真鶴の思い出
もう一つ、骨折ばかりで忘れていた。
真鶴の海洋学習の思い出を二つ、忘れないうちに記しておく。
ウミフクロウ(Pleurobranchaea japonica)の卵塊
ウミウシの一種(背楯目)であるが、卵塊を見たことはなかった。岩塊とその下の砂地の間から、少しだけ姿を出している状態で、満潮に揺れているため、何でしょうという生徒に、ユムシか、ミズヒキゴカイの触手ではないかと言ったものの、触れてみると、通常の環形動物のそれなりの質感としての体制が感じられない。手で切断を試みるも、瓢箪なまず状態で、なかなか切れない。奮闘の末、数センチをちぎり取る。直径5ミリ、透明な円柱状ゼラチン質の中に、螺旋状の規則的な、極めて小さい白い粒状の物質が整然と入っている。生体の生物ではなく、何らかの卵と推測したところ、国大の教授が丁度そこにやってきて、ウミフクロウの卵塊であることを教えてくれた。綺麗な列をなしたもので、ネット上で幾つか検索してみたが、あれほどに美しいものは見つからない。産卵直後のものであったのだろう。
ウミフクロウ(グーグル画像検索。以下同じ)
フクロムシ( Succulina sp.)とショウジンガニ( Plagusia dentipes )のこと
午後、折れた腕を吊って、実習所に戻ると、生徒達は実習室で観察を行っていた。ショウジンガニをスケッチしている生徒と話をすると、教授からフンドシの形状差による雌雄判別を教わったらしく、痛く感激していたので、フクロムシの話をしてやった。カニと同じ甲殻動物(蔓脚類)ながら、袋状の特異なこの生物は、蟹のフンドシの下に、極めて寄生種に特化した形で寄生する。メスは自分の卵だと思いながら、産卵行動をとるが、そこで放出されるのは多量のフクロムシの幼生である。更に特に雄に寄生すると、雄は雌に性転換(厳密には形態行動上の著しい雌化)をしてしまうのである。流石に、これには、生徒も流石に「ウソーでしょ! 先生?」だった。先日、報告書に資料を付けてやった。
「腕は折った」が、海洋博士の「腕も鳴った」一日だったのだ。
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