芥川龍之介 槐 附 久米舊交囘復のくさびに
芥川龍之介「槐」及び「久米舊交囘復のくさびに」を正字正仮名で「やぶちゃんの電子テクスト:小説・評論・随筆篇」に併載して公開。一見異なったテクストを併載した理由は、注を参照されたい。
芥川龍之介「槐」の方は、俳句絡みということで掲載したが、実は僕は槐という木が、というかその名前、というか、その漢字が好きなのである。
槐 Sophora japonica には、因縁がある。
高校1年生の時に、アウトローに入り浸っていた喫茶店の名前が「槐」だった。煙草を外で吸わないなら、ここで好きなだけ吸えと言うおばちゃんが経営者だった。こんな不良になりきれない青年の相談役(不良の元締めみたような悪婆は多いが)になってくれる気骨あるおばちゃんは、いや、絶えて久しい。ここの御蔭で、僕は15歳で「えんじゅ」が読めて、それがマメ科の巨木であることを知った。
高校2年の時に、耽溺していた六朝や唐代の伝奇小説で、「槐の精」に出会った。樹齢長く、巨木なればさもありなんと合点したのが16の時だ。
そうして、どこであったか忘れたが、20の時に、これが槐という木を東京のどこかで見上げていた記憶がある。……
……それから更に20年後、敦煌からの帰りに立ち寄った北京で、僕は、芥川龍之介の見た、槐を見たのであった……「えんじゅ」とは不思議に神秘的な発音ではないか……