忘れ得ぬ人々 3
初めての海外旅行は丁度、今頃のペルーだった。マチュピチュとナスカを見て、僕は有頂天、天上天下唯我独尊状態だった。
旅の最後に、チチカカ湖を訪れた。浮島のウロス島では、最大級のトトラ(蘆船。ミニチュアでも長老の作った1メートルのもの)を買い、喜び勇んでいた。
夕暮、チチカカ湖畔を散策すると、青藻の生臭い臭いのする岸辺に、小さな本当に小さなアドベ(日干し煉瓦)造りの小屋がある。僕等が近づくと、子供の豚が一杯、走って出てきた。
僕は豚小屋だと思った。しかし、その後から、民族衣装に身を包んだ、少女が現れた。
「名前は?」
「パッシーサ」
「幾つ?」
「11歳」
あんなに美しい笑顔の少女に逢ったことは、金輪際、もう永遠に、ない。どうしても写真が撮りたかった。
失礼と思いながら、持っているのはガムしかなかった。それを、彼女にあげた。
暫く、少女は去ってゆく僕等を笑顔で送りながら、小屋に入った。
すると、小屋の小さな小さな窓が開いた。
お父さんらしき人が、
「セニョール! グラシアス!」
と声を限りに叫んだ。
僕は、何だかひどく哀しかったのだ。
パッシーサ、あなたは今、どうしていますか?
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