内田光子のシューベルト
女性のピアニストには偏見があった。僕にはアルゲリッチも中村も、僕が若き日に好きだったショパンの、その楽想の深い根の部分に触れることは、彼女たちの演奏では、残念ながら皆無であった。
ちなみにショパンは「バラード第1番 ト短調 作品23」が一番のお気に入りだが、これはミケランジェリの演奏にとどめを刺す。人気のない山奥の、青沼の、水面に極めてゆっくりと広がる水輪の幻影である。
ところが昨日、行きつけのレコード店で、ふと内田光子のシューベルト即興曲集作品90&142を買った。プロデューサーがその余韻に涙したというコピーに、不覚にも惹かれたことは否めないが、メジャーな90の「第2番 変ホ長調」を聴いた途端に、これはと思った。 120は終曲へと向かう淀みなき、めくるめくタッチと、「第4番 ヘ短調」での毅然とした表情と、絶妙の間が素晴らしい。これは文句なしにお薦めの一枚である。
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