秋和の里 伊良子清白
秋和の里 伊良子清白
月に沈める白菊の
秋冷まじき影を見て
千曲少女のたましひの
ぬけかいでたるこゝちせる
佐久の平の片ほとり
あきわの里に霜やおく
酒うる家のさゞめきに
まじる夕の鴈の聲
蓼科山の彼方にぞ
年經るおろち棲むといへ
月はろばろとうかびいで
八谷の奥も照らすかな
旅路はるけくさまよへば
破れし衣の寒けきに
こよひ朗らのそらにして
いとゞし心痛むかな
*[やぶちゃん注:以下、底本準拠総ルビ。]
秋和(さ〔あ〕きわ)の里(さと) 伊良子清白
月(つき)に沈(しづ)める白菊(しらぎく)の
秋(あき)冷(すさ)まじき影(かげ)を見(み)て
千曲少女(ちくまをとめ)のたましひの
ぬけかいでたるこゝちせる
佐久(さく)の平(たひら)の片(かた)ほとり
あきわの里(さと)に霜(しも)やおく
酒(さけ)うる家(いへ)のさゞめきに
まじる夕(ゆふべ)の鴈(かり)の聲(こゑ)
蓼科山(たでしなやま)の彼方(かなた)にぞ
年經(としふ)るおろち棲(す)むといへ
月(つき)はろばろとうかびいで
八谷(やたに)の奥(おく)も照(て)らすかな
旅路(たびぢ)はるけくさまよへば
破(や)れし衣(ころも)の寒(さむ)けきに
こよひ朗(ほがら)らのそらにして
いとゞし心痛(こころいた)むかな
[やぶちゃん注:「く」の字型の踊り字の濁音は正字に直した。衍字は取り消し線で示した。]
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