旅行く人に 伊良子清白
旅行く人に 伊良子清白
雨の渡に
順禮の
姿寂しき
夕間暮
霧の山路に
駕舁の
かけ聲高き
朝 朗[やぶちゃん注:一字空けはママ。]
旅は興ある
頭陀袋
重きを土産に
歸れ君
惡魔木暗に
ひそみつゝ
人の財を
ねらふとも
天女泉に
下り立ちて
小瓶洗ふも
目に入らむ
山蛭膚に
吸ひ入らば
谷に藥水
溢るべく
船醉海に
苦しむも
龍神臟を
醫すべし
鳥の尸に
火は燃えて
山に地獄の
吹嘘聲
潮に異香
薫ずれば
海に微妙の
蜃氣樓
暮れて驛の
町に入り
旅籠の門を
くゞる時
米の玄きに
驚きて
里に都を
説く勿れ
女房語部
背すりて
村の歴史を
講ずべく
主 膳 夫[やぶちゃん注:二箇所の一字空けはママ。]
雉子を獲て
旨 き 羹[やぶちゃん注:二箇所の一字空けはママ。]
とゝのへむ
芭蕉の草鞋
ふみしめて
圓位の笠を
頂けば
風俗君の
鹿島立
翁さびたる
可笑しさよ
*[やぶちゃん注:以下、底本準拠総ルビ。]
旅行(たびゆ)く人(ひと)に
雨(あめ)の渡(わたし)に
順禮(じゆんれい)の
姿(すがた)寂(さび)しき
夕間暮(ゆふまぐれ)
霧(きり)の山路(やまぢ)に
駕舁(かごかき)の
かけ聲(ごゑ)高(たか)き
朝 朗(あさぼらけ)[やぶちゃん注:一字空けはママ。]
旅(たび)は興(けう)ある
頭陀袋(づだぶくろ)
重(おも)きを土産(つど)に
歸(かへ)れ君(きみ)
惡魔(あくま)木暗(こぐれ)に
ひそみつゝ
人(ひと)の財(たから)を
ねらふとも
天女(てんによ)泉(いづみ)に
下(お)り立(た)ちて
小瓶(こがめ)洗(あら)ふも
目(め)に入(い)らむ
山蛭(やまひる)膚(はだ)に
吸(す)ひ入(い)らば
谷(たに)に藥水(やくすゐ)
溢(あふ)るべく
船醉(ふなゑひ)海(うみ)に
苦(くる)しむも
龍神(りゆうじん)臟(むね)を
醫(いや)すべし
鳥(とり)の尸(かばね)に
火(ひ)は燃(も)えて
山(やま)に地獄(じごく)の
吹嘘聲(いぶくこゑ)
潮(うしほ)に異香(いかう)
薫(くん)ずれば
海(うみ)に微妙(びみやう)の
蜃氣樓(かひやぐら)
暮(く)れて驛(うまや)の
町(まち)に入(い)り
旅籠(はたご)の門(かど)を
くゞる時(とき)
米(こめ)の玄(くろ)きに
驚(おどろ)きて
里(さと)に都(みやこ)を
説(と)く勿(なか)れ
女房(にょうぼ)語部(かたりべ)
背(せな)すりて
村(むら)の歴史(れきし)を
講(こう)ずべく
主(あるじ) 膳 夫(かしはで)[やぶちゃん注:二箇所の一字空けはママ。]
雉子(きじ)を獲(え)て
旨(うま) き 羹(あつもの)[やぶちゃん注:二箇所の一字空けはママ。]
とゝのへむ
芭蕉(はせを)の草鞋(わらぢ)
ふみしめて
圓位(ゑんい)の笠(かさ)を
頂(いたゞ)けば
風俗(ふうぞく)君(きみ)の
鹿島立(かしまだち)
翁(おきな)さびたる
可笑(をか)しさよ