宿木 伊東靜雄
宿木 伊東靜雄
冬のあひだ中 かれ枯れた楢の樹に
その一所だけ青んでゐたやどり木の
おまはこの目に區別もつかずに、
すつかりすつかり梢は緑に燃えてゐる。
何故(なぜ)にまた冬の宿木(やどりぎ)のことなど思ふのか。
外部世界はみんな緑に燃えてゐる。
數へ切れないほどの子供らが
花も過ぎた野薔薇のやぶで笑つてゐる。
そしてわたしの戀人はとうの昔
ひとの妻になつてしまつた。
疾うの昔に などとなぜ私は考へるのか。
いゝえ、あのひとにもわたしにも
やつと今朝青春は過ぎて行つたところだ。
窓邊につるした玻璃壺に
あはれに花やいだ金魚の影は、
はつきりとそのことを私につげる。
*
これはもう、タルコフスキイの「鏡」そのものではないか!
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