村上昭夫 犬
犬 村上昭夫
犬よ
それがお前の遠吠えではないのか
また荒野の呼び声と伝えられる
月に向って吠えるのだと言われる
それがお前の不安な遠吠えなのではないか
お前の遠吠えする声の方向に
死なせるものや愛させるもの
別れさせるものが
目も眩むばかりにおいてあって
お前はそれを誰も知らない間に
密かに地上に呼んでいるのではないか
だがお前はひるになると
まるでそしらぬ顔をして
尾をふったり飛びついたり
愛くるしい目をむけたりする
真実忠実な犬でしかないように
嘘の姿を見せるのだ
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トップ詩を交換した。勿論、来年の干支にちなんだが、そこは、素直に選ばない。しかし、村上昭夫の語り口は、誰にも真似が出来ないほどに、透明で哀しく、美しい。