バルンガ
今日の総合学習では、円谷ウルトラシリーズ等を用いた文明・差別批評を講義することにしていた。台風で未だに警報が発令されており、どうなるか分からぬので、せっかく作ったその資料を先立てて公開しておく。
*虎見邦男脚本「バルンガ」奈良丸博士の台詞を中心として
(シナリオ決定稿より部分抜粋。実際の映像とは異なる部分がある。なお一部、表記を改めた)
*
29 倉庫のある河岸
万城目「失礼ですが、奈良丸明彦博士では?」
老 人「(答えず)せがれが、海で死んだものでな、こうして供養しておる。死にぎわに風船が欲しいとぬかしよった……ハハハ……」
由利子「あなたは、あの怪物について何かを知っていらっしゃるのでは?」
老 人「怪物? バルンガは怪物ではない。神の警告だ。」
万城目「神ですって?」
老 人「君は洪水に竹槍で向かうかね? バルンガは自然現象だ。文明の天敵というべきか。こんな静かな朝は又となかったじゃあないか……この気狂いじみた都会も休息を欲している。ぐっすり眠って反省すべきこともあろう……」
由利子「反省すれば救われるというのですか?」
老人答えない。
風船を空へ放し、見送っている。
老 人「どうやら、台風がくるようだ」
*
30 病院の病室
万城目「皆さん、あきらめてはいけない。台風が近づいているんだ。きっとバルンガを吹き飛ばしてくれる」
老 人「神だのみのたぐいだ」
由利子「(むっとして)病人を力づけるために云ってるんだから、いいじゃないの!」
老 人「科学者は気休めは云えんのだよ」
由利子「じゃ、あなたは矢張り奈良丸博士?」
老 人「(急に強い眼の光りで)だが、たった一つ望みがある……(自分に)わしは風船を飛ばした時、なぜこれに気づかなかったのか?」
*
38 病院の屋上
医者達が空を眺めている。
医者A「完全に敗けたよ。台風のエネルギーを喰つちまった」
医者B「まさに、英雄といった感じだよ」
医者C「おれは田舎に帰って、百姓でもしたくなった」
その背後に来てひっそり立った人物。
老 人「(独白のように)間もなく、バルンガは宇宙へ帰る」
振り向く三人。
例の老人である。
39 空
はるか空の一点で、眼のくらむような輝きがひろがる。
老人の声「北海道から発射したミサイルが、宇宙空間で核爆発を起こしたのだ……」
バルンガの触手、にわかに動いて空を指す。次の瞬間、空中の核爆発を目指して昇り出すバルンガの巨体。
*
40 病院の屋上
由利子「一平君も助かるわ、でも、バルンガは核エネルギーをたべて、又もどって来ないかしら?」
奈良丸「その心配はない。核爆発で誘導したから本来の食物に気づいたはずだ」
万城目「本来の食物?」
奈良丸「太陽だよ」
バルンガと核爆発をむすぶ線の彼方に太陽が輝いている。
奈良丸「生命にはいろんな形がある。バルンガは宇宙空間をさ迷い、恒星のエネルギーを喰う生命体なのだ。おそらく衛星ロケット・サタン一号が地球へ運んで来たのだろう。(自分に言い聞かせるように)二十年前には隕石にのってやって来た……」
万城目「博士の名誉はこれで挽回されます」
奈良丸「サタン一号には、私のせがれが乗っていた。いづれにしても、私には縁の深い怪物だったといえる」
*
42 空
奈良丸「バルンガは太陽と一体になるのだよ。太陽がバルンガを食うのか。バルンガが太陽を食うのか……」
由利子「まるで禅問答ね」
スピードをあげて昇るバルンガ。
その正体も次第に小さくなってゆく。やがて太陽とぴったり重なって八方へのびた触手がコロナのように輝いて見える。
43 エンディグ
(F・O)
終
***
注:完成作品のエンディングにある、石坂浩二の名ナレーション
「明日の朝、晴れていたらまず空を見上げてください。そこに輝いているのは太陽ではなく、バルンガなのかもしれません。」
はシナリオにはない。撮影時に、監督が付け足したものと思われる。翌日、1966年3月14日は北海道の一部を除き快晴、小学校4年生だった僕も含めて、沢山の子供たちが空を見上げたはずだ)
*
何度読んでも、虎見の台詞は惚れ惚れするほど、グンバツだ!
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