牡蠣を剥く
夕刻、妻が大きな殼付牡蠣を10個買つて來た。吾輩の腕の事等考へもぜずに買ふたと言ふ。而して剥けるかと聞く。吾輩は滅法生牡蠣が好きである。獨身の頃醉つて二十五個剥いて喰ひ掌を傷だらけにして翌日下痢をしても懲りない程好きではある。しかしこの右腕で剥けるかと言はれるとはたと惱んだ。最近、時々刺身等を捌いてはゐるが自信は全くない。しかし「背に腹は代へられぬ」(この古事成句の使い方は微妙に正しくはなからうとも思ふが)である。嘗ては素手で平氣でやつてゐたが不自由な上に生傷はたまらぬから右腕にのみ軍手をした。コツは忘れてをらなんだ。何事もなく前と變わらぬスピイドで剥き上げられた。初物ではないが、病んだるこの腕を振るつたと思へば、頗る美味かつた。少しだけ、嬉しい氣がした。

