村上昭夫忌 お母さん 村上昭夫
お母さん 村上昭夫
お母さん
海の音を聞かして下さい
海の貝殻の音を
母という名を聞かして下さい
私は思い出す
二億年ばかり前のこと
あなたが二億年変わらない海だった日を
ひろびろと広がるあなたのなかに
可憐な三葉虫の姿が
奇蹟のように生まれていた日のことを
私は思い出す
それからの火や泥の世界のことを
試みられていた愛のつぶつぶが
氷河よりも固く凍ってしまった
永い暗かった時間のことを
お母さん
その時あなたのなかに鳴り続けた
小さな貝殻の終わりのない音が
どんなにやさしくて強かったか
今日も波が寄せています
とても永かったあなたの疲労のように
貝殻がさやさや鳴っています
お母さん
あなたの音を聞かして下さい
あなたの白い貝殻の音を
静かに聞かして下さい
(1968年刊 思潮社「動物哀歌」 より)
*
今日は、せめてこれを写して、出て行こう。
*
ご存知でない方のために、村上昭夫氏の実弟の方が、「村上昭夫資料室」というサイトを創っておられることを述べておこう。やはり同じ血をひかれるアーティストであられる。ご親族ならではの写真群、美事な朗読、村上昭夫本人の肉声(!)、そうして碑の序幕の日の「クロ」のエピソードは、「動物哀歌」の詩人の確かな不思議な「何か」を感じさせるではないか。
ただ、今後は、こうした引用も控えなければならないかな……。
――僕としては、この正統な著作権者の資料室に、村上昭夫という稀有の純粋な詩人のテクスト・データが、順次公開され、多くの方に彼を知ってもらうことを願ってやまない。何よりも、若い人々に彼を読んでもらいたいということ以外に僕の悲願はないのである――

