智の増殖!
「松江一中20期WEB同窓会・別館」様から、「松江連句」(「やぶちゃん版芥川龍之介句集二 発句拾遺」所収)についてのご指摘を頂いた。特に後者には手が震えた(痛みのせいではない)。早速に、肩の痛みも忘れて改訂した。
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〔丶〕 馬頭初めて見るや馬潟(まがた)の芥子の花 阿
[やぶちゃん注:「馬潟」の読みについて「松江一中20期WEB同窓会・別館」を運営されている知人から、「まかた」と読むのが現地では一般的と伺った。このルビは芥川が附けたものと思われ、濁音よりも清音が本来である日本語から言っても正しくは、「まかた」であると注記しておきたい。]
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直山
〔○〕 蕨など燒く直山の煙火かな 井
[やぶちゃん注:当初私は無批判に、この「直山」は、石見銀山の産地であった御直山(おじきやま)と呼ばれた代官所直営の操業地のことを言うか、等と言う好い加減な注を附していた(石見銀山では場所が合わない!)。その後、この「直山」について、極めて大切な情報を入手した。「松江一中20期WEB同窓会・別館」を運営されている知人からの指摘である。以下にそのメールの一部を引用する。
これは「眞山」のことではないでしょうか? 少し後に、「再 眞山」、さらに「三度 眞山」とありますが、それ以前には「眞山」がなく、この「直山」しかないようです。眞山は松江の市街地の北側にあって、市民に親しまれている山です(私は登ったことがないのですが……)。井川と芥川も登っています(『翡翠記』57ページ)。また、「定福寺」と「三度 眞山」に出てくる定福寺やそこの梵妻の話も『翡翠記』の同じ場所に出てきます。
気がつかなかった! 一応、私のタイプミスかもしれないと思い確認してみたが、岩波版新全集は確かに「直山」としており、他はすべて「真山」である(私のポリシーで旧字に変換してあるが)。これは間違いなく芥川か井川の「真山」の誤記もしくは新全集編集上の誤植である。井川が出身地の地名を誤記することは考えにくいから、誤記(または誤転写)したのは芥川龍之介である可能性が高い。更に言えば、本作が山梨県立文学館所蔵の原稿から起こされたものである以上、旧字の「眞」と「直」の類似性からも新全集編者の判読ミスも充分ありうると思われる。言わば、最新の岩波版新全集の校訂を、この知人と私はやったことになる。快哉!]
最後の一文で僕の感謝と喜びを分かって頂けると思う。僕のこの地味で非力な作業でも、誰かが、きっとふと立ち止まって、見てくれるんだな……そうしてそこから、智は、鮮やかに僕らを越えてやすやすと増殖してゆくのだ!
ちなみに、最初の芥川の句の「馬頭」は「めづ」と読ませている。馬頭観音と思われる。また、後の井川の句の「眞山」は「新山」とも書き、「しんやま」と読むようだ。
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なお、「松江一中20期WEB同窓会・別館」様はそのリンク集「あっ、みっけ~~」にも、僕の「鬼火」をリンクして下さった。このサイト、松江に関心のある方なら、きっと面白いと思う。セピア色の写真を見るだけでも、僕なんか、うるうるきてしまうのだ。