月光日光 伊良子清白
月光日光 伊良子清白
月光の
語るらく
わが見しは一の姫
古あをき笛吹いて
夜も深く塔の
階級に白々と
立ちにけり
日光の
語るらく
わが見しは二の姫
香木の髄香る
槽桁や白乳に
浴みして降りかゝる
花姿天人の
喜悦に地どよみ
虹たちぬ
月光の
語るらく
わが見しは一の姫
一葉舟湖にうけて
霧の下まよひては
髪かたちなやましく
亂れけり
日光の
語るらく
わが見しは二の姫
顏映る圓柱
驕り鳥尾を觸れて
風起り波怒る
霞立つ空殿を
七尺の裾曳いて
黄金の跡印けぬ
月光の
語るらく
わが見しは一の姫
死の島の岩陰に
青白くころび伏し
花もなくむくろのみ
冷えにけり
日光の
語るらく
わが見しは二の姫
城近く草ふみて
妻覓ぐと來し王子は
太刀取の耻見じと
火を散らす駿足に
かきのせて直走に
國領を去りし時
春風は微吹きぬ
*[やぶちゃん注:以下、底本準拠総ルビ。]
月光日光(げつくわうにつくわう) 伊良子清白
月光(げつくわう)の
語(かた)るらく
わが見(み)しは一(いち)の姫(ひめ)
古(ふる)あをき笛(ふえ)吹(ふ)いて
夜(よ)も深(ふか)く塔(あらゝぎ)の
階級(きざはし)に白々(しらじら)と
立(た)ちにけり
日光(につくわう)の
語(かた)るらく
わが見(み)しは二(つぎ)の姫(ひめ)
香木(かうぼく)の髄(ずゐ)香(かを)る
槽桁(ふなげた)や白乳(はくにう)に
浴(ゆあ)みして降(ふ)りかゝる
花姿(はなすがた)天人(てんにん)の
喜悦(よろこび)に地(つち)どよみ
虹(にじ)たちぬ
月光(げつくわう)の
語(かた)るらく
わが見(み)しは一(いち)の姫(ひめ)
一葉舟(ひとはぶね)湖(こ)にうけて
霧(きり)の下(した)まよひては
髪(かみ)かたちなやましく
亂(みだ)れけり
日光(につくわう)の
語(かた)るらく
わが見(み)しは二(つぎ)の姫(ひめ)
顏(かほ)映(うつ)る圓柱(まろばしら)
驕(おご)り鳥(どり)尾(を)を觸(ふ)れて
風(かぜ)起(おこ)り波(なみ)怒(いか)る
霞立(かすみた)つ空殿(くうでん)を
七尺(せき)の裾(すそ)曳(ひ)いて
黄金(わうごん)の跡(あと)印(つ)けぬ
月光(げつくわう)の
語(かた)るらく
わが見(み)しは一(いち)の姫(ひめ)
死(し)の島(しま)の岩陰(いはかげ)に
青白(あをしろ)くころび伏(ふ)し
花(はな)もなくむくろのみ
冷(ひ)えにけり
日光(につくわう)の
語(かた)るらく
わが見(み)しは二(つぎ)の姫(ひめ)
城(しろ)近(ちか)く草(くさ)ふみて
妻(つま)覓(ま)ぐと來(こ)し王子(みこ)は
太刀取(たちとり)の耻(はぢ)見(み)じと
火(ひ)を散(ち)らす駿足(しゆんそく)に
かきのせて直走(ひたばせ)に
國領(こくりやう)を去(さ)りし時(とき)
春風(はるかぜ)は微吹(そよふ)きぬ
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朝の天気はよい。体調も少し復した。では、随分、ごきげんよう。