忘れ得ぬ人々 10 今日の少年
歩いていると、小学生の一団と一緒になった。三人が前を歩いていて、少し遅れた独りが寂しそうに後をついていた。前の三人の真ん中は、値の張るダウンジャケットに身を包んだ生意気な小太りのガキらしく、如何にもえげつない笑い声を上げながら、「ひろこだろ、まゆだろ……」。女の子の名前を声高に喋っている。今日、チョコレートをもらえる女の子の名か……。ふと、横を見ると、その遅れて歩いている、薄手のセーターを着た子は、両手をポケットに突っ込みながら、路上の石ころを、ぽんと蹴ったのだった……僕は、その時、この少年に無性にチョコレートを上げたくなったのだ……。