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2006/06/16

月光の女

「やぶちゃん版芥川龍之介句集五 手帳及びノート・断片・日録・遺漏」に、昭和四十八(1973)年短歌新聞社刊佐野花子・山田芳子「芥川龍之介の思い出」の佐野花子による「芥川龍之介の思い出」より、驚きの純然たる新発見句6句を含む、15句を追加した。この本は30年前に入手し、読んだのだが(私の祖母が、著者の一人である佐野花子の娘、山田芳子氏と短歌でのつながりがあったようで、大学生の時に祖母に譲ってもらった)、今回再読して、その内容に大きな衝撃を受けた。何故、長くこの本の存在を忘れていたのだろう。
 芥川龍之介の「或阿呆の一生」に現れる「月光の女」のイメージの一人は、というよりもその核心に立っている女は、間違いなくこの佐野花子である。この佐野花子の「芥川龍之介の思い出」は、夫の友人であり、残念な事件によって心ならずも縁が絶えた有名作家の思い出、ではない。夫を前にしながら、芥川龍之介という男に惹かれ、同じように夫ある美女に惹かれてゆく芥川龍之介という、秘やかな恋人への驚くべきオードである。彼女の、それなりの自信に満ちた叙述は、多くの反論を浴びているが、私は、彼女の叙述に、致命的な誇張や変形はないと思う。何より、冒頭を飾る佐野夫妻の写真を見ても、分かる。彼女は、恐らく、芥川に関わった女性たちの中でも、超弩級の美形である(御覧になりたければ、著作権上の問題があるので、私的に添付ファイルでお示ししよう)。そうして逆に、その社会的地位から見るならば、最も地味な位置に立っている。その話題性のなさが、今まで彼女が多く語られなかった所以であろう。宇野浩二の「月光の女」への指摘は、確かに、悉くこの佐野花子へのベクトルを示しているように思われる。
 私は、長く「或阿呆の一生」の「二十八 殺人」の芥川が「殺せ。殺せ。………」と呟くところの、「如何にも卑屈らしい五分刈の男」がシルエットになっていて顔が見えないことが、気になっていた。僕には、今日それが、誰あろう、この佐野花子の夫、佐野慶造であるという確信に近いものを感じているのである。
 もう一つ。この「芥川龍之介の思い出」の中に現れる、芥川龍之介の「佐野さん」という作品の所在である。
 これは、海軍機関学校時代の友人であったはずの物理教官の佐野慶造への、実名での中傷文であった。年代が書かれていないが、雑誌「新潮」に掲載されたとある。海軍機関学校側の抗議により、芥川は学校と佐野に謝罪するという事件に発展している。私は迂闊にも、この事件について全く、知見を持っていなかった。佐野夫妻も当時、芥川のこの異常なる行為に、困惑したことを綴っている。それでも、佐野は芥川との交際を続けようとしたが(花子は勿論である)、芥川はそこで完全に関係を断っている。この事件は、芥川の恐ろしいまでの嫉妬心の表われと見る花子の推測は、私には正しいと思われる。
 ところが、この「佐野さん」なる文章は、如何なる全集にも所収していない(新全集は未確認)。佐野花子は「あの文を覚えている人、所持している人もないのではございますまいか。あれば解っていただけると思います。」と記しているのである。どなたか、この文章をお持ちの方はいないだろうか? 国立国会図書館に行けば、「新潮」のバックナンバーで調べられるであろうが、生憎、そのような暇がない。是非、お持ちの方は、お教え願いたいのである。

(追記:この幻の作品については2007/2/1のブログ『芥川龍之介の幻の「佐野さん」についての一考察』で、僕なりに到達したある考察を追記した。参照されたい。)

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