笑えない三丁目の夕日
西岸良平の「三丁目の夕日」は、30年代に生まれ育った者にとって、無視できない存在である。漫画愛好家には、恐らく、その「サザエさん」に共通する無菌性に嫌悪するバイアス如何で、愛憎半ばするであろう。僕は素直に好きである。思わず、映画記念の4巻セットの話を、同僚に聞いた。大船の書店を捜したが、ない。気軽に彼に頼んだ。彼は「いいですよ。今日にでも子供とまだあるか見てきます。」と言ってくれた。
頼んで暫らくして、ふと気がついた。彼には小学生の男の子と女の子がいる。逢ったこともあるが、二人とも可愛い。普段、彼の話を聞くと、僕はいつも彼の代わりに三日でいいからお父さんになってみたい気がするほど、楽しい団欒なのだ。しかし、その二人と、彼がそれを買いに行く情景を思い浮かべた時、僕は思ったのだ。その子供達の気持ちを考えたら、これはもう悲しい「三丁目の夕日」じゃあないか!
その後僕は、失礼と思いながら、彼にもう一つ、と頼んでいた。彼らへのささやかな、やぶちゃんからのクリスマスプレゼントとして。
一昨日、彼が買ってきてくれた。職場から持って帰るのには、右腕で重量物を全く持てない僕には、ちょっと冒険の重さであった。
案の定、昨日の朝、左腕の腕首の筋がいかれていた。今も、痛くてシップしている。
愚かに、右腕だけでなく、「たかが」(この括弧は勿論「たかが」と思っていない僕の意思表明である)漫画本を運んで、左腕までもおかしくした自分が、ふにゃっとしたまあるい顔で、枯葉散る、冬空の寒々とした中、汚れたへのへのもへじと「立小便禁止」(勿論鳥居の書かれた)が描かれてある板塀の前で、雫型の涙を流している…これも「三丁目の夕日」の最終コマにありそうな絵柄ではあった……
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