養子夢
昨夜、僕は矢原という医師の家に養子に行く夢を見た。それは海沿いの、眼科の医師であった。時代がかったホーロー引きの看板に、赤い色で眼科と書いてあるのであった。うららかな春陽の中、ランドセルを背負った少年の僕は、養父母とその看板を見上げているのであった……。
覚醒後、丸一日経っても、「矢原」という姓にも、その養家の夫婦にも、場所にも、まるで見覚えがない。僕は勿論、養子ではないし、養子に行く話も当然のごとくなかった――
ただ不思議に、その寡黙な夫婦の、優しいが寂しそうな表情が、今も瞼の裏に残っているのである……。

