龍之介と朔太郎の対話
龍之介「君は僕を詩人でないと言つたさうだね。どういふわけか。その理由をきかうぢやないか?」
朔太郎(心内語)『復讐だ! 復讐に來やがつた。』
龍之介「君は僕を詩人でないと言つたね。どういふわけだ。も一度說明し給へ。」
朔太郎「要するに君は典型的の小說家だ。」
龍之介「君は僕を理解しない。徹底的に理解しない。僕は詩人でありすぎるのだ。小說家の典型なんか少しもないよ。」
朔太郎「文学上の主張に於て、遺憾ながら我々は、敵だ。」
龍之介「敵かね。僕は君の。」(淋しげな笑ひ)
龍之介「反對に……君と僕ぐらゐ、世の中によく似た人間は無いと思つて居るのだ。」
朔太郎「人物の上で……或は……。でも作品は全くちがふね。」
龍之介「ちがふものか。同じだよ。」
朔太郎「いや。ちがふ。」
龍之介「僕は君を理解してゐる。それに君は、君は少しも僕を理解しない。否。理解しようとしないのだ。」
*
これは、萩原朔太郎「芥川龍之介の死」の第11及び12章直接話法部分に、少し手を加えたものであり、原文とは異なる。
但し、その二人の印象的な対決の場面は、概ねこうであったと考えてよい。
そうしてこれは、最初に提示した第13章の最後の別れへと続くのである。
この随筆、僕は、龍之介の詩的文学観と、朔太郎という男の精神構造(こちらは彼の文学観ではない)を考える上で、極めて興味深い資料であると思っている。
少しずつ、気長に打ち込んでゆく予定。多分、今夜には……。