梛
雌雄異株の常緑高木針葉樹。別名、コゾウナカセ、チカラヒバ 、ベンケイナカセとも言う。左にその葉を示す(今夏、紀州新宮の街路樹から採取した実物をスキャン)。広葉樹のような葉であるが、葉脈が竹のように平行し、通常の植物の葉に見られる葉柄からの中肋がなく、側方へと分岐する側脈もないのがお分かり頂けるだろう。その体制と別名を考え合わせれば、梛の民俗は、容易に分かろう。他にも「凪」とも書き、普通に自生する近畿地方以西では航海の安全を祈願する木、紀州熊野三山や伊勢神宮では神聖なる禊の木として用いられており、春日大社ではその果実から採った油を御神燈の油として用いていたこともあるという。こちらでは、移植されたものが鎌倉鶴岡八幡宮等でも見られるが、やはり自生の北限とされる伊豆山神社まで足を運びたい。ここは結ばれる前の源頼朝と北条政子が度々密会した場所でもある。まさに梛効果は抜群だったわけだ。開幕後は箱根と合わせてニ所詣として将軍家尊崇の場となった。実朝はここへの参詣の途次、「はこねぢをわがこえくれば伊豆の海やおきのこじまに浪のよるみゆ」(『続後撰和歌集』)と詠んだ。彼がここから見晴るかした海原……それはあのウルトラQの「鳥を見た」の少年の悲しい視線だったのだと、僕は思うのである。