のびてゆく不具 大手拓次
のびてゆく不具 大手拓次
わたしはなんにもしらない。
ただぼんやりとすわつてゐる。
さうして、わたしのあたまが香のけむりのくゆるやうにわらわらとみだれてゐる。
あたまはじぶんから
あはうのやうにすべての物音に負かされてゐる。
かびのはえたやうなしめつぽい木霊が
はりあひもなくはねかへつてゐる。
のぞみのない不具(かたは)めが
もうおれひとりといはぬばかりに
あたらしい生活のあとを食ひあらしてゆく。
わたしはかうしてまいにちまいにち、
ふるい灰塚のなかへうもれてゐる。
神さまもみえない、
ふるへながら、のろのろしてゐる死をぬつたり消しぬつたり消ししてゐる。
« Chega de Saudade | トップページ | 乃木坂倶樂部 萩原朔太郎 »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント