芥川龍之介の死 萩原朔太郎 終章全文
朔太郎は正しく予見している。そうして、そこで遂に朔太郎は龍之介をかの「さびしい人格」の無二の友として、その茫々たる山頂の墓に、ただ無言に抱きしめるのだ……
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見よ! この崇高な山頂に、一つの新しい石碑が建つてる。いくつかの坂を越えて、遠い「時代の旅人」はそこを登るであらう。そして秋の落ちかかる日の光で、人々は石碑の文字を讀むであらう。そこには何が書いてあるか?
見る者は默し、うなづき、そして皆行き去るだらう。時は移り、風雪は空を飛んでる。ああ! だれが文字の腐食を防ぎ得るか、山頂の空氣は希薄であり、鳥は樹木にかなしく鳴いてる。だが新しき季節は來り、氷は解けそめ、再び人々はその麓を通るだらう。その時、ああだれが山頂の墓碑を見るか。多數の認識の眼を超えて、白く、雲の如く、日に輝いてゐる一つ義(ただ)しき存在を。