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2007/02/06

僕の兄は静岡空港建設反対に殉じた

やぶさん、ありがとうございました。
男の友情、かくあるべし、そんな付き合いのできる人と出会えて、幸運でした。
私は弱い人間です。小さな人間です。でも強く大きくなることも出来るのです。
それを本当に願いさえすればいいのです。

男が男であるためには、一つのボーダーを越えねばなりません。
こういった考え方自体、否定されつつある現代ですが、
今はまだ、そんな恵まれた時代ではありません。

やらねばならない事を、やるしかないのです。
私はその選択をしました。

本当に、ありがとうございました。

これは今朝、慌しい朝の出勤前に、 僕が受け取ったメールの冒頭であった。送り主は団塊の世代の、ネット上で知り合った未だに面と向かって逢ったことはない「兄貴」からであった。芥川龍之介や萩原朔太郎が好きな電気屋さんだ。

……僕は、この冒頭の後に記された彼の実録小説を読み、その面白さから、是非彼のHPでアップされることを薦める返事をしたためた。彼は、いろいろな市民活動に関わって、果敢に怒りに満ちた行動をとっていたから、また新たな闘争へと向かうのかしらと思いつつ、しかし、その言葉使いの奇妙さは気にかかったまま、送信ボタンを押して、出勤した。……

……先程帰宅し、彼の知人からのメールで、彼が自死したことを知った――

今、その理由が静岡空港建設反対への身を賭した死であったことを報道記事で知った――

少なくとも、このメールに記された小説[やぶちゃん2007年2月12日追記:【後記】↓を必ず参照されたい。]に、そうした仄めかしは、全く記されてはいなかった――しかし、その最初に示したメールの冒頭や末尾の言葉の覚悟の言い回しに、その自死の決意を感じ取れなかった僕は愚そのものである――

僕は、ともかく茫然自失した――何故?! と叫びたかった――誰に?!  向かって?!……いや、あなただ! 僕を含めたあなた方、皆が、その怒りの、自身が発した言葉の木霊を受けるのだ!!!

既に兄の死を知って2時間が過ぎた……何かを言わねばならぬ。

僕は、今、三島由紀夫の自死を笑った自分を、全く別な意味で嫌悪する。そうして、三島の死への揶揄に怒りを持って唾棄した澁澤龍彦の気持が、今、僕には、はっきり分かる。僕は非力な僕として僕なりに言わねばならぬ。兄のために。兄の優しき最後の言葉に答えねばならない。

馬鹿正直に本当に馬鹿正直に一本気に生きた いのさんよ
せめて僕と一杯ぐらいやってほしかったよ 
何デオイテユクンダヨ……僕タチヲ……

*********************

焼身自殺 静岡県庁前で 空港建設に抗議

6日午前3時50分ごろ、静岡市葵区追手町の県庁別館北側の歩道で、「黒い煙と火柱が立っている」と通行人の男性(57)が119番通報した。消防署員が消火し、成人男性の焼死体を確認した。近くに止めてあった原付きバイクの前かごから静岡空港建設に反対する内容の知事あての抗議文などが見つかった。県警静岡中央署は焼身自殺とみて調べている。
 調べによると、死亡したのは静岡空港建設予定地の元地権者の一人で、静岡市葵区与一4、自営業、井上英作さん(58)。遺体付近にライターが落ちており、ガソリン臭がした。バイクの前かごから、知事あての抗議文のほか、産廃放置問題への対応を批判する市長あての抗議文が見つかった。井上さんの自宅玄関には「お世話になりました」などと書かれた張り紙があったという。
 現場は市中心部の官庁街。当時は人通りはほとんどなかったという。(毎日新聞2月6日17時6分配信)

*********************

彼の僕への最後の手紙となったメールの送信時刻は同日午前3時13分だった――

【後記 2007年2月12日追記】

ここで再度申し上げておく。このメールに記された、彼の小説について、何人かの方から内容を問うメールを頂いた。が、これ、「フィリピーナ・ラプソディー」(この題名は既に彼のHPで述べられている)は彼の馬鹿正直で純粋なラヴ・ストーリーであり、読みながら、微笑ましくなるようないい作品である。彼の今回の自死と、この小説との間に何かを求めようと思っている方がいるとすれば、はっきりと申し上げておく。「全く、120%、無縁である」。そうして、その公開に関しては、いのさんの「必要と認めた時」という条件もついている。その権利は、僕ともう一人の方だけに任されている。僕は勿論、そう任された者の一人としての義務を背負っていると認識しているつもりである。現在、(今この追記を書いているまさに瞬間!)この「義務」にある進展が見られそうな素敵な連絡があった。このことについては、暫く、お時間を頂きたい。

井上英作「フィリピーナ・ラプソディー」

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