停止――兄への日記Ⅰ―― 藤森安和
停止――兄への日記Ⅰ―― 藤森安和
通行人が停止し、停留所でない所に、バスが止まり、バスから人が、何やら、慌てた様子で二三人と降りてきた。停止した通行人たちは、何が何やらわからぬままに、だんだんと人垣をつくり始めた。
私は、何もわからぬままに、首を右に左に回しながら、路上に血でもついていないかと見渡した。何もないままに、私は人垣をわけて、人垣を後にして、去った。
(1960年 荒地出版社刊 藤森安和「十五歳の異常者」より~但し、奥付表示は「15歳の異常者」とある)
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詩人と同じように、僕もバスを、降りた。しかし、同じように、誰も僕に、何が起きたかを、決して話してはくれなかった。だから、僕も、人垣を分けて、人垣を後にして、去ることにする。