館野泉 樅の木
夕刻、とあるテレビ番組で、館野泉が4年前に脳溢血により、右腕の機能を一度、喪失したことを知った。
僕のような大凡夫でさえ、右腕の骨折によって人生、捨てたくなった。
ピアニストにとってそれは、自身の来るべき死よりも恐ろしい体験であったことは、言を待たないであろう。
彼の左手だけのコンサートが最後の映像だった。アンコールで、彼は妻にも明かさなかったリハビリを重ねた右腕も使った曲を弾く。
僕は涙が止まらない。
僕も、大凡夫としてやれることをやることを、なさねばならぬ。
館野泉……この10数年の中で、出逢った数少ないクラシックの名演の一つは、確かに、彼のシベリウスの「樅の木」であったことを、僕は思い出す。
ありがとう、館野さん。