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2006/10/17

ナマコ・クイズ解答篇

 

今日までに10人がメールやブログで答えてくれたが、少し難題だったようだ。アクセス解析で既にクイズを見る人がいなくなったので、そろそろ潮時だ。平均正答率は6問中2.6問。解説を附す。なお、今日も僕は、お疲れだ。この正解は作問時に用意しておいたもので、もう少し補足したいけれど、もう、疲れた。おやすみ♡

読み終わるのが惜しい本というのが必ず一冊や二冊、その人の読書経験の中にはあるものである。かつての僕の同僚は、トーマス・マンの「死の山」を挙げた。僕なら、そうだなあ、高校時代に読んだ、ルイ・フェルディナン・セリーヌの「夜の果ての旅」と答えようか。

否。先週来、僕は一冊の本を読み終わるのが誠に惜しかったのだ。その本を読むのを、行き帰りの通勤途中だけに限ったのも、その実、読み終わりたくなかったからである。それほどに僕を魅了したのは、残念ながら、小説ではない。そうして、あなた方がこれを読んでも、決して僕のようなエクスタシーは味わえないことも保証するのだが。

2003年阪急コミュニケーション刊行の本川達雄他編の「ナマコガイドブック」である。国内で出版される海岸動物の著作物は、専門書も含めて相当に読んできたつもりが、この本を3年もの間、知らずにいた不明を恥じるものである。
本川氏はご存知の向きも多いと思うが、ベストセラー「ゾウの時間ネズミの時間」の作者であり、歌う生物学者としてメジャー(?)である。本書でも、二曲のナマコと棘皮動物の歌が、楽譜入りで披露されている(どうもベニクラゲ研究の京大白浜臨海実験場の久保田信氏といい、海洋動物学者には歌が似合う?)。
そう多くない既刊のナマコの関連書(を読んでいる僕も変だ)の中では、最もコンパクトでありながら、最も不得要領部分が少なく、且つ新知見に富んだ名著である(この手の専門家による叙述は、突然、意味不明な専門用語を用いたり、チャートの図示に意味不明の箇所があったり、一番困るのは最初に定義した原則を外れる例を平気で示したりと、馬鹿だから緻密に読む進めしかない素人は、困窮することが多々あるのである)。
しかし、何故に、僕はこの本を手にしなかったかが、今さらながら、分かったのである。それは、ダイバー向けの写真中心の図鑑であるTBSブリタニカの一連のガイドブック・シリーズ(ウミウシなんぞは「3」まで出ているが、ひたすら写真である)と、装丁も活字もそっくりである! 書店でも一緒に並んでいるが、騙されてはいけない! これは写真図鑑ではないのだ!(しかしその中の写真は今までの如何なるナマコの生態写真より美事であることも保証する)
今回の「帰ってき臨海博士 ナマコ・クイズ」はこれを読み終えて「しまった」惜しさの中、余韻がらみで作ったものである。従って、本書での新知見が多く含まれる。
……しかし、諸君の中には不気味に思う者もいるであろう。そうだ、僕の頭蓋骨の中では――泥酔したナマコが芥川龍之介を片手にジャズを聴きながら俳句をひねっているのだ……

(1)答え 4m50cm
現在までに報告されている世界最長のナマコは、奄美大島に固有とされるクレナイオオイカリナマコ Opeodesoma (?) sp.(イカリナマコ科)の観察個体で、本書の写真を担当されている楚山いさむ氏が見つけた。実に4m50cm、太さは10cmに達する。本書の写真で見る限り、さすがの私も、実際に遭遇したら、そのおぞましさに、てっきりUMAだと思ってビビること間違いない。なお、本種のイカリという名称は、その骨片(問三参照)に由来する。対表面直下に分布するこの小さな(約0.1mm)碇型骨片が、海底を蠕動する際に引っかかるようになっている。まさに「碇」なのだ!

・同属の Opeodesoma grisea の碇型骨片 Opheodesoma_grisea

 

 

クレナイオオイカリナマコの捕食行動の動画


(2)答え 5000g(=5㎏)
現在までに報告されている世界最重量のナマコは、沖縄、マダガスカル、オーストラリア、ニューカレドニア、グアム、中国に分布するアデヤカバイカナマコThelenata anax H.L.Clark(シカクナマコ科)の観察個体で、重量5㎏、長さ1mで、体内に寄生魚であるカクレウオ(体長20cm)が3匹入っていたとある。

アデヤカバイカナマコ


(3)答え 2 内骨格
棘皮動物の本来の呼び名は、刺状の石灰質の板状・片状の骨を持つ。ところがこれは、中胚葉由来であり、ウニやヒトデの棘が一見、体表面に見えても、薄い表皮を被っているので、これは立派に内骨格と呼ぶべきである(海岸動物の本やネット上の一部サイトでは広い意味で外骨格と呼ぶとする記載があるが、これは間違いである)。但し、多くのナマコの場合は、石灰質の「骨片」という顕微鏡大のものとなって、体壁の中に埋まっている。従って、ナマコの食材としてのカルシウム含有量は意外に高いのだ。

(4)答え 約60日後(マナマコの例)
僕はかつて、授業で2~3週間と言ったね。これは、ナマコの腸管の再生で、どうも内臓総体の完全な再生には、倍はかかるらしい。しかし、大阪府立水産試験場のページには売れない大きすぎるナマコから何度もコノワタ用の腸管を吐き出させるという(!)おぞましい記載には、「2週間」と記されているので、あながち誤りでもなかったかな。

(5)答え 3 チョウセンニンジン
この化学成分はサポニンと総称される、トリペルテノイドのオリゴ配糖体である。沖縄で見た、あのニセクロナマコの吐き出したキュヴィエ管にこのサポニン(ホロスリン)が多量に含まれている。キュヴィエ管は粘着という物理的な攻撃のみでなく、化学兵器としての役割をも担っているわけだ。なお、マナマコのホロトキシンは人体には無害である。ところが、このサポニンは、朝鮮人参の主要薬効成分としても知られるのである。これは、目から鱗なのである。何故なら、ナマコは中国では「海参」と呼ぶ。これはただ形態上のミミクリーからの命名では決してないであろう。恐らく、本草学者は、両者に共通した漢方の薬効成分を経験上、認知していたのである。ちなみに、それ以外の選択肢にも、全て有毒成分があること、知っているかな? ヒガンバナは当然ながら、アワビやシジミも、驚天動地の有毒成分を立派に持っていることをご存知かな? アワビは致命的ではないが、猫の耳ぐらいは落ちるのだ?! シジミの生体の保有するそれはマウスがコロと逝くんだよ! この話は、地獄の毒物博士マッド・ヤブとして、そのうち再登場した時に、ね!

(6)答え 1・5
1 塩分の極めて薄い汽水域で生活すること。×
ナマコは全て海産である。理由は、体の柔硬をつかさどるキャッチ結合組織とイオンの関連らしいが、不明。カイメンやクラゲは淡水にもいるのにね。

2 腸で呼吸すること。○
ナマコは肛門から吸い込んだ海水を呼吸樹という器官でガス交換している。その他、半分は体表や管足から吸収している。肛門の内側は総排泄腔と呼ぶが、これは腸が膨らんだものである。従って、腸で呼吸するという言い方は、必ずしも不適切とは言えず、正解である。魚類でもドジョウなどの腸呼吸が有名だね。

3 管足を筋肉によって収縮すること。○
それぞれの管足にはちゃんと収縮するための筋肉が付いている。ところが、だ。伸ばすための筋肉は、付いて、ない。じゃあ、どうやって伸ばすのかって? これが、棘皮動物独特の全身に張り巡らされた水管系システムなんだ。管足はその基部にびん嚢という風船状の部位があり、そこから水をポンプのように管足に送って(この時、水か送り込まれている水管系を逆流しないように灯油のポンプよろしくちゃんと弁が働くのだ!)伸ばすのである! 筋肉の消費エネルギーを最低まで抑えた省エネ構造なのだ。

4 口と肛門の前後の半分に切断されても再生できること。○
どちらからも再生可能。但し、口の方の半分だと再生に失敗する可能性が高いとある。これは呼吸樹や総排泄腔等の生命維持に必要な器官が、実は体の後半分にあるからであろうか。なお、ナマナコの場合で3箇月以上かかるとある。

5 左右縦方向の半分に切断されても再生できること。×
今回の新知見だが、これは本川先生、はっきりと「再生しない」と書いてある。まさに一刀両断で、解説がないのが、やや不満。

6 飼育下において何ヶ月も全く餌を与えないでも生きていること。○
一部の養殖ナマコを除いて、餌さえも良く分からないというのが本音のようだが、餌をやらなくても1年以上生きている、随分、ちっちゃくなっちゃったけどね、と本川先生。そりゃ、ないよ。

(6)答え 2→4→5→3→1
これは、口のある管足の多い口側面とその反対の反口側面の関係で見ると、極めて分かりやすい。
固着性で捕食行動が管足による懸濁物濾過食であった生きた化石であるウミユリから、その「花」が海底に落ち、ベントスとして、まさに足として管足を用いた最初がヒトデである。その腕をスリムにして運動性能を挙げたのがクモヒトデで、逆にそうしたヒトデの水管系に水が入って風船のように反り返りながら膨らんで、さらに太い腕が相互に癒着したもの――それがウニである。そのウニが反口側面の肛門を横倒しにし、キャッチ結合組織で、驚くべき柔軟な体を手に入れた時、ウニの針はなくなり、管足による横になった移動性能を進化させた(やや大雑把ではあるが、誤りではないと思う)。
これは分子生物学のリボソームRNAの塩基配列解析からも実証されている順番である。実を言うと、かつて僕は、漠然と、種が少なく、スマートで遠慮がちなクモヒトデをヒトデの原型と考えていた。どうも見た目は分からんもんだ。

 

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