栗本丹洲「栗氏千蟲譜」巻十 全
栗本丹洲「栗氏千蟲譜」の巻十(末尾にある後記、跋、所有者の識は僕の海産生物に特化した翻刻という主旨とは無関係なので省略した)を「やぶちゃんの電子テクスト:小説・評論・随筆篇」に公開した。これで、海産生物関係の「千蟲譜」はすべて翻刻を終えた。耳鳴りと眩暈の中でも、充実感は、ある。
僕の充実感とは何か?
僕は別に、僕のこの杜撰な作業(少なくとも生物同定に関して言えば、門外漢の僕の仕儀は杜撰以下とも言われよう)に学術的な価値があろうなどとは到底思っていない。但し、こんな誰にでも出来ることを、誰もまともにやろうとしていない以上、それ以下でも以上ない、試みの端緒としての価値はあるであろう。そうして、まさに、そのようなものに触発されて、海の生き物に喜びを持つところの「遂に逢はざる」若者が、一人でも生まれてくれれば、それで本望である。僕は、小学生の時に買ってもらった海の生き物の図鑑を、本当に、本当に,ぼろぼろになるまで繰り返し読み続けた。
「僕」は、かつてのちっぽけな「僕」のような、それでいて生き生きと眼を輝かせていた「飢えた僕」のような「僕」に、これを捧げたいのである。