」(更新された古典テクストを確認するにはこのページをお気に入りにしておくのが便利)
「Web漢文大系」(最近更新が遅いけれど、中国台湾のサイトを除外すると、僕は中文系のテクストとしては国内サイトで最も丁寧着実だと思う)
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さあ、あなたも、ネットの電子テクスト世界に旅立とう!
さっき、蝉が右腕にとまった。思わず、振り払ったら、尺骨に激痛。蝉にまで馬鹿にされちゃあ、もうお終いだな。
今日はこっそり、ある友人の演奏したCDを無断で聴いている。怒られるかな……
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