倦んだ病人 伊東靜雄
倦んだ病人 伊東靜雄
夜ふけの全病舍が停電してる。
分厚い分厚い闇の底に
敏感なまぶたがひらく。
(ははあ。どうやら、おれは死んでるらしい。
いつのまにかうまくいつてたんだな。
占めた。ただむやみに暗いだけで、
別に何ということもないようだ。)
しかしすぐ覺醒がはつきりやつて來る。
押しころしたひとり笑い。次に咳き。
*
この終行は、入院生活をした者でないと、決して実感は湧かぬであろう。
そうして、しかし、ボードレールの言う如く、「人生は病院である」。凡庸に。
「人生は病いである」と言い切らなかった彼は、やはりアランの軽蔑するただの麻薬中毒者だったのか。
それでも、「女は宿命的に暗示的である」という彼のカルテは、ノーベル医学賞ものだろう。