花賣 伊良子清白
花賣 伊良子清白
花賣娘名はお仙
十七花を賣りそめて
十八戀を知りそめて
顏もほてるや耻かしの
蝮に儼まれて脚切るは
山家の子等に験あれど
戀の附子矢に傷かば
毒とげぬくも晩からん
村の外れの媼にきく
昔も今も花賣に
戀せぬものはなかりけり
花の蠱はす業ならん
市に艶なる花賣が
若き脈搏つ花一枝
彌生小窓にあがなひて
戀の血汐を味はん
*[やぶちゃん注:以下、底本準拠総ルビ。]
花賣(はなうり) 伊良子清白
花賣娘(はなうりむすめ)名(な)はお仙(せん)
十七花(はな)を賣(うり)りそめて
十八戀(こひ)を知(し)りそめて
顏(かほ)もほてるや耻(はづ)かしの
蝮(はび)に嚙(か)まれて脚(あし)切(き)るは
山家(やまが)の子等(こら)に験(げん)あれど
戀(こひ)の附子矢(ぶすや)に傷(きづゝ)かば
毒(どく)とげぬくも晩(おそ)からん
村(むら)の外(はづ)れの媼(おば)にきく
昔(むかし)も今(いま)も花賣(はなうり)に
戀(こひ)せぬものはなかりけり
花(はな)の蠱(まど)はす業(わざ)ならん
市(いち)に艶(えん)なる花賣(はなうり)が
若(わか)き脈搏(みやくう)つ花一枝(はなひとえ)
彌生(やよひ)小窓(こまど)にあがなひて
戀(こひ)の血汐(ちしほ)を味(あぢは)はん
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これを以て僕は明日から山に入る。絶不調の山入、残念なことに山神に魅入られぬようならば、また生きて逢おう。