蛸の墨またはペプタイド蛋白
イカスミは料理に使用するが、蛸の墨はタコスミとも言わず、料理素材として用いられることがないことが気になった。ネット検索をかけると、蛸の墨には、旨味成分がなく、更に甲殻類や貝類を麻痺させるペプタイド蛋白が含まれているからと概ねのサイトが記している。
では、それは麻痺性貝毒ということになるのであろうか(イカ・タコの頭足類は広い意味で貝類と称して良い)。一般に、麻痺性貝毒の原因種はアレキサンドリウム属のプランクトンということになっているが、タコのそのペプタイド蛋白なるものは如何なる由来なのか? 墨だけに限定的に含まれている以上、これは蛸本来の分泌物と考える方が自然であるように思われる。ただ、そもそも蛸の墨は、イカ同様に敵からの逃避行動時に用いられる煙幕という共通性(知られているようにその使用法は違う。イカは粘性の高い墨で自己の擬態物を作って逃げるのであり、タコは素直な煙幕である)から考えても、ここに積極的な「ペプタイド蛋白」による撃退機能を付加する必然性はあったのであろうか。進化の過程で、この麻痺性の毒が有効に働いて高度化されば、それは積極的な攻撃機能に転化してもおかしくないようにも思われる。しかし、蛸の墨で、苦しみ悶えるイセエビとか、容易に口を開ける二枚貝の映像は見たことがない。また、蛸には墨があるために、天敵の捕食率が極端に下がっているのだという話も聞かない。
更に、このペプタイド蛋白とは何だ? 化学が専門の知人にも確認したが、ペプタイドとペプチドはPEPTIDという綴りの読みの違いでしかない。しかし、更に言えば、彼女も首をかしげたように、「蛋白」という語尾は不審だ。そもそも、ペプチドはタンパク質が最終段階のアミノ酸になる直前に当たる代謝物質なのであって、アミノ酸が数個から数十個繋がっている状態を指すのであってみれば、この物言いはおかしなことになる。彼女は、「その繋がりが、もっと長いということかしら?」と言っていたが、僕も、煙幕が張られているようで、どうもすっきりとしない。調べるうちに、逆に蛸壺に嵌ってしまった。