萩原朔太郎「虚無の鴉」「我れの持たざるものは一切なり」
虛無の鴉
我れはもと虛無の鴉
かの高き冬至の屋根に口を開けて
風見の如くに咆號せむ。
季節に認識ありやなしや
我れの持たざるものは一切なり。
我れの持たざるものは一切なり
我れの持たざるものは一切なり
いかんぞ窮乏を忍ばざらんや。
獨り橋を渡るも
灼きつく如く迫り
心みな非力の怒に狂はんとす。
ああ我れの持たざるものは一切なり
いかんぞ乞食の如く差爾として
道路に落ちたるを乞ふべけんや。
捨てよ! 捨てよ!
汝の獲たるケチくさき名譽と希望と、
汝の獲たる汗くさき錢を握つて
勢ひ猛に走り行く自動車の後
枯れたる街樹の幹に叩きつけよ。
ああすべて卑穢なるもの
汝の非力なる人生を抹殺せよ。
***
「氷島」より。こうして読むと、「虚無の鴉」はデュシャンの大ガラスだな。
小学生の頃、学校帰りに友と別れると、何度も何度もさよならを互いに言い続けた。今も、その癖が抜けない。では、ずいぶん、ごきげんよう!
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