朔太郎の答え
しかしながら神にならずして、だれが真に完全に、自分自身の主人になり得るか。(芥川龍之介の死 萩原朔太郎 第15章より)
*
これは勿論、芥川が久米正雄に残した公的遺書としての「或旧友へ送る手記」末尾への朔太郎の答えである。しかし、その答えの何とすがしく毅然としていることであろう!
*
附記。僕はエムペドクレスの傳を讀み、みづから神としたい慾望の如何に古いものかを感じた。僕の手記は意識してゐる限り、みづから神としないものである。いや、みづから大凡下の一人としてゐるものである。君はあの菩提樹の下に「エトナのエムペドクレス」を論じ合つた二十年前を覺えてゐるであらう。僕はあの時代にはみづから神にしたい一人だつた。