緑の子らへ1 村上昭夫 愛さねばならない
あと二日で君たちの僕が送るべきだった卒業がやってくる。
僕は何も言う資格がないことは分かっている。
済まなかった。
僕もこのおぞましい面を下げて、平然と君たちを送る場に、のこのこ出て行くことが出来るほどには鉄面皮ではない。
僕は少し離れたところにいるが、心は君たちを送る思いで一杯だ(これは僕の人生の中で多分、数少ない誰にも表明したことのない驚くべき正直な気持である)。
まず、君たちに朗読したかった詩を、贈ろう――
*
愛さねばならない 村上昭夫
この広い世界の何処かの
何処かにいるその人を
私は愛さなければならない
私が叫びようもなく叫んだ時
叫びもどしようもない私の叫びに
答えてくれたその人を
私が凍えた暁の野を歩んでいた時
捕らえようもない私の悲しみの前を
私よりもいち早く行ってくれた
その人を
ああ億万年を深く鋳込まれた星座のなかから
遠い私の記憶を捜し出すように
失われてしまった
私を思い出すように
今はげしくむせび泣きをしながらも
私はたった一人のその人を
愛さなければならない
*
……ディヌ・リパッティのBachのコラール前奏曲ハ短調……
……タルコフスキイの“SOLARIS”……
……「私はそれほど軽薄に思われているんですか。それほど不信用なんですか」……
……「あなたは本当に真面目なんですか」……
……「よろしい」……「話しましょう。私の過去を残らず、あなたに話して上げましょう。その代り……。いやそれは構わない。」……
……木犀の香りがする僕の、淋しくも美しい君らとの夢が、そこには、ある……

