芥川龍之介 蜜柑
芥川の中でも、僕が偏愛し、恐らく最も朗読し甲斐のある「蜜柑」。Web上では、正字歴史的仮名遣版は公開されていないので、「やぶちゃんの電子テクスト:小説篇」に置いた。底本は岩波版旧全集。
ダルなモノクロームから、スローモション、そして鮮やかなオレンジのクロースアップ、一瞬に転換するラストシーン……主人公の鼻の先だけ暮れ残る残照、僕には、「年末の一日」以上に、この小品が、何故か芥川の晩年のイメージにあるのが不思議だ。勿論、この作はずっと若い折、結婚直後、28歳、海軍機関学校時代の経験(「新潮」発表時は、「沼地」と共に「私の出遇つた事」という題であった)であるが。
鎌倉を離れたのは、我が人生の一生の不覚であったと芥川が語った、文との新婚の頃の体験である。
ちなみに、僕の実家は鎌倉の大町にあり、横須賀線の直ぐ脇なのだが、その庭から見える目と鼻の先に、芥川の新婚時代の家はあった。