岡田先生へ
今日で最後の、リハビリの岡田先生、ありがとう。
淡々と施療することは一つの鉄則です。
精神科医は患者とのラポートの状態が生じて、3年、長くても5、6年もすると、他病院に転勤するという話を聞きます。
患者と擬似的な親しそうな関係を作ることは、決して、治癒にいい効果をもたらさない。
あなたは、患者のメンタルな部分に関わるのは苦手だとおっしゃいましたが、いいえ、あなたは医師として(ここで、きっぱりと言っておかねばなりません。あなたは医師であり、作業療法士も理学療法士も、いや、私は看護師や病院に勤務する諸々の人々は「医師」と呼称されねばならないと思います。そうした総体なしに「医」というものは成り立ちません)、僕の生涯の中で、忘れ得ぬ名医でした。
整形外科の主治医の先生よりも、です。
私の腕は、80パーセント止まりの復元ですが、私の魂の復元は、120パーセントです。
最後に一言だけ。
IDカードの写真は、新たにお撮り直しなさい。
今の方が、数十段、美人です。
――カッチーニの「アヴェ・マリア」を聴きながら――
(この曲、機会があったら是非、聴いて下さい。私の好きな曲なのです。これが、半年の間、施療とは言え、中年のむくつけき不快なお喋りな私の腕を触り続けねばならなかった貴女への、私のささやかな御礼です。)

